[携帯モード] [URL送信]

月と闇と私
4


「どうして今それを言うんですか?貴方は彼女を連れて行かなかったではないですか!」


そこは私も疑問に思う所だ。自分だけいらないとでも言うように放置されたのに何を今更。


「状況が変わったのさ。今はあんな小娘よりもずっと君の方が価値がある」


ピーマンダーは態とゆっくりした動作で立ち上がるとこっちに歩いて来た。

価値があるって言われても嬉しくないんですけど。というより何ですかこの状況。

目の前で立ち止まったと思ったその直後に頬に感じた生温いぬくもり。


「少し小耳に挟んだのだがあの店を繁盛させたきっかけは君が作ったそうじゃないか」


そうか、これが狙いなのか。ただ可愛いだけのぶり子よりもお金を稼げる可能性の高い私を選んだと。

理に適っている。
だがそれで納得する訳が無い。


「それならこれでリィナを解放して下さい」


ドンっという音と共に置かれた袋。ずっしりと重そうなそれは私とカリーユさんが必死で掻き集めたお金だ。
ピーマンダーは一度そちらに目線を移し、そして直ぐ私の目を覗き込んだ。


「よく見るとお前の目…リィナと言ったな。大きく綺麗な形をしている。その色も珍しいし愛らしい顔をしていなくもない。ならば…」


ずっと添えられていた手がゆっくり頬撫でた。


「用済みになっても奴隷として売るのは止めてやろう。気が向いたら構ってやるぞ。どうだ?いい提案だろう?」


さも好条件を出してやってるんだぞという態度に吐き気がする。だってここで契約書を作ったとしても結局この人がこの街でのルールな訳で、後々やっぱりナシと言われてもおかしくない。
それ以前に何故他の人の為に自分を犠牲にしなければならない?言う程深い仲でもないし況してやちょっと特殊な力を手に入れた普通の女の子だ。その力すら満足に使えない私に何を望む?私は此処と違って平和な世界から来たのに、この世界は私にいとも容易く難しい選択肢を与える。しかも自分の命、人生か他人のそれか、重い選択肢しか無い。


何故こんな目にばかり合うのだろうか

そう思わずにはいられない。







「分かりました。その条件を飲みます。その変わりあの2人を解放するだけでなく、ちゃんとそれ以上あの店にもカリーユさんにも契約以上の事は関わらないで下さい」


どうしてだろう
勝手に口が動いてしまう


「はっ、よくそれだけ生意気に意見が言えるな」
「いえ、寧ろ私にはこれぐらいしか出来ないので」


だってこれも口約束みたいなもので意味が有るかすら定かではない。だからほら


「フッ、まぁいいだろう」


怒らないし約束した。ここで兎に角納得したフリをしといてカリーユさんを大人しくさせたいのだろう。私の存在はおまけであってカモフラージュさせる為の道具に過ぎない。


「ならこの契約書にサインを」


机の上から金の装飾がついたペンを渡される。


自分で選んだ道だって分かってる


私はペンを握って契約書に目を通す。
ぶっちゃけ内容は入って来ない。


でもさ


「どうした?怖じ気づいたか?」


我が儘だとは分かってます


「いえ、最近読めるようになったばかりで」


答えてまた視線を落とす。




少しは止めてくれてもいいんじゃないんですか



「どんな田舎から来たんだ?まあ今読めるなら問題ないが」





ねぇ、カリーユさん?


サインをし終えると真っ直ぐ前を見つめる。カリーユさんの眉は下がり、一度口を開いては閉じた。

分かってる。私なんかより二人の人生の方が天秤にかけるまでもなく大事だ。カリーユさんにとってランさんはかけがえのない存在であり、自分の全てを犠牲にしても取り返したいと思っている。それだけでなくぶり子まで付くならそちらを選ぶのは普通であり正しい選択。


それにぶり子ぶり子と心の中で色々言っていたけど

そんなに悪い人ではない事を知っている。
だから此処でぶり子を犠牲にするとは言えないんだ。

私はガクガク震える腕を隠すように片手でもう片方の腕を掴んで抑えた。


だって仕方ないでしょ。偽善か強がりかただの自己犠牲か分からないけど、何でこんな事してるのか自分でも分からないけど、でも心が逃げる事を許さないんだ。


「あのお店とランさん……あの人の事も宜しくお願いしますね」
「っ、リィナ!」


最後に笑えなくてすみません。さすがにそこまで気を遣えないです。




[*前へ][次へ#]

7/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!