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お題
2この熱は風邪のせい?



相手をしてくれないか?



久しぶりにナオからの申し出が来た。

最近気分が乗らないとか言って、手合わせをしなくなった。
何があったか知らないが、そうなのかと放っておいていたが、一人でやるよりは相手がいた方が訓練になる。


どことなく今日は寒い。


いい運動になると、申し出を受けたのはよかったが、何やらおかしい。
頭が鈍い。霞がかったように不鮮明で、動きが鈍る。

それを察したのは僕だけでは無かった。
間合いをとったナオは構えるのをやめ、不思議そうな目を向けている。



「リセス、大丈夫か?」



大丈夫だ、続けるぞ。
と言えなかったのは、一瞬世界がぐるりと回ったからだ。
ほんのわずかな間僕の視界の中だけ天変地異が起きていた。

足から力が抜ける。

それでも倒れなかったのは、ナオが駆け寄ったからだろう。
それすら理解するのに時間がかかるほど頭が使い物にならなくなっていた。


これは確実に体調が悪いな。なんてぼんやりと思っていると、不意にナオの顔が近寄ってきた。


気になるほどでもないが少し焼けている健康的な肌だ。

そう言えばこいつは黙っていればガキ臭いが可愛らしいと評判だ。
気付かなかったが、まつ毛は長い。だからよりこの大きな瞳が大きく見えるのかもしれない。


こつりと額に何かが当たる。
鼻が当たりそうな程近いんだ。ナオの額だと解りそうなものだがそんな事より気だるかった。



「熱あんじゃん」

「…そうか」

「そうか、じゃねーよ」



徐々にナオのの顔が離れ、心配でもするように情けない表情が見やすくなった。
何となく怒っているようだが、声を控えているのはそれなりの気遣いだろう。



「今日はしっかり休め。大丈夫なんて言うなよ。大丈夫じゃねぇんだから。むしろ大貧弱」



何故か小馬鹿にされたような心配が心地よくて、悪態の一つもつけぬまま。
ただ黙って、ナオの肩を借りて自室に向かった。
その道のりは妙に長かった。そのせいか、ぶつぶつのナオの文句を聞かされたが、あまりはっきり覚えていない。
ただ、風邪を引いてしまった後に何を言っても仕方がないだろう。

面倒だから言わないでおいたが。



部屋のベッドに寝かされると、ベッドの横にナオが座り、熱を測るように額に手が乗った。
ひんやりとした手が冷たくて、からだが気だるくて、瞼が自然に閉じていく。



「熱、上がっちまってるな…」

「…そうか」

「そうかじゃねーって…」



そう言って離れていく手が何故か嫌で、無意識にその手を掴んでいた。



「おい、人呼んでこれね」

「…冷たい」

「ばーか、そんな冷えてねーよ」



目をつぶっていたから確かなことは見えないが、ナオの声が少し笑っているように聞こえた。





****



目が覚めると、大分と気分は晴れていた。
しかしまだ体はだるい。
熱だけ引いたのだろう。
ふと頬に何かが当たっている。手のようだが、自分の手にはそんな感覚はない。しかし何を握っているようだ。

なんだと体を起こしてみれば、ベッドにすがるように寝付いているナオの手を握り締めていた。


不意にフラッシュバックする昨日の痴態。
何を子供のようなことを。


バッとナオの手を離し、自分の顔に手をやる。
引いていたと思った熱が顔に集まるのが妙にはっきり解った。







この熱は風邪のせい?





大事をとってもう少し休もうと思う。






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