キスから始まる にっこり微笑んで、ゆっくりあいつの顔が近づいてくる。スローモーション。 金縛りみたいに身動きが取れない。体は全然動かないのに心臓だけが激しく波打つ、目の前が真っ暗になる。目閉じたほうがいいんだよね?間違ってない。ほんとはまっすぐ見つめてくるあいつの瞳を直視できないから。でも目を閉じたほうが怖かったり。瞬間唇に柔らかな感触。なんか良い匂い。シャンプー?男のくせにいい匂いがするなんてなんかずるい。 チユッ 家族同士で交わすような軽く短いキス。目をあけるとあいつは照れたように笑ってみせる。 金縛りから解けた私は体に感覚が戻ってるのを確かめてゆっくりと震える右手を振り上げる。 「ばッ、ば、な、な、な」 「バナナ?」 「なにすんだ、ばかー」 バチコーン 夜の公園にすがすがしいまでの打撃音がこだまする。 「いってー。」 殴られた頬を大げさにかばいながらうらみがましく睨んでくるあいつに 「君が変な事をしてくるのが悪い」 人差し指をさしながら私はびしっと言い放つ。 「俺のこと嫌い?」 傷ついたついたような表情であいつが尋ねる。やっぱりこいつずるい。 その捨てられた犬のような表情やめてほしい。 「き、君はどうなのかね?」 わーしまった動揺して言葉遣いがおかしい。だれ? 「どうって?」 「だから、君のほうは、ほら、なんていうか。私のことをさ、ね。やはは。星が綺麗だね」 だめだ恥ずかしくって会話が続けられない。明らかに挙動不審。 「好きだよ。知ってるだろ」 「知らない、知ってない。知りません」 「え?でもわかるじゃん」 「わからない、わかりませんー。告白されてもないのに、私のこと好きなのかしらなんて、自意識過剰じやん、痛々しいじゃん。いきなりあんなことされたら驚くよ」 「ごめん、なんか、お前も俺のこと好きなのかなって…、勝手にそんな思ってたから。最低だ。ね」 だから、その段ボールの中で震える子犬オーラはやめてほしい。 そんなふうにうなだれられるとなんか私が悪いみたいじゃん。 「べ、別に君が嫌いなわけじゃないんだよ、ただ、順番があるじゃないですか。」 「順番?」 「雰囲気作りとかさ」 「はぁ」 「フ、ファーストキス…だったんだからね」 わー。何言いだしてんだあたし。恥ずかしい。死ねる。余裕で死ねる。 「おれだって初めてだっちゅーの」 わー、顔真っ赤にしてお前も何言いだしてんだ。死ね。はずか死ね。非国民?め! 「あのさ」 あいつは真っ赤な顔でコホンと小さく咳払いをする 「今さらかもしれないけど俺お前のことが好きだよ。もうだいぶ前からずっと好きで、多分これからもずっと好きだと思うんだ。だから…」 「だから?」 「だから俺と付き合ってほしい」 差し出されたあいつの手。 震えるあいつの手に私は自分の手をゆっくりと重ねる。 嬉しい。なんだかわかんないけどうれしい。恥ずかしいけど嬉しさのほうが勝ってしまう。 照れ隠しにつないだ手をふたりでぶんぶん振ってみたり。 「順番オーケーですかね?」 「ん?」 「や、だから、もう一回キスしたいなー。とか、や、嫌だったらあれだけど」 恐る恐るという感じであいつが尋ねる。 プッ。なんか可愛い。しょうがねーなー。もう。とか思いつつ。 本当のことを言えばわたしもおんなじ気分だ 「ん」 私はまた眼を閉じる。相変わらずドキドキするけど、もうさっきみたいに体が固まってしまうような怖さは感じない。唇に柔らかな感触。そうして口の中ににゅるりとした感触。 にゅるり? 「ば、ば、ば、しっ、し、し」 「抜歯?」 「舌とか入れんな、ばかー」 バチコーン 夜の公園にすがすがしいまでの打撃音がこだました。 みたいなの希望です。久しぶりに(俺が) [前へ] [戻る] |