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第24話:ぬらりひょん学園長
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 ユートは長く艶やかなる黒髪の美少女、近衛木乃香と麻帆良学園都市の一角を歩いている。

 所謂、女子高エリアと呼ばれており、安全といった観念からだろうか、都市の一番奥まった場所へと存在していた。

 少なくとも男子が不埒な目的で入り込むには少し、勇気が必要となるだろう。

 例えば、着替え中の女子が居る更衣室に堂々と入るくらいの……

 そんな場所に、見た目は小さな小学生にしか見えないとはいえ、男子が入っているのだから割かし目立っているのは否めない。

 特に隣に立つのが美少女な木乃香であり、ユートと確り手を繋いでいるのだ、どうしたって興味が湧く。

 何よりも、物凄い視線を感じる辺り苦笑いが出た。

 恐らくは木乃香の護衛、桜咲刹那だろう。

 見た目には黒髪をサイドポニーに結い、いつも真剣を片手にしている貧乳少女な訳だが、彼女の髪の毛の色は染めたもので、本来は白髪であると云う。

 瞳の色もカラーコンタクトか何かでの誤魔化しで、ある意味では姿形を偽っているとも云える。

 そう、ユートと同じく。

 何故ならユートの今の姿は確かに十歳児でしかないのだが、ダイオラマ魔法球や魔法世界での時間差で、既に一六歳の姿だからだ。

 今は自らのスキルである【千貌】により、見た目を戸籍年齢である十歳児へと変えている。

 故に現在は仲の良い姉弟が歩いているくらいにしか見えず、此処が一般エリアだったら性質の悪い男共に絡まれていた処だ。

 木乃香をナンパする為……とはいっても、近づく前に刹那が始末するだろう。

 いや、殺さないけど。

 刹那はユート達にバレているとも知らず、ハッキリと言ってストーカーの如く後ろから着いて来ている。

「ほんま、御師匠とこうやって歩くん、久し振りや」

「そうだねぇ」

 麻帆良学園の春休み中、普通に会って稽古を付けている内に、木乃香のユートへの呼び方が『御師匠』の一択になってしまった。

 勿論、会う場所は関西呪術協会の本山だ。

 勝手知ったる何たるや、こっそり忍び込み、木乃香の部屋に潜り込んでいた。

 まあ、流石にこの場には居ない事になっている状態では、堂々と会いに行くという訳にもいかない。

 そんな訳で、密会なんて形を採っていた訳だ。

 案内をされた場所とは、麻帆良学園の女子中等部であり、学園都市の学園長にして関東魔法協会の長でもある近衛近右衛門の許へ、つまりは学園長室。

 二人は連れ立って学園長室にはいるが勿論、その時には既に手を放している。

 遺伝子の不可思議を見たユートは、学園長の姿を見るなり……

「ぬらりひょん!?」

「ひょ!?」

「ブフッ!」

 テンプレな科白を発し、学園長をいじけさせた。

 魔法関係者で側近扱いの高畑も、行き成りのジャブに思わず噴き出す。

 何だか学園長が端っこに座り込み──『ワシ、妖怪と違うもーん』とか言い、イジイジとし始めるものの木乃香の『おじいちゃん、気持ち悪いわぁ。やめてくれへん?』……バッサリと両断する言葉を受けて……

「ぐふっ!」

 ナニかが突き刺さって、吐血? してしまう。

 それから数分後……

 アホな寸劇を終わらせ、真面目な話を始めた。

「ふむ、教師をする事か。大変な試練を貰ってしもうたのぅ」

「いや、別に」

「ほ? どういう事じゃ? 教師は大変じゃぞ」

「教師が云々じゃなくて、大変な試練? 僕は別段、あんな称号に興味はないからね。此処に来たのだって爺さんの顔を立てたから。やるからには確りやらせて貰うけど、それだけだよ」

「ふ、ふ〜む」

 学園長はユートの言葉に戸惑いながら髭を擦るが、良い言葉をまるで思い付かずにいる。

 ユートにとってみれば、こんな修業の名前を借りた教師の仕事は、メルディアナの爺さんの面子を立てる程度にしか考えておらず、MMが発行する【偉大な(笑)魔法使い】資格などに微塵も興味は無い。

「ま、まあ良い。それでじゃな? 住む場所に関してなのじゃが、今の処は何処も空いておらんのじゃよ。じゃから木乃香、済まんのじゃがユート君を部屋に住まわしてはくれんかの?」

「それには及ばない」

「ほっ?」

「近くの森に家を建てさせて貰うから」

「いや、そういう訳にもいかんじゃろ? 食事なんかどうするのじゃね?」

「適当に食べるさ」

 料理は別に上手くはなくても、決して出来ないというレベルでもない。

 目玉焼きくらいは作れるだろうし、カレーやシチューなども作れる。

 少なくともポイズンクッキングではないのだから、面倒なだけで幾らでもどうとでも出来るだろう。

「兎も角、衣食住に関しては自分でやれる。大体にしてね、子供を教師にしようと云うのにバックアップの体制が出来てないってさ、有り得なくないかな?」

「ふむ? それは……」

「どんな理由であれ、子供を預かるんだ。初めから、そこら辺のバックアップを出来る様に準備しておくのが普通だ。それを孫だとはいえ生徒に丸投げとか? どういう神経してるんだ、貴方は!?」

「む、う……」

「これでは三学期から来る兄にも同じ事をやりそうな気がするね。学園長は其処をどう考えてますか?」

「それは……のぅ」

 やはりというか、原作の通りだと云うべきなのか、同じ措置を執る心算であったらしい。

「ユート君、確かに学園長が少しばかり軽率だったかも知れないが、流石に言い過ぎではないかい?」

「それは……子供とはいえ男女を平然と同室にしようとする事を、貴方も肯定していると取るけれど?」

「あ、いや、そういう訳ではないのだけどね」

 アハハハと笑いながら、高畑は愛想笑いを浮かべて誤魔化してきた。

「兎も角、僕は森の一角を借りて家を建てるので許可を貰います。まあ、拒否るのなら爺さんに虐待されたと訴えるので」

「な、なんでじゃ!?」

「無理矢理に女の子の部屋に押し込められた……と」

「ふぉ!?」

「セクハラで訴えて良いと思うんだ。学園長を」

「な、何と!?」

 子供を相手だと思って、よもやセクハラとまで言われようとは考えておらず、学園長は目を見開きながら絶叫をしてしまう。

 その度に髭がピョコピョコと動いていた。

〔なあなあ、御師匠?〕

〔何かな?〕

〔ウチと住むんが嫌なん? ウチは構えへんよ?〕

 木乃香から特殊な念話が響いてくる。

 恐らくは小宇宙を籠めた符を使ったのだろうから、魔法使いには探知をされたりはしないだろう。

〔別に木乃香ちゃんと住むのが嫌な訳じゃないんだ。寧ろ料理が出来る木乃香ちゃんと一緒に住めるのは嬉しいかな?〕

〔せやったら何で?〕

〔工房の展開、ダイオラマ魔法球の置き場、それらが出来ない。木乃香ちゃんの同室の子って一応は一般人だろ?〕

〔ああ、せやったねぇ〕

 とはいえ、バレても問題のない相手──神楽坂明日菜な訳だが、学園長に弱味を見せる心算は無かった。

 学園長はMMの手先ではないし、決して悪人でもないのだろうが、悪戯好きな処があるのは原作から理解が出来る。

 下手に弱味を見せると、その悪戯に巻き込まれてしまい兼ねないのだから。

〔木乃香ちゃんも女の子らしくなってるし、甘えたりしたい気はするけどね〕

〔ウチはドンと来いや!〕

〔ええ? それこそセクハラしちゃうぞ?〕

〔それも込みやよ?〕

 ふと横目に見ると、何処か艶やかな雰囲気を醸し出した木乃香が、頬を朱に染めてニコニコしていた。

〔まあ、色々と触れられて困る物も有るし、部屋を空けて貰って触んなとか言えないよね? だから一人暮らしの方が良いんだ〕

〔う〜ん、しゃーないか〕

 魔導具を造るのに必要なアイテムを、部屋に並べるのも余り宜しくはないし、ダイオラマ魔法球に全てを入れるにせよ、そんな物を一般人の居る部屋には置いてはおけまい。

「それで? 僕と兄の住む場所はどうしますか?」

「む、むう……仕方がないのぅ。ワシとしては、子供を一人暮らしをさせるのもあれじゃし、相部屋の方が良いと思うのじゃがな」

「要らぬ気遣いとは言いませんが、子供とはいえ教職をするのなら、ある程度の自立は必要でしょう?」

「あい解った、ユート君は森の一角を貸す故、其処に住む事を許可しよう。後から来るネギ君にも教員寮をそれまでに空けておこう」

 どうやら諦めたらしく、学園長は膝をポンと叩いてユートの意見を容れた。

「ありがとうございます、学園長」

 頭を下げると木乃香と共に退室をする。

 バタン! 扉が閉まってユートと木乃香を見送り、近衛近右衛門は『ハァー』と溜息を吐いて……

「何であんな、自立心旺盛なんじゃろ?」

 などと疑問を溢す。

「まあ、ナギもあんな感じでしたからね、タイプは違いますがやはり血筋という事なのでしょう」

「確かに、奔放じゃったからの……」

 とはいえ、ユートが提出したという魔導具に関するレポート、これは素晴らしい出来映えであり、ナギではこうはいかないだろうと考えれば、そこら辺に関しては母親似と思えた。

「ふむ、魔法は魔力が少なすぎて使えぬと云う話じゃったが、魔法世界へ単身で赴く程じゃし、それなりに戦えるのかの?」

「さあ? どうでしょう」

 高畑はユートの実力を、全く知らなかった。

 二度に亘る拳闘大会で、既にV2を達成しているとはいえど、それは飽く迄もサガという偽名である。

 【千貌】で姿を自在に変えられるユートの事を知らない以上、高畑とてサガとユートをイコールで結び付ける事は不可能だった。

 戸籍年齢が一〇歳だが、今の本当の見た目は一六歳だと云うユート、その外見を【千貌】で変化せしめており、戸籍年齢に合わせた姿をしているなどと、誰が想像出来るだろうか?

 因みに、この事を知っているのはネカネとアーニャと木乃香のみ。

 ラカン達は、魔法薬の力で姿を変えていると勘違いをしていた。

 それも已むを得まい。

 実際に【年齢詐称薬】が存在するし、外見など如何様にも変えられるのだ。

「ふむ、少し試してみようかの?」

「試すとは?」

「あやつに頼んでユート君の実力を見分じゃよ」

「あやつ……まさか!」

「フォフォフォ!」

 まるで何処ぞの忍者な名を持つ異星人の如く笑い、学園長室に備え付けられている電話の受話器を取り、学園長のよく知る人物への連絡を取った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 木乃香と別れたユート、森の中へと入ると雰囲気に変化を感じる。

「これは、人払いの結界」

 これなら多少の騒ぎが起きたとしても、麻帆良学園一般人は気付くまい。

『我が領域に入り込むか、覚悟は出来ていような?』

 森に反響する声。

 エイミィ・リミエッタや守野くるみの声質から鑑みるに、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであると推測される。

「学園長からの許可は得ているけど?」

『知らぬな、この森は我が領域よ! それを侵すとあらば覚悟を決めろ!』

 森の木々に声が反響をしているとはいえ、気配まで消している訳ではないし、場所は既に捉えてあった。

 近場の石ころを拾うと、掌でポンポンと投げて弄ぶユート、それを見て嗤いたがら小馬鹿にするかの如く言ってくる。

『ハハハ、そんな石ころをどうする心算だ? それで私を倒せる気でいるのか、愚か者めが!』

「それはどうかな?」

 ユートは小宇宙を籠め、気配の許へと投げる。

 スパカーン!

『はうあ!?』

 余りにも間抜けな音を鳴らしながら石に当たって、エヴァンジェリンだと思われる妙齢の女性が、木の上から落っこちて来た。

 妙齢な女性──幻術によるものだろう、エヴァンジェリンは落ちたショックにより、術を制御出来なくなったのかポン! と音を響かせると、煙を上げながら元の一〇歳くらいの少女の姿に戻ってしまう。

 先程の姿は今の一〇歳の姿が二五歳くらいに成長をしたのを想定し、変化させたものだったのだろうか、妙齢な女性から少女の姿になったエヴァンジェリンの姿は、まるでその侭縮んだかの如くである。

 流れる様なストレートなヘアは美しい金糸の如く、誰にも踏み荒らされた事が無い初雪の様な白い肌に、開かれた目はアクアマリンの輝きを持つ。

 忌々しそうに睨んできているが、整った目鼻立ちは少女の姿ながら美麗だ。

「き、貴様……」

「倒せる気でいるのか! とか言われたから、試しにやっただけじゃないか」

 ド頭にたんこぶを作ったエヴァンジェリンに対し、やれやれとオーバーアクションをしながら応える。

「手加減をしてやろうかと思ったがやめだ! やはり貴様は奴の子供らしい! 茶々丸、殺るぞ!」

「イエス、マスター」

 ロボット故の気配の薄さから判り難いが、茶々丸もすぐ傍まで来ていた様だ。

「ふむ、奴の子供……ね」

 ユートは顔の作りは兎も角として、髪の毛や瞳の色などが両親のどちらとも似てはいない。

 それでも尚、エヴァンジェリンは奴の子供≠セと談じていた、つまり彼女はユートがナギの息子であると判断するソースがあり、狙って襲ってきたのだと云う事になる。

「(早速、学園長の悪戯という訳か。恐らく魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に居た僕の実力を見たい……そんな処だろうな)」

 本の虫で、机上の天才であるネギは実力を見るまでもないし、暫く時間を置いてから試したみたいだが、魔法世界は実力の無い者が伝手も無く生き残るのは、ちょっと難しいという事もあり、実力の把握に彼女を嗾けたのであろう。

 女子供は殺さないと標榜をしており、誇り高き悪と名乗るエヴァンジェリンであれば、実力を見るに丁度良いという訳だ。

 しかも、エヴァンジェリンの魔力は結界の効果で、完全に近いレベルで押さえ付けられており、一般的な魔法使いにも劣る魔力しか持ち合わせず、六〇〇年の研鑽による技術でしか戦えないのだから。

 しかも最大火力を得られる【闇の魔法(マギア・エレベア)】は使えないし、足りてない魔力は魔法薬を触媒にせねばならない。

 謂わば、魔王レベル1と云う事であり、昼間だから力も大した事はなかった。

 翻って、ユートは違う。

 姿が子供だとはいえど、修業の為に小宇宙を抑える為の拘束用魔導具を着け、力を抑えているとはいえ、それでも単純なステータスは並の大人を凌駕する。

 昼間で魔力も結界による締め付けを受け、一般的な一〇歳の少女と殆んど変わらないエヴァンジェリンに敗ける程、ユートの技術は低くはない。

 爪を伸ばして襲い来るが遅い、今のユートでもそこら辺の青銅聖闘士ならすぐに片付けられる。

 そんなユートに対して、今のエヴァンジェリンでは悠長な動きに過ぎない。

 身体能力が全盛期であればまだしも……

「この程度で!」

 現在のエヴァンジェリンでは相手にもならない。

 ヒラリと躱すと、膝を曲げて鳩尾にカウンターにてぶつけてやる。

「グェッ!」

 蛙の潰された様な悲鳴。

 しつこい様だが今現在のエヴァンジェリンは、並の子供の身体能力しか持ち合わせていないから、これだけでも可成りのダメージが通った筈。

 現に今、エヴァンジェリンは腹を抱えて蹲りつつ、『ゲホォッ!』と今にも吐きそうな体である。

 茶々丸がロケットパンチを放ってきた。

 腕が途中から切り離されると、噴射を上げながら腕がユートに向かって飛んで来ている。

 ワイヤレスではないし、これなら対処は楽だ。

「聖剣抜刀(エクスカリバー)!」

 ワイヤーを断ち切ると、パンチを躱しながら腕を掴んでやり……

 バキャッ!

「あっ!」

 破壊してやる。

 茶々丸は無表情ながら、悲しげに壊れた腕を見つめていた。

「己れ、もう許さん!」

「襲い掛かって来ておきながら、やられたからと何を言っているんだ君は……」

「だ、黙れ! もう手加減は無しだ!」

「いや、初めから手加減しないとか言わなかったか? 確かさ」

「ええい、黙れ! 黙れ! 茶々丸、征くぞ!」

 懐から魔法薬らしき物、恐らく魔法を使う為の触媒だろうが、それを取り出しながら命令を下す。

「イエス、マスター!」

 再びこの主従はユートに襲い掛かって来た。


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