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私が愛した復讐の相手(ヒト)
07 彼はすべてを知っている
すみれは朝早く電車に乗り込んだ。
今日は大学は休み、裏の仕事がある。

こんなことでもしないと、あの男に近づけない。
危険だって分かってるけど、私はあの男を殺すためならどんなことだってやってみせる。

昨夜、考えて出した答え。

澤池 隼人が父親に似て実は悪魔。 すみれをたぶらかそうとしている。
駿介はただ、すみれが思いどおりにならないからプライドが許さない。

ちょっと無理やりのような気がするがそれは気にしない。

(私には…復讐するために行動することしか残されてないのよ…)

すみれはふっと口元に笑みを浮かべた。
おかしかった。
あれまでがむしゃらに復讐だけを考えて何でもしてきたあの頃がうらやましかった。
今までの私は一体どこに行ってしまったのだろう?
駿介に取り返しのつかないことをされた。
17歳のときからつけられた傷がこないだで少し癒えていくような気がして許せなかった。
こんなヤツに心を許してはいけない。
澤池隼人に対してはさらに、だ。
あの男の息子ということは恐ろしく残酷なのだろう。
ギリッ
すみれは唇が切れるほどかみしめていた。
朝の眠気に戦う人などすみれに気がついていないだろう。

私は駒になんてならないわ…

「○△駅〜」
アナンスが流れ、ラッシュの中すみれはハイヒールで器用に抜いていく。
今日も人は動いている。


隼人は早朝なのに、薄暗い裏路地にいた。
「『バラ』について調べられたか?」
まわりから、どこにでも居そうなサラリーマンらしき男や、かなりヤンキー、高校生らしき人まで様々集まってきた。
「少しなら、『バラ』は最強ハッカーで正体は不明。 ある言葉以外何も残さない天才だそうです。 僕たちがやっとつかめた情報です」
サラリーマンらしき人間の一人が脂汗をかきながら、隼人に報告する。
この異様な集団の中にいる隼人は恐ろしく冷たいオーラを出していた。
まるで、会社にいた隼人とは別人のように。
「わかった。 これからも頼む」
隼人はそれだけ言うと、さらに裏路地の奥へと入っていった。


「わかった。 これからもよろしく」
すみれは思わず笑いそうになってしまった。
かすかにだけ気配を感じる。駿介についている犬たちと違う。
これは『澤池の犬』だろう。
これほどに気配を消せるなんて本当にすごいな、と思いながらもカフェに入った。

(バラのことを調べているのね… バラはこのあたりにいるといわれているから)

すみれは構わずパソコンを開くと、気配が少し警戒する動きを見せた。
思わず口元に笑みが出てしまう。
すみれはわざとパソコンを開き、小説を書き始めた。

主人公は辛いとき、苦しいとき、泣いたりするけど最後まで努力し、幸せを手に入れる。

主人公とはえりを題材にしている。
えりから電話が何度かかかってきているが無視している。
彼女にまた会ってしまったら、明るい所へ飛び込みたくなってしまうから。
飛び込んでも許されるのかと思ってしまうから。
気配がそっと離れていくのをすみれは敏感に感じ取った。
(何かある…)
すみれはパソコンを閉じて、裏路地へ向かった。


「すみれさん」
裏路地に入ろうとしたら、隼人に呼び止められた。
「こんにちは」
相変わらずにこやかな笑顔を崩さない隼人に正直すみれは心にもやもやかかるような気がした。
「こんにちは。 どうして、この時間はお仕事じゃ??」
すみれが何気なく聞くと、隼人は苦笑いをした。
「すみれさんが昨日おっしゃったとおり、駒は簡単に捨てられるんですよ。 僕が社長代理だから、捨てられないだけです」
その瞳に小さく感情が宿ったのをすみれは気がつくことができなかった。

駒? あなたが? あなたは捨てるほうなんじゃないの?

すみれは身体によみがえる怒りを必死で押さえながら微笑んだ。
「あれに深い意味はないですよ。 そんな真剣に考えないでください」
隼人はにっこり笑ったまま、いきなりすみれの耳元にふっと息をかけた。
ビクッ
すみれは思わず驚いて、固まってしまった。
人間って本当に驚くと声すら出ないって言われている通りだった。
「あれに僕は共感できたんだよ」
甘くにこやかな笑顔でささやかれてないまわりの女性方はくらくらその場にしゃがみこんでいたが、すみれは相変わらず固まるだけだった。

「すみれさん」

隼人がじっとすみれの目を見つめると、すみれは少し驚いていた。
「あなたは…」
すみれは何か言いかけたが、すぐはっとしたように口を閉じた。
隼人はすみれが言いたいことが分かったように、ふっと微笑みを深くした。
「真実は必ず現れるんですよ」
甘~くささやいたつもりだったが、すみれの目に正気の光が戻った。
「…知っているんですね」
すみれはにこやかな笑みを浮かべた。 決して目だけは笑わずに。
隼人はそんなすみれに対して、肩に手を乗っけて、また耳元で囁いた。

「もちろん。 君も知っているはずさ。 どうしてなのかを」

隼人は知っている。
   水川 すみれの過去を。 否、有川 すみれの過去を。


僕はすべてを知っている

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