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私が愛した復讐の相手(ヒト)
01 それを私は忘れない。
『すみれ、うーんと幸せになりなさい』

朝、すみれの目から涙がこぼれた。
その涙は頬を伝ってシーツに染みをつくる。

お母さんが、幸せそうに笑っている気がした。
お父さんが、お母さんの肩を抱きながら微笑んでいるような気がした。

どうして私は見失ってしまったのだろう。
お母さんも、お父さんも復讐なんて望んでない。
私に幸せになれ、と言ったはずなのに。

すみれの目からは次々と涙がこぼれてくる。
すると、隣の温かみがすみれを抱き寄せた。
こんなにもリラックスして、安心して、この人に身を任せられた。
17歳のときや、前に駿介にされたこととは比べモノにならないくらい温かさが違った。
「すみれ…」
隼人はすみれの目からこぼれる涙をそっと指で払うようにふいた。
すみれはほんのり頬を染めながらも隼人の背中に手をまわした。

「私の両親は死がすぐそこにあることを知っていながら、逃げようとしなかった。 それに、私は親戚のうちに預けられて行方不明とされていたの」
すみれは今もすぐ頭の中で思い出させる両親の最後。
両親は私を親戚の家にあずけて、そのまま行方不明としていた。
そのときよくこの国では小さなテロが起こっていて遺体は遺族の人すら分からない状態だったから、警察はそこで私が死んだのだろうと言っていた。
どうして??
どうして、私を隠したの?
すみれは小さく震えた。 死ぬのは怖くない。 きっと。
ただ、この覚悟を消さないで。
復讐なんて望んでなくても、私はやっぱり許せない。

両親が殺されて、その人たちの近くでのうのうと生きるなんてできない…

「僕には養女になった姉がいたんだ」
隼人の顔は抱きしめられていて見えないが、きっと辛い顔で笑っているのだろう。
「僕の父と駿介たちの父親が裏の仕事を姉とすみれ、君の両親が見てしまったんだ。きっと。そして、そのことを隠すために殺した」
隼人は怒りで震えているのか、悲しみで震えているのか分からなかったが、小さく震えていた。
すみれの目から怒りの涙がこぼれてくる。
ただ、不幸に見てしまったら私の両親と隼人の姉。
小さい命を奪い、3人の命を奪ってものうのうと生きる彼ら。
そんなの許せなかった。

「僕はそんな親の姿を見たんだ。 大切な僕の姉だったのに」
隼人の目から涙がこぼれた。

僕はどんなときだって、心を殺せた。
なのに、彼女の前になるとこんなにも心はもろく、悲しみに包まれる。
これは、恋の病かもしれない。
だけど、あんな親たちのもとで育ってこんな風に彼女を苦しめていた。
僕は関係ないじゃ許されない。
それに、僕にも大切な姉が殺された、という傷を負った。
ずっと吐き気がした。
駿介も愛子も幸せそうに笑う。
そんなことすら知らずに。
父親たちがどんな風に悪に手を染めたか。
どんな風に姉を殺し、部下を殺したか。

「私は…あなたを愛しています…。 ただ、私には愛に身をまかせてのうのうと生きるなんてできないんです。 私は復讐を終わらせることだけのために生きてきたのだから」
すみれは必死に涙をこらえた。

愛してしまった。
両親を殺した、彼らの息子に。
許してしまった。
心を。
望んでしまった。
幸せを。

たとえ、これが誤算だとしても私はこの気持を知れてよかった。
そう、よかったはずなのに。
どうして、こんなにも涙があふれてしまうの??

すみれはこらえていた涙がどんどんこぼれ落ちていくのを感じていた。
「僕はずっと復讐だけのために生きてきたんだ。 君のように巻き込んでしまった人たちが山ほどいる。 僕は…」
隼人が何か言おうとすると、すみれはふっと微笑んだ。

だけど、その微笑みはどこか苦しそうで悲しそうだった。

「私たちは出会っていません。 この間の同窓会で初めて会い、また会う時が2回目です。 今までのことは何もない」
すみれは固い決意を必死に固めて、立ちあがった。
「私はあなたに出会えて本当に幸せでした」

すみれの後ろ姿をただただ隼人は見つめるだけだった。


すみれは知らない間に今までいた孤児院に向かっていた。

「すみれちゃん!! どうしたの!?」
まわりの先生だった人たちが様子がおかしいすみれを校長室に入れた。

「先生…」
すみれはそのあと何も言えなかった。
涙が涙があふれてきて何も言えなかった。

隼人が傷ついた顔。
隼人がほほ笑む顔。
隼人のつらそうに笑う顔。

次々に浮かんできて、涙があふれてくる。
どうして私たちは出会ってしまったんだろう??
でも、出会えなかったらこんな風に安心できなかった。

「大丈夫。 すみれちゃんの味方よ、先生たちは」
そっと、泣き崩れるすみれを孤児院の先生たちは抱きしめた。

私たちは一夜だけの恋人。
あれは最初で最後。
なのに、この心は割れて砕けてしまいそう。

復讐より愛を選んでしまいそうで、
幸せを望んで、求めてしまいそうで怖い。

だけど、復讐を先に終わらせて見せる。

それで彼が救われるのだから。
それで彼は幸せの道を選ぶことができるのだから。

そのためになら、私はどんな悪にでも手を染めよう。

両親の悔しさ、そして愛するあなたの悔しさ。
それを私は忘れない。


マンションに返ったのは夜中だった。

すみれはふっと泣きはらした目を見たが、すぐ鏡から目をそらした。
ベッドにジャンプして乗ると、枕に顔をうずめた。

涙はかれてない。
今もあふれだしてくるのだから。
嗚咽をこらえるために、息もできないほど枕に顔を押さえた。

何時間泣いただろう。

すみれはぐしゃぐしゃになった写真を見つめた。
幸せに笑う私と両親
これではいけない。

こんな幸せを奪った彼らを許すわけにはいかない。

「私は大丈夫。 あの男を殺すためならどんなことでも糧にしてみせるから」
すみれは今日も微笑む。 その頬に涙を伝わせながら。

その肩が小さく震えていたのを見たのはきっと空にいる彼女の両親だけだろう。


そのためなら、私はどんな悪にも手をそめよう



更新順番アンケートでコメントいただきました!!
ありがとうございます!!
今日も更新じゃんじゃんするのでみてください!!
また、もう1つの小説私は絶対にあなたを愛さないも更新します!!

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