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私が愛した復讐の相手(ヒト)
03 そして、あなたたちを許しはしない

駿介が緊急会議している間に、愛子は急いで駿介の部屋へと向かった。

寝室のドアの前には駿介の配下の人たちがいたが、愛子は何かと理由をくっつけて中へ入った。

すみれはネグリジュを身につけていた。
すぐ、愛子が入ってくるとこちらをこれでもかというほど冷たく睨んできた。

「何の用ですか?」
その声は苛立ち、というより怒り隠さず含んでいた。そして、警戒心も。
愛子はそれよりもはかなく消えてしまいそうなすみれが心配でたまらなかった。
だけど、なんて言葉をかけたらいいのか分からない。
こうなっているのは愛子のせいでもあるのだから。

「同情のつもりですか? それとも、この間の仕返しで私を笑いにきたのですか?」
すみれはまるで人ごとのように愛子に冷たく言い放った。

そんな顔したって、あなたは駿介のために動くのでしょう?

愛子は震えそうになる声を必死に平穏に戻す。
「そんなことないわ」
すみれはじっと愛子の目を見てきた。
その目には怒りしかない、愛子に対する怒り? それとも、駿介?
まるで、愛子の問いかけが聞こえたようにすみれはふっと口元に弧をかいた。
「あなたたちのように権力ですべてを動かす人たちに対するものよ。森家だからこんな犯罪まがいのことをしてもいいの? 私のように何の権力もない人間はおとなしく、あなたたちの言うことを聞けばいいというの? 人形になれというの? どんなことをされても、その相手を好きになれとあなたは言った。 自分の弟のような存在の気持だけを尊重して」
すみれの目には激しい憎悪が生まれていた。
まるで、すみれをはじめて見たような気がしていた。
激しく誰も寄せ付けないほど冷たく、だけど儚く。
「それは…」
愛子はなんて答えるのかまた分からなかった。
「同情なんていらないのよ。 こんな監禁まがいのことするあんな男を好きになると思ってるの? ばかにしないで。 権力で何でもできるなんてそんなのただの想像」
すみれはすっと立ち上がり花瓶をつかんだ。
「この花瓶、とてもすばらしい賞を取ったものでしょうね」
とてもきれいな華が書かれている高級な花瓶。
これだけのために、どれほどの人が汗を流しただろう。
こんな趣味だけのために。
「私もこんな風にコレクションにする気?」
すみれはそれを横に投げつけた。

ガッシャーン!!

さすがの音に外で見張っていた駿介の配下の男たちも入ってきた。
すみれはそんなこと気にせず、われた花瓶の破片をつかんだ。
「警察でも何でも言えばいいわ。 ただ忘れないで。 私のように思いどおりにならない人もいるということをね」
手に破片が食い込んで、血がたれるのも構わず、男たちに近づいた。
すみれから放たれるオーラは誰も触れられない、近づけないものだった。

憎悪? 悲しみ? 悔しさ?

そんなの分からない。
ただ、普通ならこれほどのオーラはもてない。

「どいて。 今すぐ駿介の所へ案内して」
後半は愛子に向って言っていた。
男たちは戸惑ったように顔を見合わせた。
「分かったわ」
愛子はそんな男たちを無視してすみれを案内することにした。


廊下のじゅうたんはどこまで赤い。
だけど、すみれの手からポタポタと血が垂れていた。
「行く前にその傷を…」
愛子がそっと花瓶の破片をすみれの手から外そうとすると、すみれは愛子の手をもう片方の手ではらった。
「触らないで。 あなたたちに手当てしてもらうなんて死んでもいやよ」
すみれは表情が強張る愛子に今までの中でも一番魅力的で怪しい笑みを浮かべた。
「私はあなたたちが嫌いよ」
目が笑ってない、愛子はすみれの目を見て背中からぞくっと震えがたつのを感じていた。

「ここよ」
愛子は会議室のドアをそっとノックした。
「失礼します」
愛子はその大きなドアを開けたーー。

「! すみれ!!」
駿介は驚いた顔をして、周りはざわめいた。
たった一人、白髪が交じってる髪の男、駿介の父親だけが冷静にすみれをじっと観察していた。
「失礼します。 ここで少し会議を中断させていただきたいと思います。 社長、社長代理、少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
愛子は仕事モードの顔になっていた。
「かまわん。 お前たちは客室の間に行っていろ」
秘書たちが会議にいた人たちを連れて出て行った。

「で、駿介に愛子。 彼女は誰だ?」
社長、駿介の父親は細い目ですみれをじっと観察していたが駿介に向きなおった。
「…彼女は」
駿介は最後まで言えなかった。
「あんたの息子が犯罪まがいのことばかりして、私は困ってるの。 なんとかしてくださりますか?」
すみれは無表情のまま駿介の父親を見た。
彼の瞳はひどく冷たい、だけど、すみれの瞳もひどく冷たいように見えた。
「駿介、お前女問題はいいかげんにしておけ。 とうとう俺にまで文句を言う女が現れただろう?」
駿介の父親は鼻で笑い、駿介のほうをすっと見た。

「俺は彼女を本気で愛している。 彼女が拒否するなら閉じ込めておくまでだ」

駿介はまっすぐすみれに向って言う。
よくもまぁ、こんなふうにいえるわ、と愛子は感激していたがすみれはふっと口元だけの笑みをつくった。

「私はあんたの取り巻きとは違うわ。 あなたに狂わせられる人生なんて死んでもいや」

花瓶の破片を駿介に投げた。
それと一緒に血が書類へ飛び散る、愛子はこわばっていた顔がこれでもかというほどになった。
すみれを恐れているのではない、駿介の父親は気に入らないものは何が何でも排除する。

駿介の父親はすみれのほうをじっと見た。
まるで、何かを見透かすように。 何かを、探すように。

「おもしろい」

愛子が予想していた言葉とは違った言葉が駿介の父親から出てきた。
駿介も驚いた顔をしていた。
すみれだけが、気分をさらに害したように顔をゆがめていた。

「お前が権力に屈しないと言ったこと忘れるな」

駿介の父親はにやりと笑い、すみれは怪しくも魅力的な笑みを浮かべた。

「もちろんよ。 あなたたちのような権力者になんて屈しない」





そして、あなたたちを許しはしない

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