小説 E尋の事 「あ…解った。あっありがとう。」 顔、赤くなったかな。 条は満足そうに笑ってる。 僕はお弁当を広げた。 「うわ〜尋の弁当うまそ♪お母さん凄いなぁ〜」 条が僕のお弁当に感心している。 だけど 「条、これ僕が作ったんだ。 てゆうか毎日。 僕、母親死んじゃってるから。」 暗くならないようにサラッと言った。 条は少し眉を寄せた。 「尋…わりぃ。 事情知らなかったとはいえ。でも…偉いな。尋、すごい。」 フワッと条が笑った。 他の人達とは違う反応だ。 みんな同情めいた顔して可哀想だと言った。 『尋、すごい』 なんて誰も言わなかった。 ガタッ 条が身を乗り出した。 焦ってる? 「尋…泣いてる。俺のせいだ。ごめん。」 あ 泣いてたんだ僕。 人前でお母さんの事で泣く事はなかったのに… 頬を伝う涙を条が指ですくう。 「違う…条何か…解らないけど。偉いなって言ってくれてありがと…。」 大人達は泣かない僕を『感情』の無い子だと言った。 「僕…感情あったよ。周りは冷たいって言ったけど。父さんが…沢山泣くから僕は…」 「解ってるよ尋」 「解ってる。尋、お父さんの為に頑張ったんだよな。 泣くに泣けなくなったんだ。 尋は心配かけないようにしたんじゃないかな…」 何で…解るの。 涙止まらない。 「ありがとう条。 聞いてくれてありがとう。」 不思議と暖かい気持ち。 条はそっと僕を抱き締めた。 フワリと香る花の匂い。 条の暖かい胸の中。 僕は、初めて亡き母さんを想って泣いたんだ。 [*前へ] [戻る] |