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私が愛した復讐の相手(ヒト)
06 その微笑みは天使のよう 舞踏会編後編
「澤池さん。今日はホテルをお貸しいただきありがとうございます」
駿介は仕事が長引き、急いできたけどすみれの姿がなかった。
だけど、森家として澤池の人間にあいさつしないといけないことくらいわかる。
ちょうど、近くに澤池の一人息子の澤池 隼人がいたからあいさつすることにしたのだった。

すみれはそっとベランダへ出ていた。
駿介はギャル子たちと仲間に囲まれて抜けることができない、そう分かっていたから。
この時間を貴重にしないといけなかった。
大学の場所も知られてしまった、データも常にウィルスを破ろうと秘書たちが力を尽くしてくる。
特に秘書はかなり優秀で、今にもウィルスは破れてしまいそうなのだから。
だけど、「水川すみれ」のことは出てこない。
だって私は水川なんて名前じゃないもの。
否、水川じゃなかったもの。
本当の名前は言わない。だって、家族は殺された。「すみれ」も死んだ。
あの男の記憶になんてもうないの。
私たちはそれしきだった、あの男にとってはただの人でもなく下僕だったのよ。
だけど、下僕が使い物にならなくなった。…殺されたのよ。

こんな風に冷めて語るような私はもう心を壊してしまった。

大丈夫、泣かないから。
強く生きるから。
家族にそっと語りかけた言葉。その時もう彼らはお墓の中だったけど。

すみれは暗い思考をはぁっと息をはき、切り替えるために手に持ってるシャンパンを一口飲んだ。
「水川すみれさん」
この静寂を上品な声の人が簡単に破ってしまった。
すみれはその相手を見なかった。見たくなかった。
もちろん、彼女は…
「私、駿介の秘書をやってるわ。雪山愛子と言うの。駿介とは幼馴染よ」
すみれは思った通りの人に思わずため息をつきたかった。
だけど、すれすれのところで飲み込む。
駿介ははっきり言って鋭い。
彼女もきっと鋭いのだろう。私がどういう女か調べようとしてる。
データがないのなら、直接、と。
「すみれさん。駿介とはどういう関係で? 悪い意味で聞いてるのではなく、あなたの気持ちよ」
愛子はすみれの変化を見逃すまいというように強い意志の目を向けていた。
それが、痛いほどすみれの背中に突き刺さる。

「私の気持ちですか…?」
すみれはあははっと声を出して笑った。
いきなりのすみれの変化に愛子は顔には出さなかったが驚いていた。
その声がとても冷たかったから。
すみれはゆっくり振り向いた。

「そんなの…駿介にとって関係なのではないのでしょうか?」
すみれは無表情のまま愛子に問いかけた。
「あるわ」
愛子が強気で答えるとすみれはふっと口元に笑みをかいた。
「それなら、私はなんで高校の17歳であんな思いを受けなくていけなかったのでしょうか? こないだも、監禁まがいのことをしようとした彼はどうしてでしょうか?」
すみれの身体は小刻みに震えていた。
彼女は隠そうとしていたが愛子には痛いほどそれが分かってしまった。
「私のことが知りたいんですよね? 私のデータを必死で調べているのですから」
すみれの瞳には激しい怒りと…何かの感情が見え隠れしていた。
「それは…」
愛子がその感情を探ろうとする前に、すみれの瞳から感情が消えていた。

「教えてあげます。明日、駿介には内緒で大学の裏口に来てください」

すみれはそれだけ言うと、愛子の横を通り過ぎようとした。
「あ。私は帰りますけどストーカーのようなことをしたらその時は本気で恨みますよ?」
すみれはにっこりほほ笑んでいた。


駿介はギャル子たちを追っ払った後、仲間たちにも協力を求めていた。
すみれの親がすみれに会いたがってるが、彼女が嫌がって会わない。
しかし、今日彼女の親に頼まれてすみれを送り届けないといけない、と。
仲間たちはそんなの表向きの口実だと知っているがいつも悪友だ。
おもしろそうなことはなんでもやる。

「水川。これから帰るの?」
駿介の仲間一人がすみれの近くに寄ってきた。
そして、次から次へと。最後には駿介まで目の前にいた。
「すみれ。お前は俺のものなんだよ」
いきなり手を引っ張られて抱きしめられた上に、耳元でささやかれていた。
さすがのすみれもドキッとしてしまったが、離れようとしても離れられない。
「放して!!」
すみれは小さく怒鳴るように駿介を睨むように見上げると、彼は楽しそうに笑っていた。
「久しぶりに会えた女友達に夜の相手してもらえば?」
あたりの仲間も笑顔をやめた。
しまった、とすみれが思った時には駿介の瞳は怒りに燃えていた。
「久しぶりに会えた愛しの女に相手してもらおうか。」
駿介はすみれの肩を抱き、無理やりドアを出させた。


「社長代理!!会社から至急こちらへ向かうようにと」
愛子が急いでドアから出て廊下を歩く駿介(とすみれ)たちを引き留めた。
社長代理というときは仕事の時と決まってる。
「なんで親父が俺のこと呼ぶんだよ」
駿介は愛子のほうをギロリと見る。
「とにかく至急戻れ、と仰せられています」

社長から呼ばれるとはよほどのことだ。
駿介はため息をつき、愛子にすみれを渡した。
「すみれを家に送り届けてくれ」
駿介はそれだけ言うと、仲間に別れを告げエレベーターにのっていった。

「駿介!!」
すみれは結局電車で帰ると言い、愛子は駿介と一緒に車の中にいた。
「なんだよ」
駿介はさっきほどの怒りはなく、少し落ち着いていた。
「高校の17歳のあのことってなんのこと?」
愛子は駿介の顔が穴があくのでは?と思うほどじっと見ていた。
まさか、と愛子の中ではもうほぼ答えが出てる。
「抱いたんだよ」
駿介は何でもなさそうに言う。
愛子は思わず駿介の胸倉をつかんでいた。
「抱いた? 犯したんじゃないの!?」
駿介はまぁ、そうかもな、くらいの答えだった。
愛子はどうしようもないほど怒りを感じた。思わず、悔し涙が出てくる。
「彼女がどんな気分だったか分かってるの?」
愛子の瞳からは涙がこぼれていた。
さすがに駿介もぞっとする。
「これはあたしだからこのくらいなのよ。彼女はどれほど泣いたか…」
愛子は駿介の目をじっと見て怒鳴るように言っていた。
「17歳なんて夢見てるの。愛してほしいなら、好きなら無理やりではなくまず抱きしめてあげなさい。彼女が望むまで身体を求めちゃいけないわ!!分かる?」
駿介は苦虫をのみこんだような顔をしながらうなずいた。
「ああ。約束するよ。すみれを愛してるから」

これも愛の形。
そうと分かってるけど、彼女の傷は深いものなのだろう。
愛子の瞳は涙があふれて止まらなかった。


すみれはマンションの窓から星を見ていた。

きっとあの秘書は駿介のために明日来るだろう。
私にどんなことがあろうと、彼女は彼の味方。
同情してほしいなんて思わない、思うわけない。
ただ、知ってほしい。否私がやることは知らせるため。
下の人間に心があると教えてみせる。

嘆く私たち弱者の声なんて聞こえない。
聞こうとしない。
だから、耳元で叫んであげる。
最高のほほ笑みと一緒に。    …駿介も秘書もあの男も、そしてあの男の息子へ。
   
すみれの手にはぼろぼろになった写真が握りしめられていた。
その瞳からは涙がこぼれていても、口元はきれな弧をかいていた。
「最高の舞台よ…。どれだけ上と言う地位が脆いか知ることになるわ。身をもって、ね」
すみれは月に向って微笑んだ。
あふれんばかりの涙を流しながら。




その微笑みは天使のよう


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