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私は絶対あなたを愛さない
08 すべてが
シュリはベランダで紅茶を飲んでいた。
彼女が、レイに無理を言ってベランダでティータイムにすることにしたのだった。

森を見ながら、シュリは考えていた。
今夜はセミルの相手にされる。
和解のために連れてこられた王女。
そんな女に構う必要などあるだろうか。

ほっといてくれればいいものを。

シュリはかわいらしい唇をギリっと音がするほど噛む。
己の身体がけがらわしいものにしか感じない。
汚されたとしか、思えない。
神ピレキがその姿を見たことが、何より屈辱でしょうがない。
だけど、逃げるわけにはいかない。

それなら―――

シュリは子供など欲しくなかった。
逃げるためには、彼の手から逃れるためには必要だった。
それでも、ほしくなかった。
愛しくもない男との間の子供なんて、

―――愛してやれるわけがない。

愛がないまま育った子供がどんなふうになるかは知らない。
だけど、私は愛情をたくさんもらって育ったから。
幸せだったから。
それがなかったら、きっとさびしかったにしょうがない。
それなら、
愛してやればいい。とでも思うかもしれない。

でも、愛せない。
愛してない男との、それも、憎い男との間なんて。

「ふふふ」

シュリは思わず笑ってしまった。
声を出しながら。
結婚をする意味など分かっている。
子孫を残すため。
自分のあとを継ぐものをつくるために。
愛のない結婚だってする。

だから、愛人をつくるのだから。

「レイ。私以外に後宮に暮らす方はいないの?」

笑ったシュリを監視するような目で見ていた、レイに彼女は話しかけた。
愛人、側室がいたほうが気が楽だ。
いくらでも、いるだろう。
あの男なら。
神の前で平気で純潔を奪ったあの男なら!

「シュリ様以外、側室の方もいらっしゃりません」
レイは次の紅茶を優雅に入れながら、シュリの質問に答えた。
思わず目を見開く。
私以外、妻がいないと?
思わず立ち上がっていた。
そんなの、
許せない―――

「私以外いないですって!?他国との交流で必要なことくらいあるでしょう!?」
シュリは怒鳴るようにレイに聞く。
まわりの侍女たちは、取り乱すようなシュリの姿に何の感情もこめない瞳を向けるだけ。
それも、シュリの気持に油を注ぐような行為だった。
「はい。ですが、セミル様は側室の方すら持とうとなさりません」
レイがそれだけ言うと、シュリはあたりを見回した。
侍女たちは義務的に並んでいるだけ。

「さがっていいわ」

シュリがそれを言うのを待っていたというばかりに、侍女たちはすぐ
そそくさと出ていくのだった。

その姿が、
何よりも悔しく。
何よりも悲しかった。

私を馬鹿にするのは耐えられる。
だけど、聖エベレスト王国すべてを嘲笑うような
あの軽蔑した目。
それが、許せなかった。

「レイ。私はあなたと一緒にいることが嫌よ」

シュリの口から出た言葉に思わずレイもわが耳を疑った。
はっきりと嫌、つまり嫌いなどと
面と向かって言われたのは初めてだったからだ。
セミルの姉的存在として育ち、
絶対信頼を置かれる貴族の娘なのだから。
いくら、厳しいことをしていても貴族の娘なのだ。
他の娘とは違う。
蝶よ、花よとシュリと同じように愛情をもらいながら育った。
だから、そんなこと言われたことがなかった。

「だから、あなたに言うわ。聖エベレスト王国はすばらしき国よ。私が守るべき国よ」

シュリは目を見開くレイに向って
誰もが見とれてしまうほどのかわいらしい笑みを浮かべた。

その心は血を流しながら―――

白ユリは血を流す


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