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月と闇と私
2



あれから2日経った。


ピーマンダーの手下だと思われるハゲとヒョロは未だに訪ねて来ない。




「店長、本当にお店売っちゃうんですか?」


カウンターを布巾で綺麗に掃除しているランさんに問いかける。


「ええ、ピーマンダー様相手じゃどうやったって敵わないし、それに命のほうがやっぱり大事だから」


高い明るい声を出しているけど本当は違うんだって馬鹿な私にも分かる。だって一切こっちを見ようとしないしさっきから同じ所ばかり掃除してるし、何よりも背中が寂しげだった。


本音は諦めたくなんかないって痛い程伝わってくる。だけど私には何も出来なくて。

ケイの姿だったらまだなんとか出来たかもしれない。

でも今のワタシじゃ何も出来ない。


レフにじゃれられた後時間が経つと元の姿に戻っていて、また何かの拍子で暴走するとケイになるという繰り返し。
そのスイッチは自分でコントロール出来るものではなくて、今の私には小さな火の玉を出すぐらいが精一杯だった。


少しやつれた店長の姿を見ると自分の不甲斐なさに嫌になる。

力はあるのに使えない。
力があるからこその苦しみは経験したことが無く耐え難い。



少し重くなった空気を突き破るように鳴り響くベルの音。二人してお店の入口を見た。


「お店なくなっちゃうってぇ〜本当なんですかぁ〜?」


こんな時にコイツの顔なんか見たくない。余計に心が黒ずむ。私とは違って優しい店長は小さく笑った。


「うん、お店閉めることにしたの。今までありがとうね」
「えぇー、私ここ気に入ってたんですよ?何でなくなっちゃうんですか?もの凄く急でしたよね?」
「それは……」
「店長のご両親の具合が悪くなったみたいで一時的にお店を閉めるそうですよ」


勢いよく店長が此方を見る。


「再開の目処は分からないみたいです。少ししたら戻るかもしれないし永遠に再開出来ないかもしれない。」

「でも私はいつの日かもう一度このお店が開く事を強く願っています。例え場所が違っていても」


戸惑いから大きく目を見開き、最後には俯いてしまった。そんな店長が視界に入っていないのか、ぶり子はあーそーなんだーとか、私も祈っとく!なんて言って両手を合わせている。
全くもって理解出来ない。

あれ、でも店を閉めるって伝えたのにここに来るってことは、意外と愛着わいてたのかな?
しかもなんか両手合わせて真剣な顔して祈ってるし


えっ、実は良いやつ!?


ふと視線を戻すと店長の体が震えていた。直ぐ様くだらない思考を消して傍に駆け寄る。


「店長、大丈夫ですか?」


声を掛けても反応が無い。只体を震わせるばかり。心配になって下から覗き込むと軽い衝撃と共に伝わる温もり。理解出来ないまま目線を移動させると店長に抱き締められた自分の体という図が出来上がっていた。



「てんちょ・・」

「ありがとう」



小さく掠れていたけどちゃんと聞こえた。

お礼を言われるような事は何もしていないけど返す言葉もなくて、私はただそっと店長の背中に手を回した。













お店の権利を引き渡す当日。
そしてお昼を知らせる鐘が鳴った。

さっきまで晴れていたのが嘘のように空を覆う真っ黒な雲。お店の中から窓越しに見つめるがこの先の事を表しているような天気に心がざわつき、それを考えたくなくて窓際から離れた。


今お店にいるのは3人。

話の中心人物である店長はお店の中心にある丸テーブルに資料を置いて無言で座っている。その隣に座るはずだった人はいなくて、代わりに何故かぶり子がいた。そして最後に私。

女が3人となんとも心細いがいないよりはマシだと思う。


誰も口を開かず沈黙がかれこれ一時間は続いていた。沈黙が苦しいのかこの先に起こる事が悲しいのか、重い空気の理由は断定出来ない。



すると、少し何時もより五月蝿く鳴ったベルの音。一斉にドアに集中する。


そこから現れたのはハゲ男でもヒョロ男でもなく茶髪の男。普通の人よりも若干整っているかな?ぐらいで身長もやや高め。それに連なって出てきたのは緑色の髪の男。



「どうかお考え直し下さい!お願いします!」


いつもセットされている髪は乱れ必死の形相で茶髪の男に頭を下げる。


「もー諦めなって兄ちゃん。この方の決めた事は何があっても曲がらないんだよ」


更に現れたのはあの日にいたデブ男とヒョロ男。半笑いで面倒くさ気に緑色の髪の男を相手にしていた。


男はそんな3人に我関せずといった風にお店の中心に歩いていく。

やがて店長の目の前で足を止めた。


「この店のもの全てを貰いに来た」


到頭この時が来たのか。
固まっていた店長も表情を固くしながらも黙々と書類を見たりサインをして、やがて目の前の男にそれら全てを渡した。男は受け取ると軽く流し読みをしてもう一度店長を見た。


「これで全て私の物だな?」


この発言によりこの人があのピーマンダー様だということが分かった。私以外の人は皆知っていたらしく表情一つ変わらない。


「お待ち下さい!どうか、どうかこの方だけはお許し下さい!私の大切な人なのです!!」


ピーマンダーと店長の間に割ってはいった男性。見慣れた顔のはずなのに見たことの無い必死の形相。


「カリーユ!?」


店長はまさかの人物に目を丸くさせる。当初は店長の隣に座って共にこの日を迎えるはずだった人物であるカリーユさん。突然急な用事があって来られなくなったと聞いていたのにどうして此処に?



「貴様が私に発言する権利などない」



カリーユさんは横に突き飛ばされデブ男に取り押さえられた。


「カリーユさん!」


反射的に駆け寄ろうとするも目の前に立ちはだかるピーマンダー。薄く笑う顔が怖い。気味の悪い笑みを貼り付けたままそのニヤけた口を開く。


「もう一度言う。


この店の物全て私の物だ












無論、お前たちもな」








「っ!やめ、やめて下さい!離してっ」

「黙ってこっちに来い!」

「なんでっ、こんなこと契約にはなかったはずよ!」

「あんた、誰と契約してるのか分かってるだろ?あの人がこの街の法律なんだよ。諦めな」


ぶり子もヒョロ男に引っ張られる。


「俺あんたのこと可愛いと思ってたんだよなぁ。俺のとこきたら可愛がってやるよ?」

「はぁ?誰があんたなんかっ。というかあの子は?リィナは連れていかないの?何で私だけなのよ!」

「さぁ?詳しい事は知らないがまぁ、あんま可愛くないからとかー?」


店内に響いた鈍い音の直ぐ後に机や椅子が倒れる大きな音。ひっくり返ったテーブルや椅子の中心には倒れ混んだカリーユさんの姿があった。


「おめぇもいい加減区切りつけな。じゃあ行きましょうか」


デブ男の言葉にピーマンダーは目線だけ寄越すと店長の手首を掴んで歩き始める。それを必死に解こうとするもなんせ男と女。力が違い過ぎてズルズルと引っ張られていく店長と暴れながらヒョロ男に連れて行かれるぶり子。


「ランッ!!」

「カリーユ!カリーユーーッ!!!」



可愛らしいベルの音とは反対に無情にもドアは閉まっていった。


外見とは全く一致しない毒舌な店長も


ぶりっ子だけの嫌な奴とは思いきや案外いいやつ疑惑が出てきたぶり子も



みんな居なくなってしまった。


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あきゅろす。
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