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vocaloid
前編

(1年に一度の、聖なる夜。)

(鈴の音は、まだ聞こえない)



「あの、ちょっといいですか?マスター」
 PCのキーボードを叩くジャージ姿の少女の傍ら、青髪の青年は気まずそうに話しかける。
「・・・どうした、カイト」
 少女は手を止め、無表情の顔で、とはいえ彼女、舞鶴優希にとって何時も通りの顔で、カイトと呼んだ青年を見やる。カイトは手と手を擦りなら、視線を漂わせる。
「・・・今から言うことに怒らないって、約束してくれます?」
「はぁ・・・?何を言う気だ、お前・・・。・・・今日は機嫌がいい。話せ」
 純黒の瞳の、カイトのマスターである優希は、カイトの表情を見て微かに笑う。カイトはそれに安心したように息を吐き、
「バイトしてもいいですか?」
 話してとたん、優希は勢いよく拳を叩きつけた。机ががたがたと震えた。
「・・・カイト、今、何て言った・・・?」
「え、・・・いや何m」
「バイトしてもいいですか、と、訊いたよな?」
 カイトの声に自分の言葉を重ねた優希は、漆黒の髪が顔にかかっても払わずに、立ち上がりカイトに歩み寄る。髪と同じ色の瞳は、瞳孔が開いていた。
「欲しい物があるなら、話せば買ってやる・・・って私は言ったよな?お前も、それでいいって言った・・・じゃあ、何でバイトするんだ?まさか・・・私に、隠し事があるからか・・・?」
「まっ、待ってくださいマスター!まだ話し合いの余地はありますから、落ち着いて!」
 カイトは声を震わせながらも、優希の両肩を掴む。構わずカイトの首を締め上げようとする彼女にも届くように、カイトは叫ぶ。
「あと、2週間で、クリスマスでしょ!だからマスターの、プレゼントを買うんです!」
 ピタッ、と電源が落ちたように停止した優希を「どうどう」となだめ、カイトは額の汗を拭う。
「・・・そういえば、もうそんな季節か・・・」
「そうですよ、もう俺が来てかれこれ2ヶ月なんですねぇ・・・という訳で、感謝の気持ちを込めて何かプレゼントしたいんです。それにはマイマネーじゃないと意味が無いんです!」
 カイトは腕を振り拳を握りと熱弁をふるう。静かに話を聞いていた優希は、僅かに小首をかしげた。
「・・・でも、あと2週間だろ?・・・短期のバイトなんてあるのか?」
「ああ、それなら大丈夫です。六道さんが雇ってくれました」
 少女は、眉根を寄せる。
「・・・あの馬鹿、いつか吊るす。・・・何をするんだ?」
「洗濯と掃除、あと2人と遊んでほしいって」
「・・・家の事もしっかりしろ。・・・それならいい」
 カイトは声を弾ませる。
「いいんですか!ありがとうございます!」
「・・・ところで、何を買うか、決めたのか?」
 諦めたように溜め息をつく優希に向け、カイトは頬を緩めて、
「まだ、内緒です」
 両手で口元を押さえて、それだけしか言わなかった。


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あきゅろす。
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