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彼女の世界(音羽さんへ)


テレビの向こうではとても無造作にたくさんの人間が死んでいる。
世界のかけらがゴミのように散らばって捨てられて行く。
だけどそれが僕になにかしらの影響を与えることはない。そこにあるのは事実ではあるけれども僕にとってはフィクションと変わらない。映画や小説の世界と一緒だ。

『愛がなーい!』
僕の耳元で珠希は叫ぶ

『うるさいな耳元で怒鳴るなよ』

僕は珠希を耳のそばから押し退ける

『どうしてそんな冷めた子になっちゃったかな―。昔は正義感の強い可愛い子だったのに。お姉さんは悲しい』

わざとらしい泣いたふり


『三つぐらい違うだけでお姉さんぶるなよな』


『なんだよー。昔はいつもあたしの後ばっか付いて来てたくせに』


『そんなのは昔の話だろ』


昔の話をされると少々僕の分が悪い。

『大体僕がどう思おうが戦争がなくなるわけじゃなし、関係ないのは事実だろ』



『私たちにもできる事はあるんだよ』


そういってテレビを指差す。

テレビには戦争難民の義援金募集のテロップが流れている


『こんなん実際困ってる人に届くかわかったもんじゃねーよ。自己満足。だいたいこれで戦争がなくなるわけでもないし、死んだ人も生き返んないし』




『でもね、きもちって大切だと思うの。現実的に力がなくっても誰かを思いやったり悲しんだりする気持ちが幸せにつながるんだよ?』

珠希はやたら抽象的な事を言う。珠希の話はいつもこうだ


『じゃあいまだ世界が幸せになんないのは珠希の気持ちが足りないからなんじゃね?』

これ以上下らない議論をする気もなかったので、平和な国に戦場の悲惨さをたれ流し続けるを胸くそ悪いニュースのチャンネルをかえる。他番組ではイジメを苦にした自殺を取り扱ったニュースが流れていた。
珠希の様子を気にしながら平静を装ってもう一度チャンネルをかえる。芸人がやたら大声で騒いでるくだらない娯楽番組へ。

珠希は頭が悪い。

珠希と話してるとイライラする。

珠希は偽善者だ。

無償でボランティア活動に参加する

大して金も無いくせに寄付や義援金に必ず協力する

毎月一回献血する

何度も人に騙される





イジメられてる奴をかばって自分がイジメの標的になる


珠希の体にはクラスの奴からつけられた痣が体中にある。
イジメは今も続いている。





確かに僕は中学一年にしては冷めた考え方をする方かもしれない。だけどどうしようもない現実に少しづつ何かを諦めてしまうのが普通なんじゃないだろうか?


珠希はずっと変わらない


人の心配なんかしてる場合じゃないんだ。なんでそんなふうに馬鹿みたいに笑えるんだろう。


きっとどうしようもない馬鹿なんだ

頭に来る



『何?』


僕の視線に気付いて珠希が尋ねる


『別に。』



僕は視線を戻して大して興味もないテレビ番組を見てるふりをする


僕はこの世界が嫌いだ。下らない糞みたいな世界だ。


だけどもしかしたら僕に見えてる世界と珠希の見てる世界は違うのかもしれない。




もしもそうなら僕は少しだけ珠希が羨ましい。



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あきゅろす。
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