《恋は欲張り》
―仁王視点―
学校へ行くと教室近くの廊下でブンが矢倉と話をしているのが見えた。
遠くてなにを話しているかはわからなかったがブンの様子が素っ気ないのはわかった。
常に元気なブンがそんな風なのは珍しい。アイツらしくなかった。
もしかして昨日のことを引きずっているのか。だとしても俺は悪くなか。
矢倉が好きだという報告を受けていないからじゃ。
「(早いもん勝ちなわけではないが…)」
そうこう考えているうちにブンが俺を振り返り見ると足を早め、教室へ向かっていった。
避けられているようにも感じたが…俺はそれを呆然と眺めている矢倉に近づいてみることにした。
「おはようさん、矢倉。ブンとなに話とったん?」
『…仁王くんのこと。』
「俺んこと?」
返ってきた答えは意外なものでなぜ話題が俺だったのか理解できなかった。
『仁王くんてAB型なんだってね?』
「なんで知っとう?」
『ブン太から聞いた。』
予想が外れたか。
てっきり、昨日の2限目のことを話しているのだと思っていた。
「矢倉は何型?」
『何型に見える?』
“気にしてないよ”って言いながら本当は傷ついてる。心は繊細かつガラス製。
“今聞いてた?”ってよく聞かれるがちゃんと聞いている。モラルやマナーは守れる良い子。
B型の特徴じゃ。
「B型かのう。」
…それならばB型のブンは?
もし、矢倉を思っているなら?
昨日の部活でなにも言うてこんかったし、気にしなかった。しかし、今思えば“普通を装ってた”んじゃなかのう?
「(ブンを傷つけたか…?)」
ふと矢倉を見ると少し驚いているようだった。俺ん答えに驚いたんじゃろか?
結局、矢倉がB型だとわかり、どことなくブンと似てると思うた。幼なじみというのも手伝ってのことだろうが。
「B型ってのは俺が知るかぎり、気持ちが素直で純粋なんよ。じゃけ、俺はB型が好きなん。」
ブンと中学から仲良くしとうのはヤツが扱いやすいB型じゃから。
なら、矢倉に世話焼いとうのはB型だからってだけなんか?――しっくり来ない答えじゃけんのう。
『私も純粋で素直だといいけど。』
例え、好きの意味が友達という意味合いでも人として、という意味でもこれ以上、言葉で伝える勇気はなかった。
「矢倉も素直で純粋じゃ。じゃから俺は矢倉を好きになった。」
矢倉が友達・人のどちらで意味を捉えたとしても、自分の胸の内を知るゆえに勇気がなかった。
たぶん、ただの友達で終わりたくないん。
「俺、好かんヤツに自分から近寄ったりせんし。」
『…それって――私、あなたの友達になれたってこと?』
尋ねられた質問に答えるのは苦しかった。もしかすると矢倉は友達以上の関係を求めとらんかもしれんから。
なんにしてもまずは友達という階段を踏まんと次の関係には進めないということは理解しなけりゃならん。
「友達になってくださいって言わんと友達になった気がしないタイプなん?」
『いや、そうじゃないけど…』
矢倉が俺を友達だと思っとうかも気になるが、よく考えてから言葉を発した。
「あのとき会ったのはたまたま偶然かもしれん。でも、俺が矢倉に会わなければ今頃、俺らどうなっとった?」
ただ、俺と矢倉の関係の始まりが一つの奇跡であることを理解してほしかった。(例え、友達で終わるとしても。)
しかし、なにを思ったのか矢倉は眉尻を下げて泣きそうになっていた。
「あの出会いが偶然だったとはいえ必然だったなら、同じクラスになったのも必然でここでこんな話をしとうのも必然じゃ。」
『偶然が必然にもなるの?』
「つまりは考え方次第なんよ、」
俺は矢倉に会えてよかったと思っとう。じゃけ、それ以上の言葉からは逃げた。
つまり、彼女からの質問の答えは矢倉自身に委ねた。聞く勇気がなかったから。
ただの弱虫なん。
『必然だったら私たち友達よね?』
「ん。よし、矢倉の願いは俺によって叶えられたのう。」
『え?』
「今、矢倉が純粋で素直だって証明された。ひねくれとったら俺の言葉に同意しないじゃろうし。」
『AB型って不思議なこと言うのね。』
照れ臭いのか目を反らされたが矢倉の頬は少しだけ赤くなっていて、嬉しそうに笑っていた。
『(仁王くんの言葉がこんなに嬉しいなんて…これでただの友達ならちょっと辛いな。)』
ただ、その目が潤んでいた理由はわからんかった。観察不足じゃろか?
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