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お題
4これがデートってもの?



気まずいのは何故だろうか。
ナオとただ歩くだけが異様に気まずい。

思い当たる節として、
第一にナオの態度がいけない。
まるで借りてきた猫のように大人しい上に、緊張か何かでガチガチになっている。
第二にいけないのは、服装だ。
非番だから兵の服は着ない理屈は解る。それが一般的な行動だいうのも解る。

しかしだ。

何ゆえ女の装いをしているんだ。
いや、ナオが女であるがゆえにその服装をしていることは至って問題はない。
しかし、エプロンドレスなんてものを持っていただろうか。ナオの所持している服を熟知しているのも可笑しな話だが、確実にナオの服ではない。
ただ、カーキ色の大人しい色をしたチョイスは何となくナオに合わせているようにも思える。
右側だけ伸ばした鬢(ビン)をくくる白いリボンも、多少の洒落気を出している。

ただ、ナオが手にしている剣だけが、全体的なバランスを崩しているようにも見えた。本来の目的は剣の手入れであるはずなのに。



「駄目だ!俺耐えられない!」



本日久しぶりに聞いた声は、恥ずかしいという感情を叩きつけるような叫び声だった。
両手で赤い顔を包み込み、立ち尽くしている。



「違うんだよ、何か、何でかアルマにバレてて、それでっ。
 あー、罰ゲームじゃんかぁ」



言い訳をするようにしゃがみこんだナオの言葉に何となく流れは掴んだ。
ナオと街に出掛けることが、誰かを経由してアルマの耳に届き、面白半分にナオに女物の服を着させて行くことで、僕達の反応を見て楽しもうという計画に乗せられたのだろう。
言いくるめられたのか、使用人たちの強制着脱にでも出くわしたのだろう。哀れなものだ。



「今から戻ると、帰りが遅くなるな」

「うぅ、戻んねぇよ。戻んねぇけど…」



行くにしても一度折れた心を持ち直す時間がほしいと目で訴えられる。
子どものように大きな黒い瞳が、情けない色をしている。

何故だか胸が締め付けられるような、ギュッと捕まれたような、そんな気持ちになる。


見ていられずナオから剣を奪い勝手に歩き出す。
慌てたようなナオの声が聞こえてきたが突き進む。
一度ちゃんとついてきているかと足元を見るように視線を低くして振り返ると、小走りぎみにしっかりついてきている。
ただ、足元が高いヒールの靴を履いているためか、走りにくそうに見えた。





しばらく突き進み、鍛冶屋に自分が持ってきた二本の剣と、ナオの剣を渡す。
はいはいとやって来た弟子の男は、少し困ったような顔で、今日は大分と客が多く多少時間がかかる。という。また夕方ごろに取りに来てほしいとのことだ。


店からでると、店先でしょんぼりと足元を見ながらナオが待っていた。
スカートの部分を持ち上げては軽くふわふわと遊んでいる。
髪が黒い分、街にいるものは話しかけないにしろそれなりに視線を集めていた。
軽く化粧もしているからか、見た目は女の子である。
しかし、何となく気に食わない。



「夕方までかかるらしい、来い」



そう言って、いつも服で隠れているナオの細い手首を掴み、グッと引く。
早く行くぞ、という気持ちであったのだが、



「ちょっ!」



急に引っ張った事と、履き慣れていない靴のせいでバランスを崩したナオがこちらに倒れ込む。
握っていた手首を、今度は引き寄せるように引く。
防衛本能からか、ナオの空いた方の手が僕の肩を掴み、ずれ落ちないように僕のもう片方の手がナオの腰を支える。

まるで抱き寄せたような構図になってしまった。
脈拍が周囲に聞こえてしまうのではないかという錯覚に陥るほど、バカになった心臓は痛いほど脈を打つ。
そんな胸の辺りにナオの顔があるのだから気恥ずかしくてたまらない。



「大丈夫か?」

「え、あ、うん」



とりあえず安否確認をして、ナオからゆっくり体を離す。
恥ずかしさからこちらを見ないナオの顔は赤く、見えていないがきっと僕の顔も赤いに違いない。
はあ、と体にたまった重い物を外に出すと、掴んでいた手首を離して手を握る。引っ張った事がいけなかったのだろうが、手だけは離したくなかった。訳はわからない。



「リセス?」

「服を買いにいこうかと考えていたが、その危うい足取りじゃまた転けられそうだ。靴屋にも行かないとな」

「バランス崩したのはお前が急に引っ張るからだろ?!」

「さっきもフラフラ歩いていたじゃないか」

「気づいてんならゆっくり歩けよな!」



はいはい、と生返事を返し、こんな短い会話でとりあえず平常心を取り戻す。
握った手だけがどうにも熱を帯びているが気にしないことにした。



「ほら、行くぞ」

「あ、な、なぁリセス!」



手を引こうとしたが、待ってくれというように空いていたナオの手が握った手を包むようにして引き返された。
なんだ?と振り返ると、更にグッと引かれて一歩大きくナオの方へ踏み行った。そこにナオの顔が近寄る。



「アリスから聞いたんだけど、旨いホットドッグ屋があるらしいんだ。腹減ったし、ついでに行かないか」



さっきまでの大人しい雰囲気なんて微塵もなく、食い気が先走るナオはいつものナオで、大きな瞳はいつものように光を名一杯集めてキラキラと光っていた。



「あぁ、あそこか。別に構わないが」

「本当か?!じゃあ、行こうぜ」



急に元気になったナオは、ナオを引くために繋いだ手を握り返し、逆に僕を引いて歩き出した。
へへっと笑う幼い顔はいつもねナオで、女の子らしいとは言えない豪快な笑顔だが、それがナオらしい。
高鳴っていた胸が収まりを見せ、やんわりと温かくなる。
それがなんとなく心地よくて、ぐっとナオの手をもう一度握り返していた。





これがデートってもの?




後にアルマにデートだとはやし立てられたが、断じて違う。




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あきゅろす。
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