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第17話:一誠×オカルト研究部
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 朝の登校時間、非常に厳しい視線に曝されながら、一誠は学校へと向かう。

 男女共に一誠を睨み付けているのだ。

 それは無理もあるまい、駒王学園に於ける【二大お姉様】と呼ばれ、超絶的な人気を誇る学園のアイドル──リアス・グレモリーと並んで登校しているのだ。

 訝しい視線や羨望の視線や嫉妬の視線など、それが一誠に集中しても仕方がないとも云える。

 一誠とて同じ光景を目にしたら、確実に嫉妬マスクを被って丑の刻参りをしていた処だ。

 一誠自身、リアスの鞄を持って従者の如く歩いている為に余計、視線が厳しいものとなった。

「貴方のクラスに緒方優斗という子が居るわよね?」

「へ? は、はい……」

「なら彼に案内して貰いなさい。放課後にまた会いましょう」

「……ハァ」

 玄関での別れ際、そんな事を言われて首を傾げる。

 教室に入ると判ってはいたが好奇の視線に曝され、少し居たたまれない。

 唯一、好奇のというよりは何処かホッとした表情を見せるのが、リアスの言っていたユートである。

 ゴツン!

「痛っ!?」

「どういう事だ!」

 行き成り後頭部を殴り付けられ、思わず振り返ったら松田が居り、隣には元浜も居た。

 そして松田が、滂沱の様に涙を流しながら叫ぶ。

 二人が言いたい事は理解しているが、こっちも何故にあんな事になったのか解らないのに恨み事を言われても困る。

「昨日まで俺達はモテない同盟の同志だった筈!」

「イッセー、俺と別れてから何があった?」

 怒鳴る松田とクールに訊いてくる元浜。

 一誠は嗤いながら言う。

「お前ら、生乳を見た事はあるか?」

 その言葉を受け、戦慄する松田と元浜。

 その後は、普通に授業を受けて放課後を待った。

 授業中に時折、ユートの方を見るが特にリアクションは無い。

 やはり放課後になるまでは動かない様だ。

 そして放課後……

「一誠、話は聴いている。行こうか」

 一誠は首肯するとユートの後を着いていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間は遡って、一限目の準備をしていたユート。

〔マスター、少し宜しいでしょうか?〕

〔どうした?〕

〔先程、塔城小猫から打診がありました。兵藤一誠を【オカルト研究部】の部室まで、連れて来て欲しいとの事です〕

〔判ったと伝えといて〕

〔イエス、マスター〕

 念話を切ると再び準備を行っていると、件の一誠が教室に入ってきた。

 一誠の名前を聞いて判ってはいたが、致命的なダメージを負っていた彼が無事なのか、少し心配をしていただけに胸を撫で下ろす。

 そして、然したる問題も起こらず放課後となった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユートに連れられ、一誠は【オカルト研究部】へとやって来る。

「オカルト研究部? 優斗も部員なのか?」

 元浜や松田の様な悪友とは違い、一誠はユートの事を名前で呼んでいた。

「部員と言えば部員だね。臨時的な人員だけど」

「ふーん」

 正直あのリアス・グレモリー先輩がオカルトに傾倒しているのが、何と無くだが首を傾げてしまう。

 ソファーには三人、座っている者が居た。

 一人は木場祐斗、金髪でイケメン王子なんて呼ばれるモテ男。

 もう一人が、小柄でロリ顔な一見すると小学生にも見えるマスコット的存在、塔城小猫。

 三人目はユートの妹である緒方那古人。

 小猫と那古人は、ユートが持たせたクッキーを一緒に頬張っている。

 二人共、実に美味しそうに食べていた。

「こんにちは、お土産は気に入ってくれた?」

「……はい」

 小猫は無表情ながら何処か嬉しそうに返事をする。

「聞いてるだろうけどね、彼は兵藤一誠」

「あ、どうも」

 ユートに紹介され、軽く頭を下げる小猫に一誠も頭を下げた。

 そして再び、クッキーを頬張り始める。

 因みにこのクッキーは、今朝方にユートが那古人へ持たせた物。

 小猫は羊羮をおやつにする予定だったが、折角なので急遽此方を食べている。

 本人も知らぬ内に、地味な原作崩壊(オリジン・ブレイク)をしていた。

 部屋の奥より流れる水音──それはシャワー音。

 どうやらこの部室、何故かシャワーが付いている。

 シャワーカーテンには、物凄いプロポーションの女性の陰影が浮かんでいた。

「部長、これを」

「ありがとう、朱乃」

 姫島朱乃が、リアス部長にバスタオルを渡し、それで肢体を拭いている様だ。

 妄想を掻き立てられて、一誠の表情がニヤける。

「……いやらしい顔」

「へ?」

 小猫はチラリと一誠を見つめるとボソッと呟く。

 一誠がふと小猫の方を見遣れば、彼女はクッキーを頬張っているだけだった。

 シャワーの音がやんで、カーテンが開くとそこには駒王学園の制服を着込んだリアスが立っている。

「ごめんなさいね。昨夜、イッセーのお家にお泊まりして、シャワーを浴びてなかったから今、汗を流していたのよ」

 先程の声の主、朱乃の姿を見て一誠は絶句した。

 最早、絶滅危惧種とも云われる黒髪ポニーテール。

 いつも笑顔を絶やさず、和風という感じが漂っている大和撫子。

 目が合って朱乃がニコリと笑顔を浮かべて言う。

「あらあら、初めまして。姫島朱乃と申しますわ」

「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、此方こそ、初めまして!」

 緊張しながら、多少上擦った声で挨拶を返す。

「これで全員揃ったわね。兵藤一誠君。いえ、敢えてこう呼ぶわ……イッセー」

「は、はい!」

「私達、オカルト研究部は貴方を歓迎するわ」

「え、ああ。はい」

「悪魔としてね」

「は、はい?」

 突然、脱力するような事を言われてガックリと力が抜けてしまい、間抜けた声で返してしまった。

 朱乃からお茶を淹れて貰うと、リアスから一誠へと説明が行われる。

 自分達が悪魔と呼ばれている種族である事。

 昨夜、一誠を襲った黒い翼の男が堕天使である事。

 その報告をユートから聴いていた事。

 悪魔と堕天使は昔から冥界──地獄の覇権を狙い、敵対している事。

 神の下僕たる天使。

 冥界の一族たる悪魔。

 神に叛き堕ちた堕天使。

 この三種族が、三竦みを形成して睨み合っているという事。

 一誠はこの話を部活動の一環だと考えており、流石に着いていけなくなる。

「いやいや、先輩。幾ら何でもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には、難易度の高いお話ですよ。え? オカルト研究部ってこういう事?」

「オカルト研究部は仮の姿よ。私の趣味。本当は私達は悪魔の集まりなの」

「んなバカな……」

 悪魔だの何だのと最早、お腹一杯であった。

「……天野夕麻」

「っ!?」

 名前を聴いて一誠は思い切り目を見開く。

「あの日、貴方は天野夕麻とデートしていたわね?」

「冗談なら、此処で終えて下さい。優斗から聞いたんですか? 正直、その話はこういう雰囲気でしたくはないんで……」

 怒気を滲ませながらも、一誠は静かに言う。

「一誠、僕は何も話していない。それと、何か勘違いしてないか?」

「何がだよっ!」

「僕は天野夕麻を知らないなんて、そんな事を言った覚えは無いぞ」

「なっ! だって、あの時は確かに……」

「あの時は一誠が行き成り『夕麻ちゃんは居たよな』とか、訳の解らない事を言うから聞き返しただけで、知らないとは一言も言ってないよ」

「……う」

 あの日の会話を思いだし一誠は閉口する。

「天野夕麻。アレは昨夜、貴方を襲った堕天使と同じ存在よ」

 天野夕麻には漆黒の翼が生えていたし、昨日の男にも同じ翼が確かに在った。

「そういえば昨日、イッセーを襲った堕天使は結局の処どうなったのかしら?」

「始末したけど、何か?」

「そ、そう……」

 リアスは堕天使との関係を考え複雑な表情になる。

「僕は悪魔じゃないから、堕天使を始末しても三竦みに罅は入らないよ」

 だけど、そんなリアスの苦悩など知らぬとばかりにユートは悠然と言い放つのであった。


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