第26話:アーシア×アルジェント
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ユートは風に舞うヴェールをジャンプ一番、掴み取ると金髪碧眼のシスターへと手渡してやる。
「ほら、ヴェール」
「わあ、ありがとうございます!」
シスターは両手を胸元で組みながら邪気の無い瞳をキラキラ輝かせ、ヴェールを受け取って頭を下げた。
ユートは礼儀が正しく、好感の持てる娘だなと思いつつシスターを見やる。
首から提げたロザリオ。
服装は如何にも『私、修道女です』と言わんばかりの修道服だ。
下手に彷徨(うろつ)くとコスプレだと思われ、変な連中に絡まれかねない。
「そのバッグ……ひょっとして旅行者か何か?」
「あ、いえ。実はですね、今日付けでこの町の教会に赴任する事になりまして。貴方もこの町の方ですか? 宜しくお願いします」
「そうなんだ。宜しくね。あ、僕は緒方優斗。君の名前は?」
「はい、アーシア・アルジェントと云います」
「え?」
「どうかしましたか?」
「ん、何でも無いよ」
シスターの名前を聴いて驚いた。
【純白の天魔王】が告げた主要人物で、その最後の一人がアーシア・アルジェントだったからだ。
「この町に来てから困っていたんです。その、私って日本語を上手く喋れないので……道に迷っていたんですけど、道行く皆さん言葉が通じなくて」
「まあ、そうだろうね」
因みにユートはアーシアの母国語である、イタリア語で話している。
何度か転生し、日本だけでなく海外にも出たりしていたし、前回の再転生先など英国だった事もあって、語学には堪能であった。
英語、仏語、伊語、独語に中国語、ギリシア語に、ラテン語、ロシア語などを諳じる事も出来る。
特に、魔導書を読む為には最低限、英語とギリシア語とラテン語は必須だ。
その関係上、北欧の言語も話せる。
そんな訳でアーシアは、外国で心細かったが母国語を話すユートに安心感を得ていた。
「僕もこの町には来たばかりだけど、地理を確りする為に散歩を欠かしてない。だから教会の場所なら知ってるし、案内しようか?」
「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございますぅ。これもきっと主のお導きですね!」
感激に咽び泣くアーシアだが、きっとよっぽど困っていたのであろう。
「然し……」
見れば見る程、シスター全開な姿は周囲から奇異な眼で視られている。
「よし、アーシア!」
「は、はい?」
「時間はある?」
「少しなら」
もうすぐ空が暗くなる、とはいえ多少の時間ならばあるらしい。
どの道、迷子だったのだし今更なのかも知れない。
「んじゃ、少しデートでもしてみようか?」
「は? え? デ、デートですかぁ?」
意味は通じたらしくて、頬を朱に染めながらアタフタし始める。
ユートはアーシアの手を引いて、雑踏の中に溶け込み目的地へと向かった。
「服屋さんですか?」
看板を見ながら、店の前で呟くアーシア。
「服屋さん……はどうかと思うけど、取り敢えず入ろうか?」
「あっ!」
再びアーシアのを引き、店内へと入っていった。
「いらっしゃいませ♪」
営業スマイルの女性店員が元気な声で、アーシアとユートを迎えてくれる。
ユートが店員にオーダーを出すと、店員はアーシアを連れて試着室へ向かう。
手持ちぶさたとなるが、やる事も別に無いユートはアーシアが出て来るのを、大人しく待った。
数分後、試着室から出て来たアーシアを迎える。
「あ、あの……これは……何と言いましょうか」
恥ずかしそうに、服の裾を引っ張りまる見えなお腹を隠そうとしていた。
ユートがオーダーしたのは可成りラフなモノ。
服は袖が無く、お腹の辺りが隠れないシャツ。
ズボンも、アーシアの白い大腿部が大胆に見えてしまうパンツタイプのジーンズだった。
普段、清楚で禁欲的な格好のアーシアには、刺激の強すぎるモノである。
「はうぅ、やっぱりこれは恥ずかしいですよぉ……」
日常的にほぼ全身が隠されてる修道着姿である為、こうまで真逆に肌を曝した事は無いのだろう。
「お客様、よくお似合いですよ?」
女性店員も御愛想か本心かスマイルで判らないが、ニコニコしながら言う。
「後は、そうだね。これを掛けてみようか」
ピンクフレームの眼鏡、飽く迄も、アクセサリーの一環で度は入っていない。
「修道着は教会に行く時にでも着替えればいいから、その侭、着て出ようか」
「え? でも……」
何が言いたいのかは理解している、買うお金が無いのだろう。
「大丈夫だよ。お姉さん、買うからお願いね」
「はい、ありがとうございます。お値段は……」
あれよあれよという間にレジで支払いまで済ませられてしまい、ユートにまた手を引かれて店を出て来てしまう。
修道着はバッグの中だ。
「あの、良かったんでしょうか? 服の代金を出して頂いても……」
「気にしなくて良いんだ。僕はアーシアがそれを着ている姿を見たかったから、服を買って上げた。んで、アーシアは僕の目を楽しませてくれた。等価交換ってヤツだよ」
「は、はぁ……」
自分の格好を改めて見ると赤くなりながら訊ねた。
「に、似合ってますか?」
「ん、バッチリ!」
ユートはアーシアの問いに対しウィンクしながら、サムズアップで応えたものだった。
その後は、アーシアも慣れたのか普通にデートを楽しんだ。
デート初体験のアーシアを相手に穿った場所は必要無い、それこそ一誠がしていた初心者御用達のコースで充分なのだ。
軽く食事をした後には、ゲーセンを冷やかした。
今まで本当に、禁欲的な生活をしてきたのか何もかもが珍しいという顔になりゲームを観ている。
一緒に遊べるモノを選びアーシアも、まだ拙いながら遊んでいた。
愉しい時間とは過ぎるのも早いもの、そろそろ完全に暗くなる。
ユートは、この町で唯一の裏びれた教会にアーシアを連れてやって来た。
地形の把握の為、散歩をしていた時に一度だけ訪れた古ぼけた教会は、灯りが点いている様に見えない。
「あ、此処です。良かったぁ!」
地図を確かめながらも、安堵の溜息を吐く。
「それじゃあ、僕も帰るとするよ」
「本当にありがとうございます。その、男の方とあんな風に遊んだのは初めてだったんです。とても楽しかったです、ユートさん」
「僕も目の保養が出来たし楽しかったよ」
「はうっ!」
アーシアはまた真っ赤になってしまう。
因みに現在は会った時に着ていた服に戻っており、買った服を今度はバッグに入れてある。
「処で、その……服を戴いてしまって良かったんでしょうか?」
「構わないよ。ってかね、持って帰ってどうしろと? 真逆、着ろとでも?」
「……似合うかも」
「うん、嬉しくないよ」
両頬に手を添えて、ポッと顔を朱に染め、妄想に耽るアーシア。
女物を似合うとか、全く以て嬉しくない話だ。
「じゃあ、またね」
「はい、またお会いしましょうね」
アーシアはユートの背中が見えなくなるまでの間、ずっと手を振っていた。
帰りの道すがら、ユートは数枚のカードを見つめながら思考する。
「(これで、なのはさんが言っていた主要人物の全員と会った訳か……)」
然しながら、彼女は全員が仲間だと言っていた筈。
教会の人間なら寧ろ悪魔は敵対関係。
「色々と複雑なんだな」
取り敢えずは、そう結論付ける。
「修道女……シスターか」
ユートをが手にすしているカードには、修道女が画かれていた。
クラスカード。
元ネタはプリズマ☆イリヤという、型月の有名作品のスピンオフ。
本来有る七枚に加えて、ユートがオリジナルで造ったのが数枚存在している。
「そろそろ、必要になってくるかな? これも……」
ユートは、クラスカードを仕舞うと我が家へと帰っていった。
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