愛染* ※性描写有り注意。 (さよならぼくらの世界。) 人は終焉を垣間見た時、無性になにかを求めてしまうもののようだ。生きている限り死はいずれやってくる、その瞬間手を伸ばしても掴めない気がして恐ろしくなった。無性に寂しくなって、しかしそれは愛しく尊いものでもあると思った。 自分にとって、優渥でいてとても愛しい人。いずれ乖離してしまうと分かっていながら、それを頑なに否定して、夜の帳の中、俺は目の前の男にしがみついた。 触れた彼の腕からは温かみが無い。今更驚くような事ではないし、何よりもこの腕がどれだけ温もりに充ちているか、肉体的ではないが、ほわほわと胸の奥に伝わるその温もりを知っている限り俺は何度もこの男に触れるのだろう。 己の視界に映る、この男の蒼眼に宿した熱の意味も、全て、全て、自分だけが知っている。求めるものも、そして自分に求められているものも知っている。 それは幾星霜を廻っても、自分だけが知っていること。 離れたくない。傍にいたい。 きっとこの男もそう思っている。そう願ってしまうのは少なからず傲慢だろうか。 テイトは自嘲気味に微笑する。縋るように、するりと目の前の男の胸に手を這わすと、そのままシーツの海に押し倒された。 抵抗なんてなかった。今更拒絶なんて意味が無い。欲しかった。現実に怖くなって、無性に彼の熱を求めた。 自分から催促するように、フラウの服の釦をひとつひとつ外していく。あまり慣れない為その手はたどたどしい。それを慈しむように目を細める彼の瞳に、顔に熱が集まった。 釦を全て外し終えた刹那、フラウの大きな手によって衣服が託し上げれて、衣服が皮膚に擦れただけでその部分から熱が生まれ、小さく詰めた息が漏れる。 「フラウ」 熱を含んだ声で小さく名を呼ぶと、返事をする代わりに優しい手つきで額に触れてきた。まるであやしているようで、切なくてぽろりと涙が零れた。 「…フラウ」 もう一度名を呼ぶ。何度も何度も、その存在を確かめるように。額を撫でていた手が前髪を掻き上げて、そっと額に唇が触れた。その唇はそのまま啄むように目尻や鼻筋を通って、俺の唇を噛みつくように貪りにきた。 荒々しく、けれどどこか優しく。なかなか慣れない行為だったが、今はなんとか応えようと自ら舌を出して催促するようにフラウの首に腕を回した。 「……ふ、…んぅ…っ」 息を吐き出す度に声が零れる。以前ならば無理をしてでも声を漏らすまいと我慢していたが、今はそんな余裕はどこにもなかった。欲しい、愛したい、ただそれだけが脳内を支配する。 フラウはバサリと音を立てて、身に着けていた服を床へかなぐり捨てる。露わになったその逞しい躯に見惚れる隙すら与えずに、視界を塞ぐようにその唇が胸へと降りてきた。目の前には金色。 その唇は鎖骨から肋骨のひとつひとつを愛しむかのように滑らせ、指先で胸の頂点をやわやわと弄る。それだけで躯は燃えるように熱く、目の前にある金色の髪の毛にしがみついた。 「やめるか?」 微かに震えるテイトの手首を撫でて、熱を含んだ双眸を見詰める。気遣いの眼差し、この人はどうしてこんなにも、優しいのだろう。 テイトは首を振って、小さく微笑んでみせた。 「怯えてるわけでも、怖いわけでもないんだ。――ただ、」 お前と離れ離れになるのが辛いんだ――。 そう続くはずの言葉は唇に奪われた。それ以上は言うなと見詰める蒼眼が語る。今までに見たことがないくらい切ないその瞳に口付けて、ぺろりと小さく舐める。 舌先に感じる睫の感触と、少ししょっぱい味覚に、この男も泣くのだと、無性に切なくなってぽろりぽろりと涙が溢れた。 「すき。…俺、お前のこと大好きだ」 止まることを知らないこの感情をどうしたらいい。切なくて辛くて胸が張り裂けそうだ。 辛い。辛い。辛い。もうどうにかなりそうで。 するりと下腹部に這う手が内股を撫で上げて、既に主張し始めている張り詰めたものをゆるゆると扱き始め頂点を掠める。それだけですぐに達してしまいそうになる俺を、許さないとばかりに根を強く握られた。 「…ア、ッ…は、ッ」 強い刺激に眉を顰める。その間も体中に与えられる愛撫に絶え間なく声が漏れる。腰を震わせ愛撫に喘ぐ様はまるで女のようだ。一人先走って零れる精を、フラウは指で掬ってそのまま更に奥の陰部へと指を滑らした。腰が一際震え、一度跳ねたその隙につぷりと指を挿入させる。 その瞬間、慣れることのない異物感がテイトを襲った。自分の熱を吸い取るかのような、フラウの冷たいその指が与えるものは余りにも性急で、彼も余裕などないのだと思い知り、そして嬉しくも思った。 「ア…ふら、ッあ…」 侵入する指が最奥の自分の弱い所を見つけ、刺激する。次第に指が増やされ与えられるその快感に意識が飛びそうで、必死にフラウにしがみついた。 「ァアッ、…あ、ッ」 「……テイト」 「ふ、らう…っ、あ、アアッ!」 擦り切れそうになる意識を引き戻したのは灼熱。熱を孕んだ彼。 隙を与える間も与えず侵入してくる指とは比べものにならないくらい張り詰めるものに呼吸が苦しくなる。 「テイト」 「…ひ、あ…っ」 鼓膜を振動させるその掠れた声だけで腰が震える。 呼んで、呼んで。もっと名を。消えてなくなってしまう前に、離れてしまう前に。 耳朶を唇で甘噛み囁くフラウの顎を捉えて、汗で艶めく髪に手を伸ばし、そのまま引き寄せ唇を喰らう。我ながら情熱的過ぎるだろうか。フラウの驚いた気配を感じ取って、テイトはその蒼眼を覗き見た。 熱を孕んだその瞳はなんとも妖艶で、それだけで躯が燃え上がるようにさらに熱くなる。 どうにかして欲しい。塞がれ逃げ出すこともできない熱も、この胸を締め付ける悲しみも。この溢れる愛しさも。 愛してるなんて言えない。だって愛してる以上に愛しいのだ。 「……っ、ふ…」 伝えきれない想いに、涙が溢れた。カチリと時折歯同士がぶつかる音がして、まだたどたどしい口付けしか出来ない自分が悔しくて、いつの間にか漏らしていた嗚咽に、フラウが優しく髪を梳いた。 「テイト」 なんて優しく甘い声だろうか。 鼓膜を伝って脳内へ波紋が広がるように浸透して行く響きに、そっと唇を離した。 「フラウ、」 「ん?」 「フラウ、フラウ、…ふらう…っ」 「テイト」 離れたくない、なんて口に出来ない事ぐらい分かってる。それがどれだけ意味を齎さない言葉だということも。 だからせめて、繋がっていたい。 世界が無くなるまであと数時間。ドロドロに溶け合うように愛し合いたい。今なら、今まで恥ずかしくて言えなかった言葉だって言える気がする。 「 」 蚊の鳴くかのような小さな声。それでも彼に伝わったようだ。その証拠に、滅多に拝めない彼のそれはもう嬉しさに満ちた優しい微笑みが返ってきた。 (フラウ、フラウ) 降りてくる唇に、与えられる熱に、溢れんばかりの愛情に。愛しさと切なさが胸を締め付けて、幸せなのに辛いのは何故だろうか。 幸せなのに。幸せなはずなのに。 (――離れたくないよ) 愛染 (とけて、とけて、とけて) (ぼくらは、どこに行くのだろう) 世界が明日には無くなってしまう、というもしもな設定で。 疑問符が飛びまくる。でもそんなよくわかんない話が書きたかったのでちょっと満足。 フラテイ初裏。そして物凄くシリアス。でも愛はあると信じています。 キャラ崩壊もいいところだ\(^o^)/ 2010.7.23 [*前へ][次へ#] |