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月と闇と私
一時の夢



店長とカリーユさんの漫才を眺めている今日この頃。

何時もの風景は突然壊された。







「はいは〜い、お邪魔しますよ〜」


乱暴に開かれたお店のドア。
ゆったりとした空気は一瞬にして張り詰めた。

カリーユさんの抱きつきを何とか防いでいた店長は素早く手を払ってドアの元へと歩いて行く。今回ばかりはカリーユさんも大人しく店長を行かせたみたいだ。


店のドアから入ってきたのは男が二人。一人は大柄な坊主でもう一人は長身のロン毛。



「すみません、今はディナー準備の為お店を閉めているんです。申し訳ございませんが夕方頃からご来店頂いても宜しい・・」
「んなこたぁ分かってんだよ」

「・・・はい?では何のご用件でしょうか?」


男は近くにあるカウンターの机を振りかぶって叩いた。


「この店、売っちゃくれねぇかな?」

「私の店を売れと・・?」
「タダとは言わねぇよ。金もきっちり払うし、お前さんもここの店長のままでいい。まぁなんだ、この店の権利を譲って欲しいのさ」



店長の眉間に皺が寄る。


あ、今絶対むかついてる。


短い間だけど一緒にいる時間が長いから少しは表情を読めるようになってきた。それにお客さんが居る時はまだしも、こうやってオフモードの時は感情を押し殺さずストレートにぶつけていくタイプだし。

案の定、店長の口からは冷めた声が飛び出した。


「御断り致します」
「今の3倍は稼げるぞ?」
「まず始めに、私はお金稼ぎの為にこの店を経営しているわけではございません。それに理由も人柄も何もかも分からない人に売ると思われるんですか?」


あまり聞かない低音な声に自分に言われてるように感じてどうしても少し縮こまってしまう。


「ハッハー、こりゃ一本やられたな」


全然響いてない様子で笑いながら応えるスキンヘッドの男、ハゲ男。つられて笑う細いヒョロ男。見ていて気持ちのいいものでは決して無い。

その態度に更に不機嫌になるうちの店長。


あー、やめてほしい。この人達が帰った後誰が機嫌の悪い店長の相手をするのさ。



まぁ、カリーユさんが相手するんだけどね。自ら戦場に突っ込んでいくようなものだけど、それを好きでやってるんだからほんと大した人だと思う。
尊敬はしないけど。


どうせ断るんだろうなぁと思っていたから悠々と眺めていたんだけど、なんだか雲行きが怪しい。



「確かにご尤もでご立派な考えだと思うが、それはやめたほうがお宅の身の為だと思うけどなぁ〜」


今迄笑うとか相槌を打つとかしかしなかったヒョロ男がここででしゃばってきた。ニヤニヤ笑う顔はキモいを通り越して汚い。

見ているのがつい嫌になってしまった私の口から無意識に出て行く言葉たち。


「遠回しに言われたんじゃ何も解らないじゃないですか。言いたい事あるならハッキリ言ってくれませんか?」


遠回しにネチネチだとか言葉を濁しながら言われるのがあまり好きではないのでつい出てしまった。

黙って傍観していた女がいきなり乱入し、更にストレートに突っ込んだ事に対して驚きを隠せない人たち。


男二人はわかるけど、店長とカリーユさん、そこまで驚かなくても良くないですか?私は元からこの性格ですよ。


男たちは短気ですぐ怒って怒鳴るんじゃないかと少し不安だったが予想外にそれもそうだなと話始めた。


「単刀直入に言うとだな、俺らはお偉方の使いでやってきたのさ」
「この街の造り主、ピーマンダー様に言われてな」

「!?」

「ご理解頂けたかな?まぁなんだ、お前等に選択権は無いってことさ」


男たちの雇い主の名前を聞いた瞬間、店長の表情が一瞬にして真っ青になった。近くに居たカリーユさんの表情も曇り空気が重く感じられた。


それにトドメを刺すような一言。





「諦めろ。




譲るか、追い出されるか
















死ぬかだ」





意識がハッキリしだした頃には既に男たちの姿は消えていた。けれども私達三人の位置は少しも変わらず同じ表情、同じポーズで固まったままだった。


「こんな時に申し訳ないのですが、ピーマンダー様って一体どんな方なんですか?」


私が衝撃を受けたのは譲る、追い出される、そして最後の死ぬという選択肢だ。今迄自分の世界ではそんな選択肢無かったし、聞いたとしても小説やドラマの中の世界。今生きているこの現実でまさか空想の中の話が目の前で起こるとは思ってもみなかったからだ。

でも起きってしまったものは変えられなくて、それなら自分が何も知らないまま見過ごせなかった。この問題は店長が一番重いとは思うけど、一応お店の従業員だし全く関係なくは無い。それに店長にはかなりお世話になっているので自分に出来る事が少しでもあれば力になりたいと思ったからだ。


店長は青い顔のまま向き直り、震える口を恐る恐る開いた。


「ピーマンダー様はさっきの男たちが言った様に、この街を作った人なの。正しくは、作ったのは祖先だけど」
「・・・街を作った人のその末裔って事ですか・」
「そう。だからこの街はあの人の許可無しには何もできないの。やめろと言われたら辞める。潰すと言われたら三日も経たない内に壊される」

「しかもその時の処分はピーマンダー様の気分によって左右する。お金だけ巻き上げられる人や家を奪われる人、家族を奪われる人、街を追われる人。

そして・・・・殺される人」


あまりの事に言葉を失う。
それ以外何もない。


何だこの世界は


相手の事なんて微塵も考えないで


自分の利益しか考えない


私利私欲に塗(まみ)れた世界




汚い




汚すぎる






ゾワゾワと何かが這い上がってくる感覚に飲み込まれそうになる。
私は何時かのように自分の腕を前で交差しで握り合い、爪を肌に食い込ませた。




落ち着け



落ち着け自分



ここで暴走したって何も始まらない






良い人には幸せを














悪い糞野郎には地獄を




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