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私が愛した復讐の相手(ヒト)
08 彼女は今日も微笑む


愛子はすみれの大学から駿介のもとへ帰り、その後も仕事に没頭していた。
まるでなにもかも考えないように。

彼女の瞳に映った怒りともう一つの感情。
あれが何だったのか思い出せない。
あれはきっと大事な感情だったはずなのに。
思い出せい自分に愛子は思わず苛々していた。

彼女の言い方にはたしかに腹がたった。
だけど彼女の瞳に映っていたあの感情が忘れられなかった。
何か理由があるのかも、そう思わずにはいられない。
だって駿介に見せてもらった17歳のときの写真は無邪気に笑っていた。

きっと変えてしまったのは駿介なのだろう。
卒業写真の顔は一見成長しただけのように見えるが彼女の目つきは鋭くなっていた。
彼女にとって駿介は苦痛だけでしかなかったのだから。
身体を穢された、彼女はそう言っていた。
駿介のことを穢れというのは許しがたいことだったが、すみれはそれ以外の何でもないのだろう。
身体に刻まれた恐怖というのはとることができない。

彼女が同窓会で連れて行かれるときなんて、顔はこわばり、青ざめ震えても駿介を睨みつけていた。
心だけは渡さない、というように。
駿介にとって好きなすみれを抱いたということの熱を求めている。
だから、彼女の表情なんて駿介の怒りをあおり、欲望を燃え上がらせるだけなのだろう。
この悪循環というべきだろうか。
すみれはウィルスを作っている。
これはもう確実だった、だけどどうしてかわからない。
普通、こんな風に調べられるなんて考えてないのだからウィルスなんて調べることができない。
探偵屋に調べてもらおうとしたら彼らは森家の誘いを断るばかりだった。
理由はただ首を横に振るだけでわからない。
だけど、わかることがある。
水川すみれはただものじゃない、ということ。

森家の誘いを断らせる何かを持ってる。
それしかありえない。
すみれと探偵屋、ウィルスがつながってるとしか。

だけど、どうしたらそんなことができるのか。
金で積んでも無理なのだろう。
ウィルスは天才ハッカーしかいない。
彼女事態が天才ウィルス作り者なのだろう。

愛子は思わず苦笑いをしていた。
彼女に最低なことを言われたのに、彼女をまだ追うのか、と。

それは、きっと駿介のため。
恋心ではなく、まるで家族愛。
     これも愛の形。


「みんなすごく元気そうだったよ?」
すみれはえりに取材を受けていた。
だって、大学のひそかにささやかれるアイドルのことを全部のせちゃうんだから!!という心情である。
「そんなんじゃなくて具体的に!!」
えりは鼻息を荒くしてすみれを壁へと追い込む。
すみれは苦笑いをしながら後ろへと下がってく。
「えり? 同窓会、行きたかったの?」
すみれはずっと引っかかっていたことを聞いた。
えりはこれぞというばかりに目を光らせていた。
「そうじゃない!! すみれがそこでどんなことがあったか教えてほしいの!!」
えりの気力に負けていろんなことをすみれは話し始めるのだった。


「社長。この方たち、この会社から降りてもらおうと思う」
隼人は清らかな笑顔で数枚の書類を晴朗へ差し出す。
この会社のほんの一部の社員たちだ。
「かまわん。数人減ろうが関係のないことだ。使い物にならない駒などいらないからな」
晴朗もその書類を見ずに、部屋と戻って行った。
隼人は笑顔ゆえに残酷、そのひどさを見て社員たちはいつもぞっとしているのだった。

すみれは公園で元気に遊ぶ親子を見ていた。
小さな子供がお父さんとお母さんとキャッチボールしている。
それは本来の家族像。
だけど、私の記憶にはこんなのない。
…あるのはあの雨の日の出来事だけ。


愛子はどの行動に出るのだろうか。
すみれはそれを考えながら口元に弧をかいていた。
彼女がまた私を追うなら、つぶすだけ。
彼女が身をひくなら、つかぬまの幸せに浸っていればいい。
遅かれ、早かれの問題。
だけど、今日話した内容は彼女への最終警告だから。
身をひくならば、見逃すと、ね。

すみれはベンチの隣に咲いている雑草の花を1本抜いた。

「踏みにじられた花にも心があると教えてあげるわ」

すみれはその花を握りつぶした。

その小さく、細い手で。
そして、その家族を眼の端に移しながら最高の笑みを口へとかく。
 つかぬ間の幸せを楽しむといいわ。
  愛子さん。



彼女は今日も微笑む。

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