act.23『小さな詐欺師』
(仁王視点)
宍戸が必死でバイトに励んでいる時、俺がスタンドに到着してから時間を空け、彼女は遅れて到着した。
「雅治〜☆ご機嫌いかが?」
「まぁまぁ、じゃな?」
「宍戸くんのご機嫌はいかが?」
「さっき好きなバナナ食っとったから上機嫌じゃ。」
そう俺が言うと窓からスタンドの方で働く宍戸の姿を見る。
「オライオライ、はい結構でーす!」
「おぉ、ホントだ!」
興味津々と言わんばかりに宍戸を見ている彼女。
そんな彼女を見ていると少し寂しく思う。
しかし、犬の平均寿命てのは儚く、長生きしても15年くらい。
そんな短い人生だったものが跡部んお陰で80年くらい生きられるんじゃから文句も言えたもんじゃなか。
「雅治、でもいいの?」
「おまえさんに与えた使命は宍戸を助けてやること。」
「うん、」
「どんな形でも宍戸が良いと思えるならそれでいいん。」
彼女は悩んだ末、口を開いた。
「雅治が独りになっちゃうでしょ?」
「バカやのう。独りじゃなかよ。ほら、こっちに来んしゃい?」
両手を広げると、彼女は俺ん腕の中に飛び込んできた。
そして俺の腕を自らの体に巻き付けると“準備出来ました!”と言い、俺を見上げた。
「忘れないじゃろ?例え、おまえさんが恋をしたとしても。俺(飼い主)んことは、」
「当たり前じゃない!なんで雅治のこと――」
言い終わる前に額にキスをして静止させた。
「それだけで十分。」
「雅治……」
「おまえが楽しけりゃいいん。その命ある限り、精一杯生きると言ってくれるならな?」
「…ありがとう。」
彼女をしっかり抱きしめて、彼女が俺を思うより強い気持ちを抱かないように願った。
「よし、行きんしゃい。」
「はい!」
服装を整え、彼女は俺に敬礼するとニッと口元をあげて笑う。
「仁王こもも、行ってきます!」
「健闘を祈る。」
「へへっ、心配しなくてもヘーキだよ☆」
俺の唇に軽くキスをしてこももは出ていった。
俺は心配になり、陰から見守ることにした。
どこまでも親バカだな、と思うと自然と笑みが漏れた。
1ヶ月間、できるだけのことは教えた。
歩き方、挨拶の仕方、変装の仕方、言葉遣い、服の着こなし方、料理の仕方。
それでも時間は足りないと思った。
『すいません…』
「あ、はい。」
『道に迷ってしまって―…』
「どこまで行きたいんですか?」
作業にひと段落ついた宍戸はようやく振り返り、声の主を確認したのだった。
「!、…リョウ?」
『あ、れ?宍戸?』
「なんでこんなとこに?こんな時間にまさか一人で出歩いて…!?」
『あ、違うの……景吾さんと散歩中にはぐれちゃって。』
「携帯は?」
『電池切れ、』
「…………つか、なんだよその格好。」
『……………』
「待ってろ、」
客がいないことを良いことに、宍戸は電話をかけ始めた。
恐らく、相手は跡部じゃ。
声、髪型まで真似ていたのに服装が仇(あだ)となったか?
「あ、跡部?リョウいるか?」
「あん?今はいないぜ?」
「え!?」
「風呂に入りに行った。」
「なんだ……じゃあ、アイツ――」
「なんかリョウに用か?」
「いや、なんでもねぇわ。」
電話を切った宍戸はこももを睨んでいた。
あーあ、バレるのは時間の問題か?
リョウになりすますより、跡部の服のセンスを真似るのがなにより難しかったりしてな?
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