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秘密
六時十分。駅の前で女の子を待っていた。約束は六時。連絡しようかと思って携帯を取り出したらちょうど赤信号の向こうでおおきく手を振ってる彼女を見つける。信号が変わると僕の側まで走って来て、遅れちゃってごめんね。と息を切らせながら笑って見せる。

まるでデートのようだ。

自嘲気味につぶやく。

『ん。なんか言った?』

『なんでもないよ』


雑多な繁華街を抜けて裏通りにある穴場的な焼酎バーへ。薄暗い個室の座敷でとりあえず乾杯ってんでビール。
こうして二人で酒を飲んだりするようになって何回目だろうか。
彼氏にばれたら怒られちゃうから秘密にしててね?
悪ぶれるふうもなくニシシと笑う彼女が一体何を考えてこのような密会を続けているのか僕には見当も付かない。

『あー。ちくしょー。おいしいなぁ』

そう言って本当に美味しそうにビールを飲む彼女はとてもキュートで、たぶん僕は彼女の事が好きなんだろう。
幸か不幸か今までは何もなかったけれど酔っ払った勢いで…。というような不測の事態もありうるわけで。
余りに屈託のない彼女の態度に僕は男として眼中にないのではと思ったり。
たとえば僕が彼氏だったらどんなに他意がなかったとしてもやっぱりこんなふうに別の男と会われたりするのはいやだろうなぁ。
こういうのも浮気ってゆうんだろうか。

ちよっとした罪悪感を感じながら適当に料理を頼み終えると、

ちょっと聞いてもいいかな?

少しだけ神妙な顔で彼女が尋ねて来た

ん。何?

と僕。

『君はさぁ浮気とかした事ある?』


ぶぼっ

飲んでいたビールが気管にはいりこみ思い切りむせてしまった。

『ちょっ!だいじょうぶ?』


『べいき、べいき。つっかどうしたの?』


『ん。彼氏がさ浮気してるみたいなんだよね』

彼女の顔が暗く曇る

『え?勘違いとかじゃないの』

『メールで好きだとか愛してるとか言ってた』

『や、でも、ほらメールだけだったら』


『メールで会ってるふうな事言ってた』

『でも、ほら勘違いかも』

『日記と手帳にも会ってる事かいてあった』


『あー。…それはなんてゆーか…まめ?…だね』

これはちょっとフォローしようがない。
というかなんで彼氏をフォローしようとしてるんだ俺は。
ここはチャンスなんじゃないの?
今日彼女に気持ちを伝えなくていつ伝えるんだ!意を決して残ってたビールを一気に飲み干そうとしたら

『あーあ。あたしも浮気しちゃおうかな』

彼女がつぶやいた。


ゴバッ

またもビールを気管に流し込みむせ返る俺。

『ちょっ!だいじょうぶ?今日はどうしたの?』

『べいき、べいき』

むせ返りながらも心配する彼女を手で制する。

『つうかマジで言ってる?』

『わりと。本気。かな?』

ちゃーんす。
ビッグちゃーんす。

行け!
頑張れ俺。


『彼氏の事はいいの?』

『だってあっちが先に浮気したんだし…』

『君まで浮気したらもう元には戻れなくなるんじゃない?それでも平気?』


『……』


『彼氏の事嫌いになった?』


『………好き』


『だったら。そんなん思うの辞めときな。失礼だよ。君にとっても相手にとっても』


『かな?』


『です。』


『ん。わかった。』


『わかればよろしい』



っておーい。
俺はアホですか?
俺はアホなんですか?
なにそれー。
えーかっこしー。

つうか違うのよ。
俺は別に浮気相手になりたいわけじゃないのよ。当てつけの相手なんて悲しいだけだしね。
まぁ綺麗事ですが。
一瞬だろうが彼女が僕のものになるならそれいじょう望むものなんて僕にはないのに。

基本的にへたれなんだよ。
笑ってください。



新しい飲み物を注文して、彼女のグラスに小さく乾杯。

『何に乾杯?』

不思議そうに彼女が尋ねる?


『秘密』

と。僕





願わくば彼女が幸せであらん事を祈って

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