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第34話:魔法副担任ユート!
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 茶々丸改め──チャチャ・マクダウェルとなって、生身を獲得したチャチャ。

 それを知った超 鈴音と葉加瀬聡美はアングリと口を開き、茫然自失となって最後の報告に来たチャチャを見送ったと云う。

「ど、どうしましょうか……超さん?」

「くっ、まさか茶々丸を生まれ変わらせるなんてネ。流石に予想外ヨ!」

「計画には茶々丸が必須なんですよ? それなのに、あの子が離脱しては……」

「まあ、茶々丸の姉妹機を使うしかないネ」

 超には一応、量産試作型茶々丸みたいな機体も在ったからか、未だに取り乱したりはしない。

 スペックは機体としては上だが、内部のソフトウェアで劣る量産試作型。

「にしても、幾ら魔法によってAIを形にしていたからといって、魂を宿したとか科学に喧嘩を売ってるんでしょうか?」

「九十九神的なものかナ? はっきりした意識を持たせていたし、彼が何らかの後押しをしたのも間違いはないヨ。だけど茶々丸──今はチャチャ……カ、彼女自身に僅かながら魂が宿っていたのも間違い無いナ」

「うう……」

 科学に魂を売ったマッドサイエンティストな葉加瀬としては、魂が機械に宿ったとは信じ難い。

「兎に角、ハカセは茶々丸の姉妹機で計画が遂行出来る様に調整を頼むヨ」

「ハァ、了解です」

 肩を落としながらトボトボと部屋を出る葉加瀬。

 超は苦笑いをしながらも見送り、葉加瀬が居なくなった部屋でモニターを睨み付ける様に見遣る。

「私の時代では名前が挙がらない筈の男、ネギ・スプリングフィールドの双子の弟たるユート・スプリングフィールド……ネ。色々と秘密が有りそダガ……少なくとも正義の魔法使い連中の会合で聖闘士を名乗ったのは間違い無いナ。青銅聖闘士・麒麟星座カ」

 キーを操作してモニターは目まぐるしく変わる。

 其処に映るのは鎧を身に付けた少年少女。

「二〇一二年に勃発をしたマルスと彼が率いた火星士との聖戦、それと闘ったのはペガサスの光牙、ライオネットの蒼摩、ドラゴンの龍峰、アクィラのユナ、ウルフの栄斗、最後ら辺からオリオンのエデン。ユートは今が九歳だから十年後には十九歳ネ。少し年嵩になるけど参戦はしていた筈。なのに名前は翌年のパラスベルダでの総力戦にすらも現れていないカ……どうなってるネ?」

 映されていたのは次世代の青銅聖闘士達だったが、ユートの名前は全く見当たらないのだ。

「彼は……何者……?」

 そもそも、御先祖様には双子の兄弟は居ない。

 それにマルスだ。

 マルスはルードヴィグに戻り、ミーシャという妻と娘のソニアと息子のエデンで暮らしていた。

 エデンは魔女メディアとの間にデキた子な訳だし、間違いなくルードヴィグはマルスに成っている筈。

 また、現在のソニアはといえば白銀聖闘士・南十字座(サザンクロス)の一摩の下で聖闘士の修業中。

 もう二年もすれば正規の聖闘士に成れそうだ。

 有り得ない。

 ソニアとは上級火星士(ハイマーシアン)で聖闘士ではないし、成ったにしても二〇一二年に蠍座の聖衣をメディアから与えられた形だった筈である。

 それが、一摩に預けられたのが雀蜂座(ヴェスパ)の白銀聖衣だとか、本来なら父親の仇と付け狙うであろう蒼摩は、ソニアを初恋の相手的に見始めたりとか、色々とおかしかった。

「困ったナ、何処から手を付けたら良いものやら判らないヨ……」

 在り来たりな情報ならば超にも手にする事は出来たのだが、凡百な情報がそれこそ百有っても意味など見出だせないし、 かといって未来情報では何ら手掛か
りが見当たらない。

 凡百な情報によると──ユート・スプリングフィールドとは魔力が申し訳程度にしか無くて、英雄である父親のナギ・スプリングフィールドは疎か、双子の兄たるネギ・スプリングフィールドにも抗し得ない。

 確かに魔力センサーにて調べたら、殆んど魔力が無いというのも間違いだとか欺瞞情報だとかではないと判断出来たが、聖闘士だと云うなら話は全く異なる。

 強過ぎるのだ。

 小宇宙という魔力や氣とは違う力、それで魔法紛いの事も出来るらしいのだが……何より神にすら攻撃を可能とするパワー。

 勿論、それが出来るのは飽く迄も高位の聖闘士──黄金聖闘士くらいだが……

「完全なイレギュラーカ。味方に付けるか或いは中立に徹して貰うかだナ」

 頭が痛い超だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 冬休み直前の終業式……2−Aでは色々な話が教室で行われていたが、中でも宮崎のどかの変化は話の種として大きい。

 常日頃から長めの前髪に目が隠れていて、基本的にはオドオドとした少女であったが、今は髪留めで前髪を留めて目元が現れている為に可愛らしく変化をし、少し前向きになっている。

 何でもとある人物と個人的に再会し、その際に今身に着けている髪留めを贈られて、その人物に手ずから着けて貰ったのだとか。

 これ以上は恥ずかしがって語らなかったが、親友の綾瀬夕映はユートの事だと確信をしている。

 小さなハートを象る髪留めは、控え目なのどかでも着けて派手にならない程度のアクセント、しかもだからといって地味過ぎるという訳でもない絶妙さから、のどかが可愛らしく変化せしめていた。

「やるですね」

 先日に逢った少年を評価すると共に、親友が堕ちているのを見て取った夕映、応援しようと心に決めた。

 何しろ、頬を仄かに朱に染めて嬉しそうな表情を浮かべており、明らかに【命の恩人】としての想いを越えていると判る。

 後はよく解らないのが、時折思い出す様に口元を手で覆って顔を赤らめる事。

 そう、夕映は知らない。

 あれから少しだけ経ち、ユートとのどかが再会していた事も、プチデートに興じた事も……だ。

 内容は小学生の男女的な簡単なデートだったけど、既に【命の恩人】というだけでも参っていただけに、この再会と逢瀬はのどかからしたらドキドキもの。

 数えで十歳児にしては、ユートの身長は高めだったからか、のどかと並んでも少し低いだけに過ぎない。

 一五三センチなのどか、極端な身長的な差異が無いからかちょっと歳上なお姉さんとの微笑ましいデートに見られていた程度。

 ユートはネギに比べて、身長がこの時点で一五〇センチと高めだったから。

 因みに、兄のネギの身長は一三七センチである。

 一三センチも高いのは、きっと基本的にアウトドアで食事もシエスタによってバランス良く摂っていたからと、ユートの前々世からの資質的なものだろう。

 まあ、将来的に一九〇センチに届かないにしても、それに近い高身長なのだから然もありなん。

 ユートとネギは双子だとはいえ、所詮は二卵性双生児に過ぎない。

 双子座の黄金聖闘士だったサガとカノン、この二人みたいに一卵性でないから全く同じ風貌にならなくてもおかしくはなかった。

 まあ、そもそもユートは基本容姿が大元の世界での──緒方優斗の姿が魂にて定着し、転生を幾度続けようとも変わらないだけだ。

 プチデートも終わって、ユートはのどかの髪の毛に触れると、軽く前髪を掻き分けて髪留めを着ける。

 紅くなりながら驚いているのどかに──『やっぱり目元が見えてる方がのどかは可愛いよ』と言い放つ。

 年下とはいえはっきりと『可愛い』なんて言われ、あたふたするのどかの頬を撫でて、おもむろにユートは顔を近付ける。

 ナニを求められているのか誤解のしようもなくて、だけど何故か心が落ち着いたのどかは、ソッと目を閉じその瞬間を待ち構える。

 重なり合う唇。

 本当に軽く重ねただけ、それでも宮崎のどかにとっては凄まじい勇気を要し、唇が触れた瞬間にビクリと肩を震わせた。

 僅か数秒の停止時間。

『またね、のどか』

『は、はい!』

 この頃ののどかからすれば相当の出来事だったが、蓋を開けてみれば上手くいったと云えよう。

 思い出すだけで恥ずかしくて、顔から火を噴くくらいではあるが……

 そんな中で、朝倉和美が壇上へと上がるとカメラを手にして叫ぶ。

「さぁさぁ、御立ち合い! この新聞部・朝倉和美のホットなニュースだ!」

「朝倉、それって若しかして新しい先生の事?」

 スガァァァァンッッ!

 鈍器でぶん殴られたくらいの精神的な衝撃を受け、糸目を思いっきり見開きながら発声元を見遣った。

 橙色の長い髪の毛を鈴の髪飾りでツインテールへと結わい付け、それなりに高い身長をしたクラスメイト──神楽坂明日菜である。

「あ、明日菜? どうしてその情報を……」

 新聞部なだけにニュースはホットな内に、誰も知らない内に発信するのが仕事だと考える朝倉和美だが、その御株を奪われたのだ。

 選りに選って、クラス内で【バカレンジャー】だと名高いバカレッドに。

 バカレンジャーだとか、バカレッドだとかは決して明日菜を、延いてはバカレッドのメンバーをディスっている訳ではない。

 からかいはするだろう、だけどそれは所謂ねちっこいイジメの類いではなく、成績不良なメンバーに親愛の情を籠めて? 言っているに過ぎない。

 まあ、呼ばれる方からすれば迷惑極まりないけど、それならば成績を改善すれば済む話。

 出来ないからバカレンジャーであり、既にメンバーのバカブラックやバカブルーなど受け容れていた。

 バカレンジャー呼ばわりを嫌だと叫ぶのは実質的にバカレッド、神楽坂明日菜唯一人だけだったりする。

 それは兎も角としても、アイデンティティー崩壊の危機に朝倉和美はブツブツと何やら呟いていた。

「悪い事したかな?」

「偶にはエエんちゃう?」

 ニコニコ笑顔な明日菜の親友──否、真友とも云える近衛木乃香が言う。

 木乃香は最近頓に御機嫌な様子であり、話題の新しい先生が夕飯を食べに来る様になってからは、何だか夕飯がやけに豪華で美味しくなった気がする。

 朝食が前と変わらない事から、決して明日菜の気のせいではあるまい。

 木乃香にとって、新しい先生──ユート・スプリングフィールドは大切な幼馴染み? であり、何らかの御師匠様であり、恐らくは年齢など無関係に大好きな男の子なのだろう。

 【ショタコン】呼ばわりをしているケンカ友達──雪広あやかみたいに、決して小さな子が好きな訳ではなくて、大好きなユートが五歳ばかり年下なだけ。

 最近までエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが一緒に食べに来てたが、茶々丸が帰って来たとしてそれ以来は来ていない。

 だが、『メシは美味かったぞ』とか言って御礼の品を寄越した辺り、木乃香のご飯が気に入らなかった訳ではなさそうだ。

「明日菜さん達も御存知だったですか?」

 話し掛けて来たのは見た目に小学生でも通じそうな少女、図書館探検部の一員でバカレンジャーのメンバーたるバカブラックでもある綾瀬夕映。

 記憶力は良いが勉強嫌いで勉強に手を付けない為、成績が2−Aの中で最底辺を彷徨っている際者。

 授業をまともに受ければ普通に上位に食い込めそうなのに、やりたがらないからバカレンジャーという、珍しい部類であった。

 因みに、他のメンバーは普通におばかさんである。

 運動は得意なのだが……

 此処でバカレンジャーのメンバーを紹介しよう。

 【バカレッド】──神楽坂明日菜。

 【バカブラック】──綾瀬夕映。

 【バカブルー】──長瀬 楓。

 【バカイエロー】──古菲。

 【バカピンク】──佐々木まき絵。

 【ポストバカレンジャー】──桜咲刹那。

「誰がバカレンジャーですか!?」

「桜咲、行き成り叫んだりしてどうした?」

「い、嫌……何だかおかしな電波を拾ったらしい」

 下手をすればバカレンジャーの追加戦力になりかねないとは、ユートからすれば基本的に二次創作の世界での常識だが、成績不良者の一人なのは本当だ。

 最低限の成績は取っているらしいけど。

 首を傾げながら訊ねたのは中学生とは思えない体形──綾瀬夕映とは真逆的な意味で──をした褐色肌に金眼の女性である龍宮真名だった。

 裏に関わっていて刹那は謂わば仕事仲間でもあり、成績的には可もなく不可もなく……だろうか?

 容姿は一般的に見て美人といっても良いが、ナンパなどはされない筈。

 雰囲気があり過ぎて。

「それにしても、神楽坂が朝倉より先に情報を得ていたとはな……」

「神楽坂さんはお嬢様とはルームメート。恐らくは、最近になって麻帆良に来た彼がお嬢様と懇意だからだろうな」

「うん? 彼とはユート・スプリングフィールド……だったか?」

「ああ、あの夜に聖闘士と名乗った彼だ」

「聖闘士か、裏でもまことしやかに囁かれているな。一九八九年にグラード財団が十人の青銅聖闘士とやらを集め、格闘技大会である銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)を開催したが、確か十人目が造反したとかで中止になったな」

「調べたのか?」

「勿論だ。情報とは即ち、戦う者からすれば力の一つだぞ? 『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』」

「ふむ……」

 流石にポストバカレンジャーといっても、この程度の事は知っていた。

「確かにな」

「処で、大事なお嬢様へと近付く男な訳だが?」

「別に不逞の輩ではない。京都の本家で一年間、居候みたいな事をしていた筈。長が知人からの預かり者だと発表していたからな……まあ、私は会ってないが。それにお嬢様御自身が受け容れているなら、私如きがどうこうとは言えん」

「成程……」

 片目を瞑りながら嘆息をする真名。

「それよりも龍宮」

「何だ?」

「私はよく知らないんだが……聖闘士とはどういった存在なんだ? 先生達が過敏な反応をしていたが」

「ふむ……各国の、少なくとも先進国の首脳陣はその存在を認知している筈だ」

「何?」

「聖闘士とて仙人でもなければ、霞を食って生きていける訳ではない。それならば何処かで稼がねばならない訳だが、一種の傭兵みたいな事をしているらしい」

「傭兵か……成程」

「後はそうだな、宗教団体らしいぞ」

「宗教団体か?」

「ああ、本拠地はギリシアはアテネ。その何処かに、聖域と呼ばれる里か或いは砦でも在るのだろうな……戦女神アテナを信仰していると聞く」

「ギリシア神話のアテナ」

「嘘か真か、地上侵略を狙う邪悪な神々と戦うのが、そもそも本来の仕事だとか聞いたな……」

「聞いたとは誰にだ?」

「件の新しい先生にだが」

「ハァ?」

 しれっと暴露された事実に刹那は間抜けた声をだしてしまい、周囲から訝しい目で視られてしまう。

「待て、本人からだと?」

「まあな。ちょっと街中で出逢って餡蜜を奢って貰った際に訊いたんだ」

「いや、色々と待て!? 十歳児に奢らせた上に情報まで毟り取ったのか貴様」

「毟り取ったとは酷い言い掛かりだ刹那、『巫女さんの格好で愛でさせてくれたら餡蜜を奢るし、知りたい事も少しは教えようか?』と持ち掛けてきたのは彼の方だぞ?」

 開いた口が塞がらないとはこの事か?

「実際、ちょっとえっちな事もされたんだし、しこたま餡蜜を食わせて貰った。情報は出せる部分を適当にといった感じだな」

「そ、そうか……」

 木乃香に近付けて本当に良いのか、刹那は判断が出来なくなってきた。

 尚、流石に発禁レベルな事まではしていない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 麻帆良学園本校女子中等部の終業式は、特におかしな事も起きず粛々と進む。

 まあ、2−Aの彼女らとて騒いで時間超過なぞ望まないという事だろう。

 そして近衛学園長からの長く有り難い? 話から始まった終業式も漸く終盤となり、新しい先生の紹介が始まって壇上へと上がって来たのは、小学生と思しき少年であったと云う。

「初めまして。近衛学園長から御紹介に与りました、緒方優斗と云います」

 学園長はユート・スプリングフィールドと呼んだのだが、何故だか当の本人は日本人の様な名を名乗る。

「まあ、戸籍上はイギリスはウェールズから来日した【ユート・スプリングフィールド】ですが、どちらにせよユートなので……」

 確かにその通りだけど、流石に笑いが洩れた。

「此方では英語を教える事になります。本場の英語を期待していて下さいね? また、来学期から二年A組の副担任も担わせて戴く事を加えます」

 とはいえ、学園長からの説明では確か教育実習生という話では? とも思った学生達だったが……

「僕は教育実習生を米国で済ませてます。実習生なのは双子の兄のネギ・スプリングフィールドなので」

 答えは本人に語られる。

「では、来学期から兄も含めて宜しくお願いします」

 こうして、日本は冬休みというイベント盛り沢山な日常が始まった。


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