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少年とカラスと爆弾(バニラパフェさんへ)
締め切った部屋に窓から光が差し込んで、光の筋のなか粒子が場違いにきらきら輝く。

いったい。きみがなにを悩んでいるのか理解しかねるね。

そいつはいまやパソコンの置き台と化した学習机のイスの背にとまりながら、僕を馬鹿にするように黒い羽を動かしてみせた。

君にはわからないよ

僕が鴉だから?

そうさ、鴉にわかるわけがない

さっきの仕返しとばかりに精一杯の嫌味を込めて鴉に言ってみせる


鴉はやれやれと言った感じで真っ黒な翼を、2、3回、ばさばさ大きく広げてみせた。
ばさばさ。一回。
ばさばさ。二回。
ばさばさ。三回。
ばさ。

正確には三回と半。

それからとまっていたイスの背から一年中出しっぱなししてあるコタツの上に飛び下りる。コタツの上には灰皿とペッドボトル、ポテチの袋、食べ掛けのフライドチキン。その真ん中で佇む漆黒の塊が問い掛ける

君は一体何を望む?

僕は何一つ望まない。

それがでたらめだって事は鴉にも僕にもわかりきっていた。
鴉はまっすぐに僕をみつめる。

怖いのか?

『違う!』

思わず出てしまった大声に驚いて鴉はコタツから落ちそうになった。意識して無かった強い想いに僕自身まで驚いていた

僕は壊したい

答えは最初から決まっていて、それでも僕と鴉は儀式みたいに質問と答えをなぞらえる

なにを壊したい?

わからない


『全て』を。だよ


赤く鈍く光る瞳で鴉が僕の想いを代弁する。

『君が優しい人間を装い続けることが出来たのはただ力を持った事がないからだ』
どこかの映画の、誰かのセリフ。
自分を責め続ける事で辛うじて保っていた危ういバランスはとうの昔に限界を迎えていた。
爆弾の作り方はインターネットから入手出来たし、材料は驚くほど簡単に手に入れることができた。


だけど結局僕には何も出来ない?なぁ。そうなんだろ。

いつの間にか鴉は消えていなくなっていた。
僕の問い掛けは回りの空気に溶け込むことも吸収されることもなく、薄暗い部屋の真ん中で不安定に漂い続ける。
放置された食べ残しとテイッシュに丸められた体液から発する異臭とやすっぽい火薬の匂いが部屋中に充満し、カチカチと時計だけが永遠とも思える時をきざみつづけていた。

どうか誰でも構わないから僕のことを呼んで欲しい。
僕の名前を呼んで。
お願いだからどうか。

ここはとても暗く狭くて。
ひどく息苦しいんだ。



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