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私は絶対あなたを愛さない
05 この震えの意味は…?
心を決めたシュリは己の色が濃くなったように感じた。
色が濃くなったといっても、強くなったというべきだろうか。
上手く表現できないが、とにかく心が強くなったということだろう。

「シュリ様。お休みになられないのですか?」
レイが馬車の中で夕方になっても祈りを捧げるシュリに耐え切れず聞いてきた。
もうすぐ、レオナルセリト王国につくころだろう。
その時に倒れてしまったらレイの責任になるからだろうか。
「もうすぐ着くのでしょう? それなら、祈りを捧げるわ」
シュリは祈りを止めることなくレイに答えたのだった。

だから、気がつかなかった。
レイの瞳がシュリのことを困惑で見ていたなんて。


「父上。 もうすぐレオナルセリト国境です。 シュリを相乗りさせたいと思います」
セミルは王である父に許可と言う表の言い方で聞いた。
これは聞くと言っても返事は分かりきっていることだ。
「わかった」
王はそれだけ言うと、セミルのほうを見ることなく先頭の護衛たちに近づいていくのだった。

「相乗り…ですか」
シュリは祈りをやめて、セミルのほうを見た。
精霊たちから王とセミルとの話を聞いていた。
レオナルセリト国民たちが出迎えなのだろう。
シュリではなく、王と王子を。

「わかりました」
シュリは窓から抱きかかえられるようにセミルに馬に乗せられた。
ほっといてくれても独りで乗れたものを。
シュリはセミルの身体を背中で感じながらも、丸まりそうな背中をあえて伸ばすのだった。

負けない。

シュリは口元に笑みを刻んだ。
彼女の態度で聖エベレスト王国の未来は決まってる。
それなら、どんな貴族の娘たちより優雅にふるまってみせる。
聖エベレストの名に恥じぬように。


セミルはにこやかな笑みをつくった。
冷酷な王子も国民の前では美しい笑みの王子となる。
それをすることで彼の冷酷さは国のためにやっていると勝手に解釈してくれる。

シュリがあえて背筋を伸ばしたことを彼女の横にまわした腕で感じていた。
しなやかでまだ成長段階だが、あと数年後は誰もかなわぬしなやかなラインをかくだろう。
それを誰にも見せたくはない。
和解のしるしとして嫁いできたが、舞踏会も出さず部屋にだけ閉じ込めてしまうのもいいかもしれない。
彼女の成長は他の誰にも見せたくない。

セミルは己の独占欲の強さに驚きながらも、それは顔に出さなかった。
身体は手に入れた。
彼女が愛する神、ピレキの前で。
それが彼女にとってどれだけ屈辱であるかを知っていて。
あえてピレキの前で奪ったのだ。

だけど、それだけじゃ手に入れることなどできなかった。

彼女の心。
ここでは、聖エベレスト王国のために優雅な娘になるだろう。
じゃじゃ馬だと言われても一国の王女だ。
国の名に恥じぬように完璧な王女になるだろう。

セミルにとってそんなことどうでもよかった。
聖エベレスト王国と和解をしたことを国民はあまりいい目で見てない。
和解などするより領地にしてしまったほうがいいと思っているのが大半だろう。
力の差なんて分かっていることなのだから。
それでも、レオナルセリト王国はあえて和解をした。

セミルがシュリをどうしても手に入れたかったから。
それなら国を領地にしてから手に入れることもできたといわれるだろう。

シュリはそんなこと認めないだろう。
国と一緒に自害しただろう。
王族らしい死に方で。
それに、たとえ自害を防げたとしても彼女を縛るものがなくなる。
簡単に消えてしまうはかない命なのだから。


セミルは身体だけではなくシュリの心を求めているのだから。


シュリとセミルは相乗りしたまま国民たちの前に現れた。
夜になろうとしているが、道を囲むようにいる国民たちはあふれんばかりの歓声を送る。
それでも、シュリに送っているのではなくセミルや王に送っているのだ。
シュリを見る瞳はただの興味本位だった。

それでも、シュリを見た瞬間国民たちは瞬きすら忘れた。
ゆるやかに微笑み金髪の髪は静かになびき、セミルと並んでも引けをとらないほどだった。
聖エベレスト王国第3王女シュリ、わが国セミル王子と同じくすべての精霊に愛された少女。
その理由が国民にも分かってしまうほどだった。

彼女がまとうオーラ。
それは神秘的でそれでも儚い強さのようだった。


シュリはにこやかな笑みをしたまま小さく身体を震わせていた。
怒りからなのか悲しみからなのかは分からない。
ただ、震えが止まらなかった。

シュリは自分の身体を拘束するように抱きしめてくるセミルに対して顔を引きつらせそうになった。
ここでは王子に愛され、幸せな王女なのだろう。
シュリはにこやかな笑みを崩さなかった。
城の与えられた部屋に入るその瞬間まで―――。

彼女を迎えるのは興味本位の世界
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あきゅろす。
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