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 城下町の中心、それなりの面積と緑を所有する広場では、城内で回収された食糧の配給がされていた。老若男女の人々が器を片手に、質素なパンやスープを貪っている。
 彼らの広場の真ん中では、見上げるほどに大きな壇上が建てられていた。上には漆塗りの木材と鈍く光る銀で出来た、断頭台が乗せられている。
「立派な処刑台ね。誰が殺されるのかしら」
「これだけ公なのだから、名高い悪党なのではないか?もしくはこの国では、処刑は盛大にという習わしがあるのやもしれん」
「悪い事が出来ない国ね。それはそうとこのスープ、ミョウガを入れているのは何故かしら…斬新な味だわ」
 ちゃっかり配給されているパンとスープをもらったがくぽとルカは口々に言いながら、無料の食事にありついていた。
「そこのお兄さんとお姉さん、旅人かい?」 不意に、青年が二人に話しかけた。
 がくぽは驚いた風に眼を見開き、座っていた青年を見下ろす。暗い髪に顔の右半分を覆う包帯が印象的な青年は、同じく見下ろしたルカに愛想よく笑う。
「どうして私達が旅人だってわかったの?」
「顔を見れば分かるよ。此処にいる奴の大半は王女様を憎んでいて、王女様を憎む奴は皆、鬼みたいな顔をしてるから」
 青年はそう言って、わざとらしく怒った顔を作った。
「王女?何故この国の長は憎まれておるのだ?」
「知らないの?じゃあ女王様の代の歴史から教えようか。丁度、歴史をなぞった唄を作ってるんだ」
「是非聴きたいわ。聴かせてちょうだい」
 ルカは即答した。
 青年はまたにこりと微笑んで、傍らに置いていた大きな革袋から、アコーディオンを取り出す。
 そして、歌い出した。

―昔々あるところに、悪逆非道の王国の 頂点に君臨するは、齢十四の王女様―

 幼い王女が酷税を強い、逆らった者はあの断頭台で粛清した事。
 海を渡った先にある国の王子に恋をし、恋敵を消す為に緑の国を滅ぼした事。
 そして、赤い鎧の戦士が率いる革命により、今は処刑を待つばかりだという事。

―処刑の時間は午後三時、教会の鐘が鳴る時間 王女と呼ばれたその人は、独り牢屋で何を思う―

 アコーディオンの演奏と共に、唄はそこで終わった。
「…あら、何だか中途半端な終わり方ね」
 ルカが残念そうに呟くと、
「処刑は明日の三時。その最後を付け加えたら完成するんだ」
 青年は困った笑顔でそう言った。
「…貴殿は、王女の事は恨んでおらんのか?」
 がくぽの問いかけに、青年は苦笑いのまま答える。
「さっき言ったでしょ。此処にいる奴は皆、王女様を憎んでいるって」
「その割には、貴方は鬼みたいな顔をしていないのね」
 すっぱりとしたルカの言葉に、青年は意外そうに眼を見開いた。左だけの瞳が、悲しい色に染まる。
「…王女様は悪い人じゃない。ただ、彼女にはまだ人の命は重すぎたんだ」
 そしてポツリと、そう付け加えた。

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あきゅろす。
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