act.17『涙は見せない』
(跡部視点)
俺は女の泣き顔はたくさん見てきた。
でも、これだけ胸を痛めた涙は見たことがない。
「(頼むから泣くな……)」
『…ッ、』
「宍戸は――ここにはいねぇんだよ。」
そう言えば、涙をこぼして俺を見上げた。
『わ、たし…嫌われ…ちゃ…った?』
そう尋ねてきたリョウに返事なんか出来なかった。
人間のリョウは必要ない、と言われたことなんか口が裂けても言えなかった。
「そんなに泣くなよ。俺がここにいてやるから…」
優しく抱きしめているしか出来ない俺はなんて情けないのだろう。
何かしてやりたいのに実際は何もしてやれないことを悔しく思う。
『私、どうしたら…宍戸に謝った方が、いい?』
「いや、リョウは悪くねぇんだ。俺が宍戸を怒らせたからな。」
『じゃあ、仲直りは…?』
「……恐らく無理だ。」
そう聞き、悲しげに顔を歪ませるリョウを見て苦しくなる俺。
「悪いな、リョウ。」
『なんで、謝る…の?』
「俺がリョウを人間にさせたから…」
『景吾さんは…悪くない。』
「ふっ、恨むんなら恨めよ。おまえらの関係を引き裂いたんだから。」
『で、も…景吾さんを恨むなんて――』
自分が苦しんでるのに、なんでリョウは俺を責めないんだ。
お人好しというのか、なんというのか。
「リョウ、明日も早い。だから寝られるなら早く寝ろ。」
『……はい。』
布団を被り直し、横になったリョウを横目に俺はため息を吐いた。
「(俺は悪くない、か……無理しやがって。)」
髪を撫でながらリョウが完全に寝るまで待った。
眠りについたとわかる、規則正しい寝息が聞こえてくると安心した。
この責め苦から解放されるときなんか、くるのだろうか――?
翌日、自然と目が覚めるといつもと違う感覚に戸惑った。
まだ寝ぼけていたということもあり、自分がリョウに抱えられているとわかるのに時間がかかった。
リョウの涙で俺の髪が少し濡れていた。
それだけではない。
「…この俺が、まさかな。」
涙の乾いた跡をこすった。
いつ流したのか記憶はないから寝ている間に流したんだろう。
『け、ごさん…?』
「あん?起きたのかリョウ。」
『あ、はい……あの、夜に景吾さんが涙を流してて、…その、大丈夫?』
「大丈夫、ね……あまり大丈夫ではねぇけど。」
『え?どこか具合が悪いの?』
心配して俺の顔をのぞき込むリョウには笑った。
あまりにも可愛くて。
『あ、の…?』
「リョウが心配することじゃねぇよ。俺様の問題だからな。」
『じゃあ、私になにか出来ることがあったら言ってください。』
「……優しいんだな?」
髪を優しく撫で、その髪先にキスを落とした。
「リョウに出来ることは……一人で泣くな。」
『……はい、』
「俺を頼れ。他人に涙は極力見せるなよ?」
『わかりました。』
話も落ち着いたところだから、リョウに顔を洗うことを再び教えに洗面所に向かった。
「(泣いていた原因は心が痛むせいだろうよ。)」
そんな恥ずかしい台詞、人前で言えたもんじゃない。
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