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私は絶対あなたを愛さない
11 ソレハ、過去ノ香リ
すべてが、炎。
まわりには、泣き崩れる人、涙をこぼしながら怒りに震える人。

ねぇ、なんで泣いてるの?

どうして、そんな悲しい顔するの?

まるで、そこにいる小さな少女に気がついたように
先ほどまで泣いていた人々は少女にありえぬ怒りを向けた。
泣き崩れていた人々も、怒りに震えていた人々も。
少女の存在を否定するかのように。
憎悪を向けたのだった。

普通なら、耐えられないほどの殺気に包まれながらも
少女は微笑んだ。
こんな場面ではなかったら、誰もが見とれてるほどの美しい笑み。
それでも、人々は余計に殺気を強くする。
少女は声をたてて、笑い始めた。
おかしい、と言うばかりに。

「ねぇ、なんで泣いてるの?」

少女の口から出た言葉に、人々は武器を持って襲いかかった。
それでも、
少女はよけることもせず不思議そうな顔をしてる。

「だめだ!!」


目の前に広がるもの。それは、真っ赤なモノ。
赤薔薇。
大好きだった。
また、それが見れる。違う。そんなんじゃない。
そんなんじゃない。
ソレハ、真っ赤ナ血。

シュリは飛び上るように起き上がった。
さっきのは悪夢。
悪夢なのに、夢なのに、こんなにもリアルに感じてしまう。
まるで、
現実にあった出来事のように。
そんなふうに。

全身汗びっしょりになっていた。
髪も汗で身体にぴったりくっついている。

まだ、夜中だった。
あのあと、すぐ身体を清めて眠りに入ったのだ。
今日は何だかんだで、体力を使った。
だから、早く眠れると思ったのに。

「お父様…。オリゼ…」

シュリの頬には涙が伝っていた。
故郷を想ってか、悪夢による恐怖からかは分からない。
でも、シュリは一人なのだ。
もう、誰もなぐさめてくれることなんてない。

人質として、独りでいることは
何より精神を追い詰める。
それも、十六の娘にだ。

『シュリ。泣かないで』

水の精霊が来た。涙も水のようなうるおいをシュリは持ってる。
だから、精霊が心配そうな顔で覗き込んできた。
涙はそれでも止まらない。
シュリはそれでも微笑んだ。

大丈夫、と目が言っていた。

「ありがとう」

シュリは震えながらも言う。
精霊はそれに気づき、そっとシュリを抱きしめた。透き通っているが、
シュリの前では触れることができるような身体になる。
それが、
何より精霊が彼女を愛し、彼女も精霊を愛してるということをあらわしていた。

『シュリは聖エベレスト王国に帰りたい?』

精霊はシュリにそっと聞く。
ビクリと彼女の身体はすぐ分かるほど、震えた。
これが、
何よりの願いだということをその震えが物語っていた。

「ううん。私はあの国のために、ここに来たのだもの。帰りたいけど、この国にいるわ」

シュリはにこりと微笑んだ。
強がりの笑み。
どんなに帰りたくとも、帰らない。
それが、
シュリの小さな強がりだった。

『私たちはシュリの味方。シュリはこの国でも独りじゃない。私たちがずっとそばにいるから』

水の精霊たちが集まっていた。部屋からあふれかえるほどに。
温かかった。
何より、暖かかった。

「…ありが…と…うっ…」

シュリはこらえられなかった嗚咽を唇を噛み、おさえる。
こんなにも精霊を愛おしいなんて思ったことがなかった。
ずっと、好きだった。
でも、ここまでこの精霊たちの存在を大きく感じたことなんてなかった。
独りじゃないと感じたことがなかった。

『私たちが結界を張ってるから、シュリは泣いていいよ。嗚咽もいいんだよ。
私たちが絶対にもらしたりしないから』

精霊たちの言葉に、シュリは我慢の限界とばかりに
声を出した。

「帰りたいよ!! こんなとこやだよ!! みんなに会いたいよ!!」

シュリは水の精霊たちに抱きついた。
小さな肩は壊れてしまいそうなくらい、細く震えてる。
何度も泣いていた。
それでも、どこか感情を抑え
必死にたえるだけだった。

「苦しいよ!!」

シュリは今までにないくらい声を出して泣いた。
まるで
小さな子供のように。
苦しいものをひたすら、出すかのように。

その間、
ずっと精霊たちはシュリを抱きしめてくれていた。

それが、何よりシュリに
とって温かくて
この国で唯一存在する安心するぬくもりだった。


セミルは夜中に目を覚ました。
精霊たちの気配を感じたから。
それでも、セミルと契約を結ぶ精霊たちではない。彼もすべての精霊に愛された男。
この世には
二つの精霊が存在する。
水の精霊でも、魔を操る精霊と、自然を操る精霊がある。
シュリを愛した精霊たちは自然。
セミルを愛した精レたちは魔を操るものだった。

この二つの精霊はぶつかり合うことが多い。
自然と魔。
お互い、敵同士のようなものだ。
そのせいか、シュリの部屋からでる精霊の気配をかんじ
セミルの精霊たちが姿をあらわしていた。

『この国の次期王妃は自然なんだって聞いたよ』

魔の精霊がセミルに話しかける。
セミルは思わずふっと笑った。

精霊たちはたしかに、主人を愛す。
だけど、その主人に仕える必要がなくなったら
すぐ牙をむく。
だから、主人は常に強くないといけない。
付け込まれてはいけないのだ。

「今は何も攻撃するな。場所を選んでおけ」

セミルはそれだけ言うと、ベランダへ足を運ぶ。
そこには
精霊たちがふわりと舞い降りていた。
魔といっても
セミルを主人と思い、愛してる精霊しかいない。

「自然の精霊に囲まれてなくのか…」

セミルは結界からでも分かった。
見えない。
でも、かすかに感じる悲しみの波。
それは
精霊ではない。
精霊より強い波。
悲しみの波。
だから、
シュリは泣いている。
精霊に囲まれながら。

精霊のぬくもりをこの国の何よりも愛おしく感じているのだろう。

ギリ
唇をかむ。
精霊などのぬくもりなどもとめなければいい。俺の傍で泣けばいいのに。
そんなことしない、とでもいうように
小さな強がりを続ける。
そんなの
許し難いことだった。

「もうすぐ」

セミルはシュリを手に入れることしか考えられなかった。
精霊より
自分のそばにいてほしかった。
そんな強がりやめて
自分のそばにいてくれればいいのに。
それぐらい
セミルはシュリを愛していたから。

精霊より、俺を愛せばいい

今日は全部の小説更新
遅れてすみませんでした(5・11)

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