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私が愛した復讐の相手(ヒト)
06 さぁ、ゲームを始めよう。 後編(隼人・すみれ)
すみれはカフェの端っこのところで、パソコンに打ち込んでいた。
もちろん、愛子のパソコンをハッキングするために。
すみれのデータを取ろうとした愛子に対する嫌がらせ。
彼女は裏の社会の中で生きている『バラ』と呼ばれるハッカーだった。

あえて、警告文?を送ったのは隼人に相手をさせるためだった。
彼は名が通るほどのハッカー撃退人だった。
今回は本気で行かなくてもいい。
失敗ではなく、簡単に身を引けばいいこと。
『バラ』は無敵なのではなく、無謀なことはしない。そして、遊び心満点なのだから。

すみれはパソコンを打ち込み始めた。

ウィルスはどんどん壊されていく、そのたび、またあらたなウィルスが生まれてくる。
それの繰り返しだった。

すみれはふっとまわりを見ると、お客が少なくなってきた。
これ以上長居は大敵だった。
この打ち込む速さに何かを感じる人もいる、そんな人に会うのは厄介だった。

すみれは即手を引いた。
足取りさえつかめないように。 ただ、最後にあることだけ残す。
それが『バラ』のやり方だった。

『Life is not all roses not always a bed of roses』
人生はいつもばら色(=楽しい,楽)とは限らない

と言う意味の言葉だけを残していく。 これをある人が見れば『バラ』というハッカーだということがわかる。

すみれは口元の笑みを消して、パソコンを閉じた。
彼らはこのハッカーを探すだろう。
だけど、この文以外何の証拠も残さない『バラ』 それこそ、水川 すみれ、彼女だった。


隼人はパソコンのうつ手を止めた。
それを待っていたかのように駿介が乗り込むように隼人をじっと見た。
「どうだった?」
珍しく駿介には余裕がない。こっちのほうが彼らしいが。
「ハッカーがいきなり手を引いた。 そんで、足跡すら残さず消えた。 残ったのは『Life is not all roses not always a bed of roses』と言う言葉だけ」
隼人はお手上げというように手を挙げた。
はっきり言ってこのハッカーはとっても強い。
このハッカーが何者か気になる。 だいたいは予想ついていた。 それをあえて言わない。
駿介が傷つくのが嫌だからというくだらない感情ではない。
これではまだ舞台が整っていないということ。

隼人はさわやかな笑みを浮かべて、席を立った。

「また何かあったらすぐ連絡して」

愛子たちもうなずき、隼人は社長室へ戻っていった。


すみれは気がつくと隼人の会社に向って歩いていた。
それに気づき思わず苦笑いしていた。

私はどうしてこんな無駄なことしてしまうのだろう。
彼も憎むあの男の息子なのに。
私の家族を殺した男の下でのうのうと生きた息子になんて会いたくもないのに!!

すみれは近くにあったベンチに腰かけた。
今も覚えている。
この記憶だけを頼りに今まで生きてきた。
これだけのために、すべてを捨ててきた。

なのに、いまさらどうしてこんな心が生まれるのだろう?
この心に名前があるということを知っている。
だけど、ここで言ってしまったら私は何もできなくなってしまう。
…言うわけにはいかない。
この気持に蓋をしなくてはいけない。

何重にもカギをかけて

「すみれさん??」
すみれは閉じていた目を思わず開けてしまった。
そこには、にこやかな笑みを浮かべる隼人がいたのだから。

「どうして…」
すみれは驚きながら隼人を見た。 彼は手にコンビニの袋を持っていて、これから会社に戻るところのようだった。
「息抜きのためにコンビニで飲み物を買ったんですよ」
隼人は隣失礼、と言ってすみれの隣に座った。
「仕事、戻らなくていいんですか?」
すみれは極力冷たく言ったつもりだった。 これ以上、カギを狂わせないでほしい。
かけたばかりのカギは何の意味ももたなく、はかなく消えてしまいそうなのだから。
「いいんですよ。 僕は所詮、会社の駒でしかないのだから」
隼人は思わず自分の口から出た言葉に驚いていた。
すみれも同様驚いていた。
隼人は内心の焦りを探られないように笑顔になった。
「大きな会社は僕一人が抜けても大丈夫なんですよ」
すみれはそうですか、と答えただけだった。
隼人は思わず舌打ちしたい気分だった。 どうして、彼女にこんなことを言ってしまったのだろうか。

「…駒は簡単に捨てられる。 簡単に…」

すみれはふっと微笑み、立ちあがった。
「それじゃあ」
隼人はまるで縫いつけられたようにその場から動けなかった。
ただ、はかなく消えてしまいそうな彼女の後ろを見ているだけだった。


隼人は夜中になってもなかなか寝付けなかった。
昼間に言った彼女の言葉と、彼女のほほ笑みが忘れられなかった。
すべてを拒絶しようとして、それでもぬくもりを求める悲しみ。
まるで、自分が持っているものと一緒のような気がしてしまった。

僕にはやるべきことがある。
彼女がたとえ、何だとしても僕には関係ないことだ。

僕は父も、愛子、君も、そして、駿介。
君たちを許さない。

僕の姉を殺した君たちを僕は絶対に許さない。


2人の男女の瞳には大きな悲しみと悔しさだけが光っていた。
それを知っているのは今日も悲しそうに光る美しい月だけ。



彼女の瞳に写るのは悲しみだった

隼人の知られざる過去とは…?
予想外の展開です!!


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