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●闇に咲く華
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闇に咲く華1    

「…――目覚めたか。」
白蓉は顔を上げた。
呼びかけられたから、ではなく。その声がもつ力が、視線を向けることを強いた。
「面白いものだな、月光のみで育てたものを、髪も目も漆黒とは。」
男の声が笑みを含む。
「だが、見目は佳い。」
幼体になったばかりで潤んだ白蓉の視界に、赤い色が迫る。
ゆっくり瞬きをした白蓉の頬を、溢れた涙が伝い視界が開ける。
燃えるような赤い色をした髪と瞳をもつ男がいた。
「名を」
言え、と男の赤い双眸が促す。
「……白蓉」
生まれて初めて紡ぐ言葉は、少しぎこちなかった。
「では、白蓉……」
大きな手が、幼い白蓉の頬に触れ涙を拭った。
「お前は誰のものだ?」
それは、問いかけであり、問いかけでない。
定まった答えを強いる問いであった。
「───わたしは……」
答えが喉の奥で絡まった。言ってはならぬと、本能の声がする。
「わたしは───」
「──言え、誰の物だ」
深みを増した声と、支配者の双眸に、白蓉は身をすくめた。
純粋な恐怖が、本能の警告を無視して言葉を紡ぐ。

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あきゅろす。
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