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第50話:悪魔×光槍
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「クックック……さあ! 我が眷族となれ」

 ガイオルシュは僧侶(ビショップ)の駒をアーシアへと使うと、僧侶の駒が光を放ちアーシアの肉体へと侵食していく。

「嗚呼っ!」

「さあ、どんどん入っていくぞ……」

 苦悶の表情を浮かべているアーシアを見て、嗜虐心に満ちた顔で言う。

 アーシアが右腕のチェーンを放つが、ガイオルシュは容易く躱した。

「ハッ! 苦し紛れに放った処で当たるものかっ! 虚しい抵抗などせず、我がモノを受け容れよ!」

 嗤うガイオルシュだが、異変が起きた。

 パキン!

 軽快な音が響き、僧侶の駒が弾かれたのだ。

「は?」

 訳が判らずガイオルシュは間抜けな声を上げると、其処へ更なる衝撃が背中を襲った。

「ゲハッ!」

 膝を付くガイオルシュ。

「な、何だ? いったい、何が起きたというのだ?」

 見れば、それはアーシアが先程放ったチェーンで、それが弧を描き戻って来てガイオルシュの背中を貫いたのだ。

「ば、莫迦な! 苦し紛れに放った鎖が戻って来て我を傷付けたというのか?」

 信じ難い出来事なだけ、ガイオルシュは驚愕を露わにする。

「ただ、闇雲に放った訳じゃありません。舞乱射斗(ブーメランショット)……ネビュラチェーンのちょっとした応用です!」

 このアンドロメダ聖衣は本物を精巧に模した物。

 素人でもある程度は戦闘が可能な様に、魔法によって補助されているが、それは飽く迄も基本のみ。

 瞬がよく使っていた技、雷陣波撃(サンダーウェーブ)や回転防御(ローリングディフェンス)や星雲陣形(アンドロメダネビュラ)の様な技くらいだ。

 即興で瞬が海闘士の一人……スキュラのイオを相手に闘った時に使った技は、実は登録されてはいない。

 ユートは映像作品としての【聖闘士星矢】のDVDを訓練後には見せており、アーシアはスキュラのイオと瞬の闘いもその時に知ったのだ。

 勿論、簡単に真似が出来る訳もないが、この二週間というもの何度も練習をしたのだろう。

 思った以上に上手くいったらしい。

 二週間だとはいっても、実際にはダイオラマ魔法球みたいな空間が在るから、もっと長い時間を修業しているのだし、応用技くらい出来ても不思議は無い。

「大熊捕獲(グレートキャプチュアー)!」

「がっ、ぐわっ!?」

 円鎖(サークルチェーン)がガイオルシュの体躯を縛り付けた。

 これもまたアンドロメダの聖闘士たる瞬の技。

 この技は大熊の暴力さえ縛るのだ。

「おのれ!」

 もう一人の恐らくは眷属悪魔が、アーシアへと攻撃を仕掛ける。

「野生拿罠(ワイルドトラップ)ッ!」

 角鎖(スクエアチェーン)が仕掛け罠の如く変化し、悪魔の脚を捕らえた。

「ぎゃっ!?」

「無駄ですよ、気配を消して攻撃をされた時は吃驚しましたが、姿を現してしまっては不覚は取りません」

「真逆……」

 呻く女性悪魔、恐らくは生粋の悪魔ではなく人間がベースの転生悪魔だろう。

「其処で見ていて下さい。私が彼を斃す処を!」

「既に二本の鎖を使っていては、トドメなど刺せないでしょう……?」

「私の知るアンドロメダの聖闘士は、決して鎖だけで闘った訳ではないですよ」

「な……に?」

 アーシアは右腕を天高く掲げると、その掌を広げ何かを集め始める。

「それは、光子? 人間が生身で光を集めるとは!」

 天使や堕天使なら光力を操る事により、光の槍を生み出す事も可能。

 だが人間は神の祝福という名のシステムを以ても、触媒を介さねば光を操る事が出来ない。

 勿論、光の精霊に嘆願する呪文詠唱による術式構築により、擬似的に光を使う事は出来る。

 然し、アーシアのそれは明らかに天使達と同様で、自らが光力を操っていた。

「ひ、光だと? 貴様……それをどうする気だ!?」

「貴方に投げます!」

「や、やめっ!」

「ていっ!」

「プギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 可愛らしい掛け声と共に手にした光の槍を放つと、汚ならしい絶叫が辺り一帯に谺する。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 少し時を遡り、ユートは二つの魔力を捉えていた。

「(魔力? 悪魔が入り込んだのか? グレモリーの支配地域に断りも無く)」

「ユウ、黙り込んでどうしたのかしら?」

「リアス部長、悪魔がこの地に来る報告は受けているかな?」

「グレイフィアが来た時、後付けで受けたくらいかしらね? ライザーだって無許可で来たし」

 まあ、報告を受けていればライザーが顕れても驚きはしなかっただろう。

「リアス部長って舐められてないか?」

「言わないで! それで、悪魔がどうしたの?」

「二人ばかり知らない波長の魔力が顕れた」

「っ!? 知らないって、今まで会った事の無い魔力って事?」

 ユートは首肯する。

 というか、リアスは感じなかったらしい。

 尤もユートも感じたのは一瞬だけで、直ぐに消えてしまったのだが……

「結界でも張ったのかな。だけど、何の目的で?」

「結界……? 誰かと闘ってるのかしら?」

「戦闘……真逆!」

 ユートははたと気付き、すぐに念話を送る。

 主と使徒か若しくは使徒同士は、同一世界軸線状に居るのなら、念話で会話を行う事を可能としていた。

「ユーキ、アーシアは其処に居るか?」

〔え? 下着を買いに街の方に出たよ〕

「ハァ? 下着って……」

〔ミッテルトの下着が無くなったから、序でに自分やボクらの分も〕

「判った」

 念話を切ってリアスの方を振り返るユート。

「何? 下着って、いったい何の事?」

「どうやら悪魔はアーシア狙いらしい」

「え? それって、彼女を下僕にでもしようとしてるって事なの?」

「僕は魔力が消えた地点に行くよ」

「待って、私も行くわ!」

 ユートが駈けると同時にリアスも駈けた。

「(だけど何故、アーシアの事を知っていたんだ? 何よりも、ピンポイントでアーシアが一人で出掛けた所を狙えるなんて?)」

 それは余りにおかしい、これではまるで……

「(……やっぱり奴が?)」

 這い寄る混沌が囁いたとしか思えなかった。

 邪神が分体とはいえ二度も顕れた事を鑑みたなら、旧支配者の中でも唯一封印を免れた這い寄る混沌が、世界を破滅させるべく動いていると考えるのが妥当。

 アーシアを狙わせたのは恐らくその一環だろうが、相変わらず訳の解らない事をしてくれるものだ。

「(あの道化師めっ!)」

 ユートは走りながらも、此処には居ない道化師に対して毒吐いた。

 暫く走ると結界が展開されている場所に辿り着く。

「っ!? 結界が解けた……これは!」

 其処には、アンドロメダ聖衣を纏ったアーシアが、悪魔らしき女を鎖で絡めた状態で立っていた。

「アーシア!」

「あ、ユートさん!」

 ユートに気が付き、笑顔で手を振ってくる。

 無邪気で可愛い顔だが、囚われた悪魔がガタガタと震えているのはいったい、何故だろうか?

「大丈夫だったか?」

「はい、ユートさんから戴いた聖衣のお陰で何とかなりましたよ!」

「そいつが襲撃者?」

「……の、一人です」

「一人って……じゃあもう一人は何処に?」

 ユートは辺りを見回す、だけど居るのは黒髪の悪魔女性が唯一人のみだ。

「消えちゃいました」

「消えた……ああ! アレを使ったんだな」

「はい!」

 ムン! とばかりに笑顔で力瘤を作る感じにポージングする。

「アレって何?」

 いまいち話が見えないのかリアスが問う。

「光槍」

「光の槍? 天使や堕天使みたいな? 人間なのに、そんな事が可能なの?」

「堕天使もだけどさ、悪魔は人間を舐めすぎだよ」

「え?」

「光力を操る術は、天使の専売特許じゃないんだよ。幸い、僕は光子を収束させる術を識っていたんだ」

 それは、エピソードGに於ける獅子座のアイオリアが使う必殺技。

 光子(フォトン)を収束し爆裂(バースト)させる技である。

 それの応用で、光子を槍の形状へと換える技を教えてあった。

 光は仮令、聖属性を持たずとも悪魔にとって猛毒、受ければ苦しみ、いずれは果てる事となる。

「あ、悪魔より悪魔らしいシスターだわ!」

「は?」

 黒髪の悪魔女性は震えつつ口を挟む。

「ひ、光は悪魔にとっては猛毒。それを知りながら、その娘は何度も何度も何度も……主を刺した!」

「だって、一発だと斃れなかったから……」

 少し困った表情で言う、アーシアには酷い事をしたという自覚は無さそうだ。

 純粋で無邪気……

 それは決して、善性を示すものだとは限らない。

 悪で無いというだけで、其処には正義も善も無く……残酷なまでに無色透明な心が在るだけなのだから。


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あきゅろす。
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