地下室で(芳香さんへ) ぐったりとしたまま彼女は動かなくなって、僕はやりきれなくなってしまう。いったいどうして彼女がこんな目に合わなければいけないって言うんだろうか。いつもニコニコと笑っていた明るく可愛らしい女の子だった。素直で優しい誰からも好かれるそんな女の子だったのだ。今僕の目の前にいる彼女には、以前の面影は欠片も残っていない。白く美しかった肌は無数のあざと傷跡で紫色に変色し、その可愛らしい顔はホラー映画に出てくるクリーチャーのようにあかく腫れ上がってしまった。僕は世界に絶望する。 彼女はガムテープで両手両足を拘束され僕の目の前で力なく椅子に腰掛けている。 僕のことを憎んでいるだろうか? 腫れ上がったまぶたからかろうじて覗き込める彼女の瞳からは光が消えうせ、そこからはなにも読み取ることができない。 笑うと三日月のように弧を描く彼女の瞳を思い出し僕はやっぱりどうしようもなく悲しい気持ちになる。 愛してたんだ。 そんな言葉はきっと言い訳にもならない。 暗い闇の中でようやく僕が見つけた希望の光はもう二度と輝くことはない。僕がこの手でその光を奪ったのだ。 彼女は後悔するだろうか。 こんな僕を愛してるといってくれた優しい彼女は、僕のことを憎むだろうか? 激しい後悔が僕を飲み込んで僕の脳を揺さぶり続ける。こみ上げる吐き気を僕はかろうじて飲み込む。 もう一度やり直したい、心からそう願うけど、きっと何度繰り返しても同じ結果にしかならないともう一人の自分が僕に囁きかける。僕はきっと狂っている。 何が愛だ。こんな暴力のどこが愛だ。ふざけるな。 僕はただ自分の欲望を満たしただけに過ぎないじゃないか。僕に救われる資格なんて一ミリたりともありはしないのだ。僕みたいな基地外に優しい言葉をかけたりするからこんな目にあうんだ。誰彼かまわず優しさを振りまくから。 君はまるで売女だ。 僕なんかに、僕なんかに… 僕は力なくぶら下がっている彼女の手を握り締める。 込みあげるどうしようもない後悔と怒り。 どうか僕を憎んでくれ、僕を罰してくれ。 どんなに祈ったって傷だらけの彼女の小さな手からは何の反応も返ってくることはない。まるで人形のように。 [前へ][次へ] [戻る] |