小説
P
「なっ何?どした?どこか痛い?」
条は焦りだした。
当たり前だ。
それまで泣く雰囲気ではなかったんだから。
「解らないけど…幸せだと思って…」
「うん」
条は真面目に聞いてくれる。
「それと同時にこわ…恐くて。」
「うん」
抱き寄せて手を握ってくれた。
「ごめん…あまりに夜空が綺麗だから。」
「そうだね…」
「お母さんがまだ生きていた頃、一緒にベランダからよく夜空を見てた。冬は空気が澄んでいてね…星が綺麗…でね…」
涙がポロポロ落ちてくる。
「そっか…」
条は手に力を込めて握ってくれた。
「一緒に見ていてね。条と来年も数年先も一緒に夜空を見ていたいな…」
「当たり前じゃん…不安になったら何度でも抱き締めて何回でも綺麗な夜空を見せるから…」
ザザーン
ザ…ザーン
トクン…トクン…トクン…
黙って抱き合う僕ら。
波の音と条の心臓の音がした。
いつの間にかライトアップは消されていて、後に美夏さんが気を利かせて消してくれたと知った。
こうして僕らの初旅行の夜はふけていった。
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