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私が愛した復讐の相手(ヒト)
07 私はどこまでも残酷になってみせるわ

身体のだるさを感じながらもすみれはベットから下りた。
なにも変わらない自分の部屋。
ノートパソコンと最低限必要なものだけしかない。
見慣れた風景なのについ明るい空気を私は求めてしまった。
「ばかよね…」
思わず呟いていた。

温かさなんてとうに捨てたはずなのに。
愛も幸せもいらないのに、彼が私を狂わせた。
あの男の息子だから?
すみれは思わず苦笑いをしながら、今日やるべきことを考え始めた。
愛子と駿介の中をあえて崩そう。
すみれは気合いのために寝る前に泣いたあとを洗いに洗面所へと向かった。

「愛子。今日の予定はなんだ?」
駿介と忙しい間の休憩(車のなか)で1日の予定を言う。
「今日は少し抜けさせていただきます。今日は7時○○…」
毎回見てて思う。駿介の忙しさはハンパない。
よく、これで彼女を探すことができるな、と。
「わかった。なるべく早く戻ってこいよ」
駿介はたいして理由も聞かず、今日のための書類に目を戻していた。

駿介のために、すみれが誘った機会を逃すわけにはいかない。
彼女は駿介に対してあまりいい感情は抱いていない。
だけど、本当にいやならあの同窓会に来ないはず。
彼女には少し怪しい点がある。

それに、昨夜考えて思ったことがあった。
昨日、ベランダで話した彼女は怒りの感情と何かの感情。
それは…
「愛子。着いたぞ」
愛子の思考は駿介の言葉に遮られた。
だけど、こうしてはいられない。
駿介が会議の間に秘書02を連れてこないといけない。
「わかったわ。社長代理、会議には私ではない秘書をお使いください。私は少し抜けさせていただきます」
愛子は後ろにいた秘書たちにアイコンタクトをとり、駅へと急いだ。


大学の裏口の階段で本を読んでいた。
彼女、秘書が来るのはもう分かってる。彼女は駿介のために動く。
弟のような存在だもの。

協力? 反吐が出るわ。
彼がどんな男でも私を縛るために動くのでしょうね。
それがルールだもの。
弱者は強者の奴隷。強者と強者は時には争い、時には協力する。
笑っちゃうわ。
誰が弱者なんて決めた?
それは、強者。あなたたち金持ちどもよ。
すみれは歯をギリっとかみしめていた。
そうしなければこの行きようのない怒りはどこに収めればいいだろう。
そんなのないに決まってる。

「おまたせしてしまったようね」
愛子が裏口の階段の下に立っていた。
息が荒い、走ってきたのだろう。
「本当に来たんですか。高校の時のこと聞いたんでしょ?」
すみれはわざとムカつく口調だった。
気を使う必要なんてない。
私はこんな人、大嫌いなのだから。
「ええ。聞かせてもらったわ。本当に駿介が悪いことをしてしまった。私が謝るのではないとわかってるけど本当にすみません」
愛子はすっと頭を下げた。

愛子はお金持ちの家に生まれた。
駿介と一緒に育ち、第一秘書を務めるほど優秀。
だから、他人に頭を下げるなんてほとんどなかった、特に大人になってからは。

そうした彼女がすみれに頭を下げていた。
思わずすみれはどうしようもない怒りを感じた。
だけど、怒りのままぶつけてもしょうがない。そんなこともう学んだ。
学んだからこそ、私はできるわ。
相手を簡単に傷つけることもね。

「あはははは!! お嬢様なあなたが私に頭を下げてるの? そのうえ、他人のために」
すみれは大笑いして見下すような言い方をした。
愛子は少なくとも怒りを感じるはず。
すみれの思ったとおり愛子は唇を噛んでいた。
「私に本当に申し訳ないと思ってんですか? それなら、駿介を連れてきてここで一緒に土下座してください」
すみれは階段をゆっくり下りて言い聞かせるようにゆっくり言う。
「私の身体はあの時から穢れてる。一生とれない穢れに」
すみれはとどめを刺した。
駿介を大事に思うから彼女はあやまってる。
その駿介を穢れ呼ばわりすれば彼女は怒りを感じるはずだ。

「あなたは結局何が言いたいんですか?」
愛子は頭をあげて、怒りの瞳を向けてきた。
「何って? そんなこともう言ったでしょ? 土下座してって」
すみれは愛子の耳元で囁いた。
「それとも、あなたが変わりに償ってくれる? その命を持って」
誰もがぞくっと背中を震わせるような低く、冷たい声で言った。
その口元にはきれいに弧がかいてある。

「駿介は私が好きだったんじゃない。私の身体をけがしたかっただけ」
すみれは元のソプラノの声に戻し、愛子の横を通り過ぎて行った。

そう、彼は私を好きじゃない。
私を穢したかっただけなのよ。

すみれは口元の笑みをかいたまま、大学を抜けた。



私はどこまでも残酷になってみせるわ

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