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第37話:殺戮×蹂躙
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 レイナーレは、いよいよ目的が叶うのだと歓びに打ち震え、恍惚とした表情で己が身体を両腕で掻き抱くが如く……

「ああ、これで私は至高の堕天使となり、アザゼル様とシェムハザ様の愛を戴いて私達をバカにしてきた奴らを見返せるのよ!」

 クネクネと科を作りつつ天を仰ぐ。

 その瞬間ユートがキュッと捻る様に霊脈を動かし、力の流れを強引に変える。
「……え?」

 今、正にアーシアの神器(セイクリッド・ギア)である【聖母(トワイライト・ヒーリング)の微笑】を抜かんとしていたが、行き成り力が不安定になって磔にしている十字架の光が消えてしまった。

 先程まで恍惚としていたレイナーレは唖然となり、ミッテルトとカラワーナも訳が判らず呆然となる。

「な、何故? ミッテルト……何故、儀式が急に中断されたのよ!?」

「へ? いや、ウチに言われても……」

「カラワーナ?」

「わ、私にも何が何やら」

 その時、レイナーレ達の脳裏には殺した筈の少年の声がリフレインした。

『必ず助ける、だから決して希望を捨てるな!』

「ま、真逆……ね。殺した筈だもの」

 頭を振って浮かんだ言葉を振り払う。

レイナーレは確かに見た、投げた光の槍に心臓を抉られて、無様に血を噴き出して斃れ伏した人間を。

 原因を調査させようと口を開く直前、低い轟音と共に大きな振動が地下聖堂全体を襲って揺るがせた。

「な、何なの!?」

「じ、じ、じ、地震?」

「真逆、そんな予兆は」

 レイナーレもミッテルトもカラワーナも、次々と起こる不測の事態に情緒不安定になりつつある。

 はぐれ悪魔祓いの神父達も同様で、地下聖堂の中は俄に荒れていた。

「っ!? 何、この魔力」

 突然、感じられた強大なる魔力にレイナーレは戦慄して、先程は振り払った筈の言葉が甦る。

『必ず助ける、だから決して希望を捨てるな!』

「そ、そんな……まさか、生きていたというの?」

 この時レイナーレには、悪魔が関与する可能性など過る訳もない。

 あの人間の男だと何故か確信出来た。

「敵、なら屑るだけよね。行くわよ! ミッテルト、カラワーナ!」


 仲間と神父達を引き連れると、地下聖堂を出て教会の庭先に上がる。

 果たして、其処には思っていた通りの人物が居て、レイナーレは苦々しい表情になった。

「生きていたとはね」

「生きているさ。攻撃なんて喰らってないからね」

 ニトクリスの鏡により、鏡に写った幻覚を刺したに過ぎないが、レイナーレに判る訳もない。

「さて、はぐれ悪魔祓いの神父諸君に朗報だ」

 ユートが両腕を開いて、まるで演説するかの如く語り始める。

 その行動に戸惑いを隠せない数十人の神父達。

「僕の目的はアーシア・アルジェントの奪還。故に、君達を殺す事は二の次でしかない。今すぐ此処から立ち去るなら、生命だけは助けてやるから何処えなりと失せるが良い。但し、一度でも切り結ぶというなら、その時こそは……」

 温厚な目が鋭く細まると眼光が神父達を射抜く。

「容赦はしないっ!」

 それは脅迫でも恫喝でもない……そう、只の宣言。

 殊更、声を荒げる必要など無いし、殺気を放つ意味も皆無である。

 ユートにとって神父達はその程度で充分な相手でしかない、だからこそ殺気を放ってすらいない。

 だけど折角の厚意だというのに……

「逃げない……か。愚かと断じはすまい。只、哀れではあるけどね。相手との差を計れない様では、生き残れはしないのに」

 【はぐれ悪魔祓い】である神父達は、誰一人として逃げなかった。

 それはレイナーレに殉ずるとかの忠誠心ではなく、偏に人数で勝るが故の慢心でしかないのだ。

 ユートがパチン! と指を鳴らすと、周囲が幾何学模様に塗り替えられた。

「結界?」

「そうだよ、堕天使。この結界はCockroach Prisonと呼ぶ……転移での出入りは不可能、出るには術者である僕を殺すしかない。普通に入る事は自由だけどね」

 直訳すればゴキブリ刑務所という嫌な名前、つまりゴキブリほいほいである。

 レイナーレ達は表情を歪めてしまう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃リアス達はユートを追うべく走っていた。

「部長、転移した方が良くないですか?」

「そうね、教会に直接転移は少し怖いけど、これでは追い付けないわ」

 木場からの提案にリアスも肯定する。

「やめた方が懸命ですよ、リアス・グレモリー」

「どういう意味?」

「お兄様が結界を展開しました。Cockroach Prisonという名前で普通に入る分には問題はありませんが、出る事は出来ない作りになってます。転移は出入り共に不可能となっています」

 その考えを否定したのは那古人であった。

「はぁ? こっくろーち・ぷりずん?」

「ゴキブリ刑務所ですの? 余り好きになれない名前ですわね」

「……あんなの滅べば良いです」

 リアスが顔を歪め、朱乃も笑顔が凍り、小猫に至っては嫌悪感を露わにする。

 やはり黒光りするGは、何処の世であっても女性の敵である様だ。

「まあ、ゴキブリほいほいと同じ事ですね。あれは、ゴキブリが入口から入る事は出来ても、出る事は不可能ですから」

 それが故に、名前が【Cockroach Prison】なのだ。

 本来の使い方は展開をしておいて敵を誘き寄せて、閉じ込めた後に爆縮させる事により、一網打尽に始末する術である。

 ユートが初めてこの術を使ったのは、レコン・キスタを相手にニューカッスル城での事。

 その時はニューカッスル城に攻めてきた千人弱が、一瞬にしてこの世から消えたものである。

 今回はアーシアが居るし術者のユートも結界内。

 出られないのはユートも同じで、単に逃がさない為に……そう、正に閉じ込める目的で張ったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これから始まるのは闘いなんて上等なモノでなく、単なる殺戮でしかない。
さあ、掛かって来い!」

 その言葉を合図に呆けていたレイナーレが気付き、命令を下す。

「と、兎に角……奴を殺しなさい!」

 上役のレイナーレの命令を受け、眼光で金縛りに遭っていた神父達が、光剣や光銃を手にユートへと襲い掛かる。

 ハラハラと天より降ってくる白いナニか。

「何? 氷の結晶?」

「氷の結晶が直接、降ってくるなんて?」

 レイナーレとミッテルトが驚く。

「東シベリアでは、余りの極寒に水蒸気が過冷却されてしまい、氷の結晶が直接降ってくるそうだ」

 敵が迫る中、呑気に解説をしているユート。

「それは光を反射して美しい反面、人の生命を奪う。人々はその現象に畏怖を籠めてこう呼ぶ……」

 言い放つと拳を構えて、神父へとブローを放つ。

「極小氷晶(ダイヤモンドダスト)ッッ!」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ユートの拳から凍気が放たれて、神父を一瞬の内に凍結させる。

 一人だけではなく、傍に居た数人を巻き込んで……

 絶対零度と云わない迄も窮めてそれに近しい極低温の拳の威力で、神父の数人が血液まで凍結された。

 ちょっと衝撃を加えれば粉々に砕け散るだろう。

 神父達の足が止まる。

「聖剣抜刀(エクスカリバー)!」

 その隙を突き、手刀を揮うと神父をやはり数人ばかり斬り裂いた。

「ヒ、ヒィッ!」

 息を呑み、逃げようとする者が現れるが、結界に阻まれて出られない。

「言った筈だよ? 一度でも切り結ぶならその時こそは……容赦はしないと」

「廬山昇龍覇っ!」

「ぶべらっ!」

 逃げようとした神父に、猛烈なアッパーを放つ。

 顎は砕け散り、首の骨が折れ、胴体と首を繋ぐ皮が破れて首のみが吹き飛び、胴体は勢いよく血を噴き出して倒れる。

 相手は神父とはいえど、鍛え上げて小宇宙で防御が出来る神の闘士ではない。

 廬山の大幕布を逆流させる技など喰らえば、こうなるのは必定。

 ユートは噴水の如く溢れ出る返り血を、ベッタリと浴びて真っ赤になった。

 神のシステムで悪魔を滅する事が出来るとはいえ、所詮は只人に過ぎない。

「鳳翼天翔!」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 聖衣を纏わずとも簡単に蹴散らせる。

「星屑革命(スターダスト・レボリューション)!」

「あぎゃぁぁぁっ!」

「ぷぎゃあっ!?」

「へぶし!」

「あじゃぱーっ!」

「ぎゃびりーん!」

 風と炎で敵を消し飛ばす鳳翼天翔。

 星屑の如き煌めく小宇宙が敵を襲う、星屑革命(スターダスト・レボリューション)。

 惜し気もなく使う技は全てが必殺。

 喰らった神父達は漏れ無くぐちゃぐちゃになって、全員が死んで逝った。

 流石に、此処まで殺られれば自分達が如何に無謀な事をしていたか理解して、皆が皆青褪める。

 だが、ユートは決して止まらない。

 選択肢は与えた。

 後はどれ程に後悔しようが道は二つに一つ。

 ユートを殺すか、ユートに殺されるかだけだ。

「消えろ、星明識廷(スターライトエクスティンクション)!」

「ヒィッ! 消える、消えてしまうーっ!」

 光に呑まれて冥府へと消えていく神父。

「威風激穿(グレートホーン)ッ!」

 全速力の新幹線と正面衝突した方がマシと思える、そんな高威力の衝撃が神父達を粉々に吹き飛ばす。

「な、な、な、何なの……何なのよアンタはぁっ!」

 数十人は居た筈の神父達が全滅して、レイナーレは青褪め苛立ち紛れに叫ぶ。


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