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ーRe:VIVEー歪曲者たちのオペレッタ
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暗い廊下の冷気が、肌に纏わり付いてくるように通り抜けていく。

重い扉を開けて中に一歩踏み入れれば、妙な緊張感の漂う薄暗い部屋が広がる。
冷たい廊下より、更に温度が下がった室内はやけに静かで無機質だ。
大理石の石床から伝わる足元の冷気は脊髄を通さず、ダイレクトに脳を震わせる冷たさ。

室内は壁一面にと書物が置かれ、わずかに減った中背の蝋燭の炎がそれを照らす。
薄ぼんやりとしたやけに静かな室内では最奥だけが異様なまでに暗い。

重たい扉を後ろ手に閉め、クシェルは部屋の再奥に鎮座する人影を視界を投げた。
その重厚な机の上には、書類が高く積み上げられている。
俯いた顔こそ見えはしないが、象牙のように白い肌だけが、薄暗い部屋でぼんやりと浮かんでいた。

「お呼びでしょうか?室長。」

クシェルが机の前に立つと、呼び出した張本人は、クシェルの問いには答えず、重厚な椅子に腰を沈めたまま、机上に高く積み上げられた書類から黒い封筒をを引き抜いた。

「…。」

無言で受け取り、封の空いたそれに目を通すと、同じくまっ黒の便箋には、筆圧の濃い貴重面そうな文字の羅列がびっしりと並んでいた。

"美しき、宝石のような瞳を持つ麗人よ。
天使のようなあなた。
あなたのそのアレキサンドライトのような瞳、ルージュのような熟れた赤い唇、パールのように白い肌。
きっとそこに口づけすれば、色濃く、美しい華が咲くことでしょう。
あなたを私の城に招待いたします。
美しいあなた。
嗚呼、貴方に会う日が待ち遠しい。
貴方を想い、狂ってしまいそうな程に愛しています。
美しいひと。
宝石のような、貴方。"


「…うわぁ。熱烈な恋文。一体全体、誰のことだろう?」


上司に対しても砕けた口調で戯けたように笑いかけるクシェルにも、上官は特に何も言うことなく闇に溶け込んだ黒髪を揺らして顔を上げた。

赤い軌道を描いてかち合う視線に、クシェルは満足そうに笑う。

人を惹き込む光を放ち、妖しく輝く赤の瞳がじっと自分だけを見つめていた。

真っ赤なルージュのような裸の唇を一文字に結んだ表情からは、何も読み取れない。
熟れた、異様なまで赤い、赤い唇。
美術品のように繊細で、この世のものとは思えない程に美しい顔が、そこにはある。
それはまさに神の所有物かのように何処もかしこも精錬された空気を持つ美しさで。

こんな美しい人がまさか男だなんて言うんだから、神様も酷なことをする。

先は戯けたように笑って見せたが、その文書にクシェルは密かに関心していた。
美しいこの人を形容する言葉一つ一つが正確で、本当に作り物のようだ、と宝石のようだと、そう思っている常日頃の自分の気持ちを代弁するかのような文面に、密かに感動もしていた。

「…ま。あんなあからさまじゃないけどね。」


クシェルから視線を外さない、強い光を放つ瞳。

そこに表情はなく、一貫してその美しい顔の中に感情など見られなかったが、長く共に仕事をしているクシェルには理解できる程度の表情の変化はこの無口無表情の上司にもあった。

「さて、ご命令はなんですか?」

その言葉に長い睫毛を伏せたその人は、ごちゃついた机上に鎮座する形の変わった二輪の花の一つを差し出した。



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