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私が愛した復讐の相手(ヒト)
03 私は幸せなんかいらない。

すみれはあふれ出そうな涙をこらえていた。
でも、あえてそれは出さない。出すわけにはいかない。
「そうなんですか。私、小説家希望なのでまた会える日があるといいです。」
すみれはやっとの思いで微笑み、立ちあがった。
「長居してすみませんでした。ありがとうございました。」
すみれは時間を気にしながら頭を下げた。
「いいえ。とても、うれしかったです。僕の小説であんなに感動してくださるなんて。」
にっこりほほ笑んでいた。すみれも微笑み返し、ドアへ向かった。


駿介は明日のためにspたちに指令を出していた。
すみれを何としてでも連れて帰る。
愛子が大学のことはつかんだが、家まではつかめなかった。
「…すみれ…。」
駿介は自分の中にこみあげてくる熱さをひたすら抑えていた。


すみれは急いでマンションへ戻っていた。

1LDKの部屋。何にもない部屋。
唯一あるのはフリフリのベッドとソファー。
そこのベッドへ突っ込むとギュッとお布団をつかんだ。
「バカみたい…」
すみれは震える声で呟いていた。
『僕が3年かけて書いたものなんです。』
頭の中で隼人の言葉が浮かんでくる。
「あんな優しい顔して…。あはは。おかしい!!」
すみれはただ声を出して笑っていた。
なのに、その瞳からは止まらない涙がこぼれていた。
あなたが努力? そんなのするわけないじゃない。
すみれはこみ上げてくる涙を手で拭き取る。だけど、止まらない涙はこれでもかというようにあふれてくる。
「純粋だからって許されないことだってあるのよ…」
すみれはただ悔しかった。
何も知らずに屈託もない笑顔を見てると。
息をするのも苦しかった。 今すぐに事実を告げたい。
すみれは頭に浮かんだ考えに対しておかしくて思わず笑っていた。
「ばかじゃない…。真実を告げたって上の人間たちはすぐに打ち消すのよ…。自分を守るために…」
自分たちを守るために…
なんだって犠牲にする。

「そう。 たとえ、人を殺しても、ね。」

すみれの声がやけに部屋に響いた。
「そんなの分かってる。だからこそ、許せないのよ。屈託もない笑顔のあなたが」
すみれの手は爪が食い込むほど強く布団を握っていた。
いつの間にか涙は止まってる。否止めた。
「私は幸せなんかいらない。ただ、このまま死ぬわけにはいかないのよ」
すみれの瞳にまた強い光が宿るのだった。


もう、私には進むべき道が1つしかないのだから。



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あきゅろす。
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