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月と闇と私
5









チュンチュンチュン




コンッココンッ




「───ん・・・朝か・・」



ぐぐーっと体を伸ばしベッドから降りて窓へ向かうと小さな口を使って一生懸命窓をノックしている小鳥を発見。
そんな可愛らしい光景が毎日の始まりだ。

鍵を開けて窓を上に押し上げる。


「おはよう、今日もいい天気だね」

「チュンッ」


可愛い返事のすぐ後、私の肩へと移動した。小さな羽根をバタつかせて早く早くとねだる姿はなんとも言えない。緩む頬をそのままに窓のすぐ近くにある小さな棚の引き出しを開けた。ちなみに場所は一番上。毎朝使うにはやっぱり届きやすい場所がいいもんね。一番上といっても高さ的には私のお腹辺り。ここが使いやすいベストポジション。

中から小さなお皿と袋を出すと、お皿の上に袋から取り出したパンくずを入れた。


すぐさま飛びかかる青い小鳥。


「ゆっくり食べていいのに」


小さく笑い、その様子を少しだけ眺めた。

ちょっと歩いてタンスを開けると色とりどりの洋服が並んでいた。私はその中から比較的地味なワンピースを取り出し着替る。着ていたパジャマは綺麗に畳んでハンガーで掛けられている服の下に仕舞っておく。タンスの右側に置かれている全身鏡で最終チェック。


リボンok
エプロンok
靴下ok
髪・・・あ


二番目の引き出しからゴムをとって一つくくりにする。前髪も斜めに黒ピンで止めた。

よし、これで完成。

私は足早にドアに向かい去り際に一言。


「また後でね」


もぐもぐと頬張る小鳥に笑みを零し、部屋を後にした。
















「おはようございます」
「おはよう」
「いつものソコにあるから」
「ちょっ、それこっちだって昨日も言っただろうが!」
「あぁ?聞いてねーよんなもん!その歳で物忘れかよ」
「あ?」
「やんのかコラ」


朝のキッチンはいつ見ても忙しそうです。
私は邪魔にならないように今では自分専用になった食器を持ち、バイキングのようにお皿に盛っていきます。

サラダ、パン、一晩煮込んだ山菜たっぷりスープ
最後にお水を入れてフィニッシュ。

簡単に見えるこの朝食達だが嘗めてはいけない。ここの料理人達は朝だからとか、今日はあまり人がいないからとかいって手を抜く人達ではない。だからこそさっきみたいに罵声が飛び交うのだけど・・・。


邪魔にならないように素早く出ると、大きな広間に続く扉の前にある通路で早速


「いただきます」


パンから食べようと手をのばすと熱いのなんの、触れない。でもこれをどう攻略して熱々のパンを口に入れるかがまた楽しい。上手く行き過ぎても舌を火傷するから注意が必要でもある。


そんなこんなであっという間に間食。


「ごちそうさまでした」


花瓶を落とさないようにそっとお盆を取ると来た道を戻る。



「ごちそうさまでした。おいしかったです!」


小さなシンクにお盆や食器を置いてスポンジを手に取る。


「おう、どういたしましてだ!」


大きな口を開けてガハハと笑うコックさん。


「何威張ってんのさ!そんな暇あるならちゃっちゃと手を動かしな!」


見た目とは反対な言葉使いが出てくる美人な女性。45歳になると聞いたがどう見ても30歳にしか見えない。

コックさんは大きく舌打ちすると私の肩を力強く掴んだ。


「うるせぇ。いっつもちゃんと感謝してくれるのはリナだけなんだよ。それに返事しないでどうするよ!」


なぁ?と言って眩しい顔を向ける。
そう言って頂けるのは嬉しいのですがすみません、肩痛いです。コックさんの力が強すぎて肩に指が食い込んでいる。熊並みに大きな体に見合った力なのは分かっているのでどうか勘弁して下さい。
ちなみにこの方、影では熊さんと呼ばれている。


「そんなのアンタに言われなくても知ってるよ。それよりもいい加減手を放したらどうだい?その馬鹿力のせいで痛がってるように見えるけど?」
「あ?そうなのか?」
「・・・すこしですが・・・」
「おう、わりぃな!」


ニカッと笑う背景で女性は大きな溜め息を吐いていた。



・・・・うん。




私は二人に一礼してキッチンを後にした。





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