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おしまいの後で

彼女はもう長いことずっと話し続けていた。
赤い唇はまるで意志を持った別の生きものみたいに忙しなく動き続ける。
僕は彼女の唇を眺めながら曖昧な相づちを繰り返す。
「ねぇ、どう思う?」
彼女は僕に尋ねるけど、殊更僕の答えを期待してるわけではない。ただ自分の抱える不満を肯定し認めてほしいだけだ。

彼女の話を聞くのが僕である必要はまるでない。
僕はただ彼女の必要とする答えを与え続ける。
虚ろな関係。
だけど僕はこの空っぽの繋がりを心地よく感じている。
近づきすぎず離れすぎず、適切な距離を保ち続けるかぎり僕は何も失うことはない。
そうして何も手に入りはしない。





君を失ってから僕はひどく臆病になってしまった気がする。

僕は平気で嘘を吐き続け、僕の中のすべての意味は一つづつ消失していく。
脱け殻になった僕はそれでもこの場所にとどまり続けやがて全てからおいてけぼりにされるのだろう。
僕はそれを望む



彼女はずっと話し続ける。僕は曖昧な相づちを繰り返す。
彼女は半分以上灰になった煙草を灰皿に押しつけ、ほんの少し腕時計をみて、珈琲をおかわりし、新しい煙草に火を点ける。

彼女の手首には僕が依然好きだった女の子と同様に何本も何本も白い線が刻まれている。

いったい僕は何をやっているんだろう?
本当に何をやってるんだよ僕は。

通り過ぎるすべての事柄に君の面影をさがしてみていったいそれがなんになるのか僕にはわからない。


粘膜のような空気が体にまとわりつき、僕の吸うことができる空気はどんどん薄くなっていく。
この油の切れたブリキ人形みたいなぎくしゃくした毎日が君が僕にかけた呪いだったら僕はどんなにか救われるだろう。



あの時、



なんで全部が終わってしまわなかったのか僕にはよくわからない



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