[携帯モード] [URL送信]

私が愛した復讐の相手(ヒト)
03 舞踏会は砕け散る
夜中に出版社の担当者から小説家としてデビューすることに決まった。
その男とはすでに裏取引でずっと前に本として印刷してもらっている。
明日から、もちろん本として書店に並ぶのだった。
便せんの1通の宛名をボールペンで書き直す。

『伊藤 えり様』

もう1通に

『森 駿介様』

そして、最後の1通には

『澤池 隼人様』

それを書くだけでも胸がつぶれてしまいそうだった。

えりはとっても純粋だった。
覚えてないでしょうね。
えり、私たちは出会ってるのよ?
私が小さくて幸せだったあの頃に。

駿介は何も知らなかった。
父親たちがどんな悪か。
彼に罪はない、そう分かっていても許すことなんてできない。
たとえ、私を愛してくれているとしても。

隼人はすべてを知っていた。
私のことも、両親のことも。
彼は今でも愛している。
今も思い出すだけで胸は押しつぶされてしまいそうだった。
愛しているからこそ、彼には幸せになってもらいたかった。

すみれはあわててせき込んだ。
小さなころから持っている病気。
それは、20まで生きられなかったはずだった。
なのに、今も生きている。
ただ、もう時間がなかった。

すみれは息を整えながら、ふっと微笑んだ。
お父さん、お母さん。
もうすぐだよ。
もうすぐ私もあなたたちのそばに行けるよ…

すみれは深い眠りについた。


すみれが行う舞踏会まで2日

書店には澤池家の紹介まで書いてある本が並んでいた。
もちろん、すみれが書いたものだった。
『空色 水川すみれ』
すみれは並んでいる本を眺めながらふっと微笑んだ。
舞台は整ったわ。

その日の夜。

やっぱり、あの男の部屋、社長室に呼び出された。

「失礼します」
すみれは少し胸元があいたシャツをわざわざ来ていた。
あの男、晴朗はすみれをイスに座らせた。

「水川すみれ君。 君に話したいことがある」
晴朗の言葉にすみれは己の耳を疑った。
話したいこと?
「君の両親の話だよ」
晴朗の言葉にすみれは目を見開いた。
私の正体を知っていたの??

「今さら何を聞けとおっしゃるのですか?」

すみれは冷たく言い放った。
晴朗はそれを黙って聞いていたが、すみれの目をじっと見た。
「すみれさん。 君は誤解している」
すみれは晴朗が冷静なほど怒りが湧き上がってきた。

「誤解? 何をですか!? あなたが殺したのは事実なのに!!」
すみれは怒鳴るように言っていた。
晴朗は目を閉じた。
そして、ゆっくり口を開いた。

「君のご両親は自ら命を絶ったんだよ」
晴朗の言葉に思わずすみれはまた目を見開いた。
自ら?
そんなの都合いいように作っているだけ。
「これを君に」
晴朗は手紙をすみれに渡した。

それをあわてて開くとそこには母の字だった。
間違いなく。

『すみれへ。
私たちには借金があったの。
だけど、あなたを巻き込むわけにはいかない。
たしかに、社長の裏仕事を見てしまった。
それを告げぐちしないかわりにこの家に火をつけてくれと頼んだのよ。

社長の娘さんは裏仕事のとき、敵側の方が間違えて彼女を階段から突き落としてしまったの。

だから、あなたの代わりに私たちと一緒に…
勝手なことだと分かっているわ。
ただ、あなたはこのことを忘れないで。

私たちはいつまでもあなたの幸せを願ってるわ』

すみれは思わずそれを落としてしまった。
誤解? 
自殺?
どうして!?

「恨むのも仕方がない。 私たちが放火したのは事実なのだから」
晴朗は頭を下げた。
すみれは動揺する頭を下げて、社長室から出て行った。


誤解…

すみれの頭はそこまで付いていけなかった。
私はずっと違う道を歩いていたということ?

すみれは震える足でやっとの思いで家に帰った。
マンションにはもうベッドとパソコンしか残っていない。
その近くに便せんが置いてある。

震える手で文章を書き始めるのだった。


誤解だったなんて…


明日中に完結します!!
あと2つの小説とこちらの番外編も完結しても更新するので見てください

[*前へ][次へ#]

3/4ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!