第11話:下僕×御断り . 「いったいどういう意味かしら?」 少し冷や汗を流しつつもリアスは口を開く。 「四人共、昏き闇の波動を発している。人間では有り得ない波動だ」 ユートはそうハッキリと言った。 リアスは溜息を吐く。 此処まで言うからには、本当に感じているのだろうと観念したのだ。 「まったく、そんなものを感じ取るだなんて、本当に何者かしらね」 少し困った表情でユートの顔を見るが、嫌悪感は感じない。 恐らくは純粋に驚いているのであろう。 「グレモリー。ソロモンの七十二柱の悪魔に名を列ねているけど、その辺は関係があるのかな?」 グレモリーとはソロモン七十二柱の魔神の一柱で、地獄於いて二十六軍団を従える序列五十六番の強壮な公爵であり、過去、現在、未来の宝物に関して語ると云われている。 「人間の世界では、確かにそう云われてるわね。私は……いえ、私達は悪魔と呼ばれる種族よ」 そう言ってリアスは背中から黒い羽根を広げる。 「ふーん。然し、そうなると君ら悪魔の名前ってのは個体名じゃなく、家名っていう訳か……」 「ええ、そうよ」 正鵠を射た答えを聞き、リアスは満足気に頷いた。 リアス達……悪魔は本来だと七十二の貴族によって成っている。 否、正確には成っていた──というべきか。 遥かな昔、天界の神々と冥界の悪魔と天界を逐われたとされる堕天使により、三界の戦いがあった。 それによって、悪魔も数が随分と減ってしまう。 中には絶えた家名も在るかも知れない。 ユートはそもそも、未だにこの世界の成り立ちを知らないし、【ハイスクールD×D】は読んでいない。 故に、【純白の天魔王】から主要人物の名前だけは教えて貰っているのだが、先の事に関しては全く以て見えていなかった。 これはもう少し先に知る事になる訳だが、七十二柱は既に半壊している。 フェニックス家の三男坊によれば、先の戦争の影響で【七十二柱】と称されていた悪魔は本当に半数も残ってはいないらしい。 つまりユートの言っていたソロモン七十二柱の悪魔とは、この世界では冥界に於ける貴族の家名という事である。 【グレモリー】という、悪魔個体が存在するのではなくて、【グレモリー家】という家が……貴族が存在しているのだ。 「(さてメインキャラな上にサーゼクスの妹と行き成り邂逅か、幸先が良さそうな滑り出しだね)」 この数奇な出逢いに感謝をすると共に、仲良くしておいた方が何かと便利だと打算も含めて苦笑いする。 チラリと、小猫の隣に座ってクッキーを頬張っている那古人の方を視たなら、念話が返ってきた。 〔マスターがお気に召す侭にやりたい様になさるのが宜しいかと。お姉様でもそう仰有りますよ〕 その表情は薄く微笑みを浮かべており、ユートの全てを受け容れている。 ユートの持つ魔導書である【ナコト写本・ラテン語意訳】には、管制人格と呼べる存在が二人居た。 一人は那古人、本人だ。 那古人こそがラテン語意訳に生じた魔導書の精霊、然し元々ユートが獲た時にこの魔導書は、精霊が宿る処か魔力も碌に通ってはいなかった。 ユートが手にする事で、直接魔力を獲て序でにパスを通したのである。 後は周囲のマナを少しずつ吸収し、前回での活動の際に目醒めた。 前々回、ハルケギニアでの活動の時には終ぞ目醒めなかった為、代わりの存在を括る事で使用していた。 それが那古人の言っているお姉様である。 ユートが括ったのは嘗てハルケギニアでの魔法学院時代に、二年生に進級する為の儀式(イニシエーション)たる【春の使い魔召喚】で召喚した使い魔。 人型をしているが人間ではなく、一種の精神生命体であった事から、魔導書へと括り易かった。 今も括られており、単純な戦闘能力は那古人など及びも付かない。 多少、おつむが弱いという弱点も有ったりしたが、ユートと共に在る事によって少しは改善されている。 普段は凛々しい騎士タイプの女性であり、実力も高い彼女を那古人は結構慕っている。 また二人一組でバランスも良い。 前衛型の彼女と、後衛型の那古人は那古人がサポートをして、彼女が前に出て戦えるからだ。 因みにユートは万能型(オールマイティー)。 まあそれは兎も角とし、那古人も悪意は感じていない様らしい。 那古人は原典(はは)に似ていてご主人様に忠実で、ご主人様を全肯定する。 反面、原典(はは)よりも社交性が高い。 即ち、エセルドレーダより使い易いのだ。 悪意を感じない者には、那古人も決して無為に拒絶したりしない。 友人も普通に作る。 前回でも、那古人は京都出身の大和撫子風味な少女と友誼を結んでいた。 「(那古人の眼は確かだからな。なら大丈夫か)」 ユートは彼女らと動く事を視野に入れる。 「ねえ、貴方が何者なのかはもう訊かないわ。けど、貴方の力には興味あるのだけど……?」 「力?」 「ええ。私達、上級悪魔は【悪魔の駒】を使って下僕を創れるわ。それはチェスの駒の形で、その駒の特性を獲られるの」 そう言って、チェスの駒を取り出して見せる。 駒の形は兵士(ポーン)。 「ハドラー親衛騎団?」 「? 何かしらそれ?」 「いや、何でも無いよ」 「そう……」 ユートはチェスの駒で下僕を創ると言われ、頭に浮かべたのが神鍛鋼(オリハルコン)の駒から禁呪により生み出された【ハドラー親衛騎団】だ。 「神鍛鋼(オリハルコン)製じゃあなさそうだね」 「当たり前じゃないの……そんな稀少金属で造れる訳がないわ」 呆れた様に言われた。 確かに、七十二柱が一組ずつ持っていたと仮定し、それが一組で十五駒。 兵士(ポーン)が八駒。 騎士(ナイト)が二駒。 僧正(ビショップ)二駒。 城兵(ルーク)が二駒。 女王(クイーン)が一駒。 王(キング)は主人自身だから数えない。 72×15=1080 小さなチェスの駒とはいっても、1080個も造ったら可成りの量だ。 勿論、そんな数程度では済まないのだが…… 因みに云うと【悪魔の駒】の場合、城兵は戦車と書き僧正は僧侶と書く。 「で、現在の私の下僕は、小猫が戦車(ルーク)、祐斗が騎士(ナイト)、朱乃が女王(クイーン)なんだけど、その特性は戦車(ルーク)が馬鹿げたパワーと屈強なる防御力。騎士(ナイト)の特性がスピード」 「だとすると、女王(クイーン)は全ての特性を持っているって処かな?」 「正解よ」 まあ、既に答えを知っていて言っている訳だからとんだカンニングだ。 そもそも女王(クイーン)とはその移動能力が前後、左右に、斜めと全方向に進める事が可能となっている謂わば万能型。 チェスに於ける最強の駒と呼ばれる所以である。 グレイフィアがサーゼクスの【女王(クイーン)】というのは、ユートとしても納得していた。 「だけど、そんなパワーと防御力を持った小猫をして歯が立たなかった怪物を、貴方は意図も容易く斃したと聞くわ。しかも、目にも留まらぬ速さで動いていたとも言っていた」 小猫は確りと報告をしていたらしい。 「それだけの能力を持った人間が転入してきたのよ、下僕に欲しいと思ったとしてもおかしくないわ?」 「成程。要するに悪魔の駒で悪魔(げぼく)にならないか……と?」 「そうよ。まだ駒は残っているし、実は目を付けた子が1人居るのだけど、貴方達もどうかしら?」 ユートは少し苦笑して、首を横に振った。 「断るよ」 「何故? 悪魔になるのが嫌かしら? 悪魔に転生したら寿命は延びるし、能力は上がるし、力を獲て魔王様に認められたら爵位だって貰えるわ。そうなったら貴方も悪魔の駒を貰って、自分だけの下僕を獲られるのよ」 だがリアスの言う特典はユートの興味を惹かない、ユートの寿命は、使い魔を召喚して契約した際、刻まれたルーンの影響で彼女と同じだけの永いスパンを持っており、能力は駒の力を頼るまでもなく、下僕とか言われても似た様な仲間が既に大勢居るからだ。 爵位だってハルケギニアでは最終的に大公である。 つまりは、悪魔の駒で獲られるモノはもう持っていると……若しくは持っていたいう事だ。 ユートはそう説明した。 流石に、リアスも予想外だったらしく呆気に取られてしまったらしい。 それにサーゼクス達からのオファーも断ってるし、その妹の眷属になるなどと意味不明だ。 「そんな訳で、協力者として【オカルト研究部】には在籍して、困った時には力を貸すのも吝かではないけれど、悪魔の駒で下僕として降る心算は無いかな」 「そ、そう。残念だわ……でも力を貸して貰えるなら良いかしら?」 リアスは少し考えると、そう言った。 こうしてユートと那古人は【オカルト研究部】部員として登録される。 それから少し後、リアスが目を付けた少年のファースト・Deathから始まる少年の恋? の歴史…… その運命に導かれ、物語は進むのであった。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |