第57話:合流×赤龍帝 . それから瞬く間に五日間が経ってユートが別荘へと合流する。 「死屍累々……だな〜」 合流後のユートの第一声は半ば呆れた口調が混じっており、ピクピクと痙攣をしている一誠達を見つめていた。 「ユーキ、説明」 「えーっと、取り敢えずはボクが昔に兄貴からやらさせられた修業の基礎から、濃い密度でやらせてみたらこうなった」 「あれは揺ったりしたペースでやる修業であって、決して五日なんて短期間でやる修業じゃないんだけどな」 額を押さえながら言う。 ハルケギニア時代でユーキへ課した修業とは既に多くの訓練を熟して、ある程度レベルで鍛えていたユーキを一年くらいで聖闘士にするメニューだったのだ。 よもや苦行とも云えるそれを五日の間にやらせていたとは…… 「一誠は荒療治をしないと神器が目醒めないから無茶な戦闘訓練もさせた訳だけど、他の連中にこれは……」 知らなかったとはいえ一誠の成長の切っ掛けを奪ってしまい、それの補填として少しばかり無茶な事はした。 「今、何Gくらい?」 「一四G」 「最初は一〇G?」 「当たり」 つまり一日毎で一Gずつ上げていったという事。 「まあ、単純な身体能力は一誠でさえ下手な青銅聖闘士より上だし、一〇Gなら問題は無いと思うけどね、流石に素人を相手に一日で一Gの加重はキツいんじゃないかな?」 ユーキの時は一日毎に一Gの加重を加えていき、三十日で三〇Gにした後はずっとこの重力だった。 「う、うう……空孫悟なら一ヶ月で一〇〇Gを克服出来るんだけど、俺には土台無理なんだよ〜祐希ちゃん」 呻く様に言う一誠。 「取り敢えず今日は休ませるか」 「……そだねぇ」 一誠達をベッドに運びユートが今晩の食事作りを始める。 「マルトーさん仕込みだから味は保証するけど窮めてる訳じゃないからな」 「充分じゃない?」 ユーキも手伝いながらそれなり程度の味ではあるが夕飯は完成した。 基本的には作らないユートが作った食事、これは可成りレア――きっとSSRである。 「にしても、この数日間で朱乃さんが作った料理に比べると……ショボいね」 「肉じゃがと豆腐の味噌汁に何か問題でもあるか?」 「いや、無いよ。基本的に作らないからさ、兄貴の料理も本当に超久し振りだしね」 ユートが作れるのは飽く迄も一般的な家庭料理で、しかも決して料理が得意な訳でもなかったから、流石に有名なレストラン張りの豪華料理は無理だ。 所詮は前々世、普通程度の青年でしかなかったし、前世は貴族様だから一人で何でも熟してはいない。 メイドに着替えをさせて朝の屹立までをも処理させていた、現代人という括りからしたら正しくダメ人間の塊。 とはいっても時間だけは無駄に有るから、ユートは後の世界で遠月なる学園に入って暴れる事になるのだが…… 「そろそろ疲れもマシになっただろうから、リアス部長達を起こして来てくれ」 「ん、了解」 仕上げをする間にユーキがリアス達を連れて来る。 ヘトヘトになってるが明日への活力を得る為にも食事は摂らねばならない、フラフラと席に着くと挨拶もそぞろにリアス達は食事を始めた。 「あら? 案外、味があっさりとしてるわね」 リアスの言った通りで、味の方は舌が受け付け易い様に、少し薄味であっさり風味に仕上げてある。 疲労には濃い味が欲しいものだったろう、だけど窮めて疲れていると却って受け付けない場合もあったから。 「明日からの予定だけど基本的には今日までの訓練と同じ。但し、Gは初日に戻して一〇G。一誠は特別メニューを熟して貰うよ」 「え゙……? それって、またあの時みたいな?」 「アレをやりたければさせるけど今回は別。その後でならやってみるか?」 一誠は思い切り首を横に振った。 「処で、さっきからずっと思ったんだけど、リビングの景観に合わないこの拷問器具の数々は何?」 使われた様子はないが明らかにリビングの景観をぶち壊している。 「覗き防止に牽制」 「そうか……」 ユーキの簡潔な説明に何をしたいのか直ぐに理解出来てしまった。 「兎に角、解散」 ユートはスルーして号令を掛けて五日目は単に夕飯を作るだけで終了した。 翌日、リアス達はこれまでの通りの訓練をやらせておき…… 「さて、これから一誠にして貰う訓練というのはサイコダイブだ」 一誠の特別訓練を開始した。 「サイコダイブ? 確か、心の中に潜るとかのあれか?」 「正解。一誠は自分の深層意識まで潜って、謂わば夢の中で神器に宿る魂に会ってきて貰う」 「神器の魂?」 「僕も神器にはまだ余り詳しくないんだが、リアス部長が言うには割と色んなタイプがあるらしい」 ユートはホワイトボードにタイプを書き込んでいく。 ・装備型 ・身体一体型 ・独立具現型 ・封印型 「軽く聞いただけでもこれだけある」 「は、はぁ……それじゃあ俺のは装備型か?」 「いや、封印型だよ」 「へ?」 「見た目には籠手だから、確かに装備型というのも間違いとはいえない、だけど敢えて封印型にカテゴライズしたのは、【赤龍帝の籠手】に限らず【龍の手】なんかは龍の魂を封じたものらしいんだ」 【龍の手】は装備型と言っても過言でないくらい意思など希薄なもの。 然し一誠の【赤龍帝の籠手】というのは全くの別格だという。 「リアス部長曰く、一誠の【赤龍帝の籠手】には昔の戦争で空気も読まずに喧嘩をしながら割り込んできたという、二天龍と呼ばれる龍の魂が封じられているらしいんだ」 「喧嘩ぁ?」 「そ、だから戦争をしてた三勢力も二天龍を斃す為に一致団結したとか。幾多もの犠牲を払って斃した後は、聖書の神が肉体を引き裂いて魂を現在の様に神器としたらしい」 一誠はマジマジと己れの左腕を見つめる、其処に宿った【赤龍帝の籠手】を。 「一誠に宿るのは二天龍が一角で、赤龍帝赤龍帝のドライグだそうだ」 「あれ? 二天龍って事はもう一つ在るんだよな?」 「詳しくは知らないけど、白龍皇のアルビオンって事らしいよ」 いずれは一誠の前に現れるとも言っていたがいつになるかは判らない。 ただ、もしもその白龍皇とやらが力を使い熟せているなら、全く使えていない一誠に勝ち目など有りはしなかった。 「白龍皇は兎も角、一誠はドライグの意識に触れて、少しでも自身の神器の理解を深めて欲しいんだ」 「判ったけどよ、どうやってサイコダイブなんてやるんだ? やり方なんて俺は知らねえぞ」 「鳳凰幻魔拳を応用して自分の意識に潜って貰うさ」 「鳳凰幻魔拳?」 「そう、本来の使い方だと相手に幻覚を脳内で見せ、精神を破壊する技だけど……それを応用する。じゃあ【赤龍帝の籠手】を出してみてくれるか?」 「わ、判った」 一誠は言われるが侭に、左腕に意識を集中し【赤龍帝の籠手】を顕現させる。 鳳凰幻魔拳は、イメージを敵の脳に叩き付けたり、記憶野を刺激して走馬灯の如く記憶を引き出したり出来る技だが、もう少し穿った考え方で使ったら意識を深層へと潜らせる事も可能なのではないかと、ユートはそう考えた。 【赤龍帝の籠手】と魂で結ばれた一誠であるならば、その応用的な技にてドライグとのアクセスが出来る筈だ。 「じゃあ、始めるよ」 「お、応っ!」 「鳳凰幻魔拳!」 ピシッ! ユートが右の人差し指で一誠の頭脳に刺激を与え、幻魔拳を脳内へと浸透させる。 果たして、一誠の意識は確かにサイコダイブに成功するのであった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「あ、あれ? これが俺の深層意識ってヤツなのか?」 キョロキョロと周囲を見回すが特に何も無い空間が広がるだけだ。 「何にも無いなぁって……俺、裸ぁぁぁぁぁっ!? 何故に?」 一誠は何も身に着けていない自分の姿を知り驚愕する。 「服を着た姿を意識しろ。イメージを固めたら服が顕れる筈だよ」 「優斗? 何でお前まで来てるんだよ」 「それが方法なら、意識を籠手にダイブさせたんだ。理由なら、僕の方もちょっとドライグに用事があったからね」 「そうなのか?」 理由というのが気にはなったが、ドライグの所に着けば判るだろうと思って、突っ込みは入れなかった。 それに初めての深層意識へのダイブだし、水先案内人が居た方が心強い。 「それじゃ、行こうか」 「判った」 ユートは一誠を引き連れると、強い圧力の在る方向へ向かって泳ぐ。 一誠の中に一誠以外で何か在るとすれば、それこそが赤龍帝のドライグの筈だ。 『ほう? 宿主の方から会いに来るとはな』 「な、何だ?」 「落ち着け、恐らくドライグだろう」 更に進むと、其処は総てが赤い……そんな赤い空間に赤い龍が佇んでいる。 「でけえ! こいつが俺の神器に宿る赤龍帝のドライグかよ!?」 『初めましてだな、小僧。俺は聞いていただろうが、赤龍帝のドライグだ。取り敢えずは歓迎をしてやる』 全身が真っ赤な龍――ドライグは可成り尊大な口調で自己紹介をすると一誠を睥睨して見下ろしてきた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |