[携帯モード] [URL送信]

私は絶対あなたを愛さない
09 遠い空に誓う
シュリは固まるレイをじっと見つめた後、空を見上げた。
きっと、私が死んだら、この国の人は喜ぶだろう。喜ばなかったとしても、何の後ろ盾もない王女が死んだだけと思うくらい簡単な気持ちなのだろう。
それならそれでいいかもしれない。
だけど、
聖エベレスト王国を馬鹿にするのは許さない。そんなこと絶対に。
そのために、
遠い空に誓う。
私が守るべき国を忘れないために。
レイを通して、この世で1番憎む王子に―――

「レイ。夜会に出たいわ」

シュリはやっと意識を戻したレイに言った。
夜会に、と。
レイは思わず目を見開く。
その理由がシュリに分からないわけがなかった。
彼女は
もう何も知らないわけではないのだから。
この国でどういう扱いを受けるか分かっているはずなのだから。それなのに、どうしてわざわざその世界に飛び込もうとするのだろうか。
思ったことが顔に出ていたのだろう。
シュリはくすっとかわいらしく笑った。それが、おかしいというように。
何も恐れてないように。

「聖エベレスト王国の名に恥じぬ王女でいればいいのでしょう。だから、出たいわ」

手に精霊をのせていた。が、レイには見えない。
だから、何をやっているか不思議そうな顔をしている。シュリは精霊にそっとキスをおとし、空へ飛ばせた。
すべての精霊に愛された王女。
そう言われてきた。
だからこそ、人間には愛される。無意識に人を簡単に引き付けてしまう。精霊さえも引き付けてしまうくらいなのだから。
この容姿はそれには適している。
自分を売ることなどしない、聖エベレスト王国が、私が愛した国を馬鹿にした貴族たちに後悔させて見せるだけ。
それだけのために。
恐ろしい世界に飛び込むのか、そうレイが目で訴えかけてくる。
シュリはそれもおかしくて、思わず笑ってしまう。

恐ろしい世界?

そんなもの、もうない。もっと、己の意志を強くしないといけない。じゃないと、
この心はいとも簡単に折れてしまう。
さっきも折れてしまいそうだった。そして、今も心は血を流し続けてる。だけど、それに目を向けてばかりではいけない。
血が出ていても、立ちあがらないといけない。
決めたのだから、あの国を守るって。国のために生きるって。

「わかりました。セミル様にお伝えします」

レイはそれだけしか言えなかった。
夜会などろくなところではない。それは、レイ自身がよく学んだ。食うか、食われるかの世界なのだから。細く儚い彼女がその世界に足を踏み込んだら、骨までしゃぶりつくされるのが目に見えている。
それでも、行こうとするのか。
聖エベレスト王国のために。ただ、それだけのために。

「それと、今日は自室で休むわ」
シュリはそれだけ言うと、ベランダから、出て行こうとした。
レイは思わずひきとめる。
「どういうことでしょうか? 今日はセミル様の…」
シュリはキッとレイを見た。
こうも言わせるのだろうか。今ここで言わないといけないのか。
シュリはそう眼で言っていたが、やがてあきらめたように口元に弧を描いた。
「きたのよ。月にくるアレが」
レイは思わず目を伏せる。
彼女が言いたくないわけがわかった。こればかりは、夜のことはできない。


「夜会?」

セミルはレイの報告に思わず政務のためのペンを止める。ペンの先からインクがたれるが、そんなことよりレイの言葉のほうが気になった。
シュリがわざわざ夜会など行きたいなどと言ったという報告を受けていた。
それも、彼女にとっては+になるところではない。
それを分かっていながら、なぜ。

「国が馬鹿にされるのが許せない、と。そう眼が言っていました」

レイは直接言われたわけではないが、シュリの目はそう言っていた。
自分のことより、大切な国が。

「今夜、聞いてみよう」
セミルが答えると、レイは頭を下げて言葉を濁した。
「どうした?」
そんな態度をされたら、シュリに何かあったのかと思ってしまう。
聞かずにはいられなかった。
「それが…シュリ様は月の…」
レイが言おうとしている言葉は嫌でもセミルに分かってしまった。
女は月に5〜8日くらい血を出すことを知っている。(人それぞれです)

それを知っていても、己の中にあった熱が渦巻いていることを知っていた。

「レイ。もうさがっていい」

セミルが命じると、レイは静かに下がっていった。
夜にやることがなくなったため、たまっている政務に励むことにしたのだった。

何かでまぎらわさないと、狂ってしまいそうだったから―――



たとえ、心が血を流していても

近々、番外編も更新します!!(4・29)

[*前へ][次へ#]

9/12ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!