[通常モード] [URL送信]
第0話:ゲート
.
 麻帆良学園都市敷地内、その一番端っこの郊外。

 其処に顕れたるは門──ゲートと呼ぶしかない様な黒き孔であったと云う。

 二〇〇九年の八月。

 午前十一時五十分。

 異世界よりゲートが開いた事により、数万を越ゆる軍勢が麻帆良へと襲撃。

 丁度、その辺りを歩いていた民間人らしき少女達が兵士に捕まり、組み敷かれてしまう事件が発生した。

 少女の内、一人は大河内アキラと云い嘗てユートの教え子であり、特技は水泳で身長が高めな巨乳で顔も良いからだろう、組み敷く男の眼光はギラギラとした欲望に塗れている。

 それだけではない。

 アキラは友人とショッピングと洒落込んでいた為、傍には同じく組み敷かれて泣き叫ぶ少女が三人。

 和泉亜子と佐々木まき絵と明石裕奈が恐怖に染まった表情で、何とか逃れようとしてか腕や脚をバタつかせている。

 だが、鎧兜に身を包んだ男の体重は余りにも重く、女の細腕でどうにか出来る筈もなく……

 ビリィッ!

「嫌、イヤ、イヤや!」

 あっさりと着ていた夏服とブラジャーを破られて、白い肌となだらかな双丘を晒されてしまう。

「イヤァッ! ユート先生助けてぇぇぇぇ!」

「ネギ君、恐いよぉ!」

 恐慌状態の二人は最早、出鱈目に手足を振る暗いしか出来ていない。

 ニヤニヤした男共。

 組み敷いた男は下半身の一部を醜く膨れさせると、それを解放するべくズボンを脱ぎ散らかす。

 デロンと現れて屹立した分身を見てしまった亜子、『ヒッ!』と息を呑み込んで青褪める。

 亜子の折角の綺麗な顔も今や、涙で汚れて見る影もなかったものの、男共からすれば嗜虐心を擽られたらしく、口角を吊り上げながら抵抗の弱まった脚をM字に広げさせ、ホットパンツを無理矢理に下ろさせようと手を掛けた。

 同じく、佐々木まき絵も半裸状態で痛ましい痕を頬に付け既に気絶している。

 抵抗をし過ぎて殴られたのであろう。

 だが、ある理由から腕力も脚力も一般人を越えていたアキラのみ、未だに抵抗を続けていた。

 理解が及ばない言語で、周りの男共がアキラを組み敷く男を囃し立てる。

 大方──『女を相手に何をやってる、情けない』とでも言ってからかっているのだろう、その証拠に男の表情が変わり意固地になってアキラのジーパンを脱がそうと、一層力を入れた。

 それでも何とか抵抗しているものの、もう既に亜子もまき絵もいつ犯されてもおかしくない。

「(どうしたら……)」

 こんな腐れた連中だが、アキラが手にした力≠揮えば殺してしまうと考えれば、妄りには使いたくないのが心情なれど、だからといって親友が犯されるのを黙って見ていられない。

 二律背反だ。

 それに連中は更に奥へ、麻帆良学園都市を征服する勢いで進軍している。

 この侭では学園都市全体の危機だった。

 麻帆良学園都市に常駐する魔法先生や魔法生徒も、数十人か其処らしか居ないのだし、軍隊を持っている訳でもないからいずれ征服されて、女性は自分達と同じ扱いを受ける筈。

「ヤァァァァッ!」

 ダメだっ! 考えている時間はもう無い!

 今にも、亜子やまき絵の大切な場所が汚されるという最中、アキラは腕を掴まれていなければ頭を抱えたくなった。

「雷光放電(ライトニングプラズマ)!」

 聞き覚えのある声が響くと共に、刹那の刻に幾条もの閃光が奔って周囲や自分達を組み敷く兵士共をふき飛ばしてしまった。

「あ、ユート……君……」

 自由になって巨乳を腕で隠しつつ起き上がって見たのは、全裸にされて泣いて
いる亜子を優しく抱き起こしながらマントで裸体を隠す青年の姿。

 次いでまき絵も同じく。

「呼べ」

「……え?」

 ユートが声を掛ける。

「自らを護る鎧を、アキラの運命の形を……喚べ……人魚姫(マーメイド)の鱗衣(スケイル)を!」

 既にユートはアキラの事を知っていた。

 とある理由から海皇軍と去年に同盟を組み、海魔女(セイレーン)のソレントに紹介されていたからだ。

 アキラは頷くと、右腕を天高く掲げて自らの身を守る鎧を喚ぶ。

「来て、私の鱗衣」

 パールピンクに煌めくは人魚姫を象るオブジェで、それは瞬時に分解が為されてアキラの身に宿る。

「私は海皇ポセイドン様の海闘士(マリーナ)、人魚姫(マーメイド)のアキラ」

 この日、大河内アキラはユートに対する想いを完全に自覚して、海闘士である事をも受け容れた。

「さあ、始めようか。異界より無様な征服行為をしに来た蛮賊に、神の闘士たる者の力を見せ付ける!」

「は、はい!」

 その後は一方的な蹂躙劇でしかなく、アキラは友人を護りつつ闘っていたが、ユートは双子座の黄金聖衣を身に着け、きらびやかに太陽光を反射させながら、必殺技を打ち込んでいく。

 汚ならしいモンスターにしか見えないゴブリンやらオークやら、それらは情け容赦無く消し飛ばされて、人間の騎士や兵士に関しては多少の後遺症は残りそうだが、基本的には生かして意識を狩り採っていく。

 魔法先生や魔法生徒達がやって来る頃、もう戦闘は終了してしまっていた。

 高畑でも居ればマシだったろうが、残念ながら彼は魔法世界で大忙しの日々。

 夏休み故に出張任務を入れてしまっていた。

 故に、何時もの千倍とも云える軍勢に中々動けず、後手後手となる。

「裕奈? 裕奈が居ない」

「何? 裕奈って確か……明石裕奈か?」

「う、うん」

 四人で来ていたのだが、いつの間にか明石裕奈が消えていた。

「まさか、拉致られた?」

 ユートはその不手際に、舌打ちしたくなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 麻帆良女子中学の奥……学園長室には近衛近右衛門学園長と、ユートにアキラにエヴァンジェリンを含めて娘が行方不明な明石教授を筆頭に、数名の魔法先生が詰め込まれている。

「あの時空間転移門に関しては、僕が全権を以て管理をする。魔法使いには一切の権限は無い」

「ユ、ユート君や、それはちと理不尽ではないかの」

「何もしなかった連中が、何の権限を得られると? それを罷り通すならやはりアンタらもMMと変わらない害虫という事か」

「む、う……むぅ……」

 MM──メガロ・メセンブリア連合国は既に無く、その跡地と元々の土地などを統合し、ナギ・スプリングフィールドを王配としたアリカが新生ウェスペルタティア王国を再興した。

 害虫とは元老院議員で、その九割九分九厘がユートにとってはアリカを殺害せんとした仇であり、基本的にリカードみたいな話し合いが可能な者以外、纏めて始末をしている。

 そんな害虫と一緒であると言われ、近右衛門は鼻白むしかなかった。

 ユートのMM嫌いはもう芸術の域? だろう。

 尚、アリカは過去へと跳んだ事を利用して救出し、暫くは日本の【OGATA】本部に軟禁状態にして、MM崩壊後に生存を発表してウェスペルタティア王国の女王の座に就けた。

 また、ユートの中の幼児ユートの気を晴らすべく、タップリとアリカに甘えておいたが、これはユートがそもそもそうしたかっただけである。

「彼方側には僕とおうるで行く。裕奈を捜さないといけないし、帝国だったか? 粛清しないとな」

 許すという選択肢は有り得ないというスタンスで、少なくとも皇帝と皇太子と元老院だか枢樒院だか知らないが、政治機関の連中の死刑は確定していた。

 ユート一人でも帝国とやらを潰せるのは、攻めてきた連中の脆弱さから判る。

 ならば後は帝国を潰してからの利権、ユートはそれを手に入れて彼方側に対する橋頭堡とする心算だ。

「待って欲しい」

「明石教授?」

「娘の捜索の為、私も連れて行っては貰えないか?」

 普段はダメな父親をやっているが、愛娘の──妻の遺した一粒胤を喪いたくはなかったが故か、いつもとは違う強硬な姿勢。

「駄目だよ」

「何故だい!? 娘を想う父の心を理解してくれ!」

「貴方の想い、それは成程……確かに本物だろうが、行き先でやるのは戦争だ。貴方は人死にが沢山出るであろう場で、敵を無惨にも殺せると云うのか?」

「うっ! それは……」

 そう、戦争。

 ユートが帝国の騎士達から訊問をした際、国の名前や皇帝や第一皇子や第二皇子の名前、更にはちょっとした憧れで第三皇女の名前などを聞き出し、ゲートの繋がる先がアルヌスの丘という聖地であり、近場に在る町や村などの情報も聞き出してある。

 恐らく、一番最初の戦闘はアルヌスの丘だろう。

 因みに、捕虜は虐待こそしていないがいっしょくたに纏めて──人間の男と人間の女とゴブリンなどには分けている──餌を鶏に与えるみたいな形で押し込めており、一応は便所とシャワーくらいは有るくらい。

 数人の騎士に待遇改善を餌に訊問をしたのだ。

 女兵士も少ないながら居たから、彼女らにも同じく待遇改善を餌に訊問する。

 但し、可成り悪辣な形だったのは間違いない。

 家無き子を連れてきて、訊問に従う者は出して従えない、或いは情報を持たない者は家無き子と部屋を共にして貰う……と。

 ギラギラと欲望の眼光が鋭く、自分達の胸やら腰やらをじろじろと睨む連中、しかも既に下半身がスタンバっており、醜いの何の。

 一秒でも同じ部屋になったら果たしてどうなるか? 言わずとも知れた結果にしかなるまい。

 情報を与えられていた者はすぐにも挙手、情報を持たない下層の女は家無き子の相手をさせられた。

 連中を放り込んだ瞬間、黄色い絶叫が上がったのだがユートは知らんぷり。

 情報を持つ女兵士にも、誤りや偽情報が見付かった場合、オークの部屋に叩き込むと言ったら涙目になりながら素直に情報を吐く。

「戦争が中断し、ある程度の安全を確保したら一旦は此方に戻る。その時に連れて行くのは構わない」

「ほ、本当かい!?」

「ただ、連れ去ったならば生命は無事だと思うけど、貞操は無事に済まないのだと覚悟して欲しい。今から行っても同じ事だから」

「わ、解っている……心算ではあるよ」

 何しろ、あんな行き当たりばったりにアキラ達を犯そうとした連中だし、蛮賊なのはもう確定的なのだ。

 そんな場所に拉致られたのだから、下手すれば孕まされてもおかしくない。

 ユートは最早、帝国に対して何の躊躇いも持たず、滅亡させても不思議ではないくらい瞳を怒らせた。

「まずは話し合うとかしないのかね?」

 ガンドルフィーニが常識的な事を言うが……

「話し合う以前に宣戦布告すら無く仕掛けてきたのは帝国だ、ならば最早戦端は開かれている」

「そうかも知れないが……だが然し、ううむ」

「私でも連れては行けませんか?」

「最初の一手は打ち合いにもならない。刀子さんでも居るだけにしかならない」

「そう……ですか」

 残念そうに俯く。

 近衛木乃香の婚約者という触れ込みとなるユート、葛葉刀子からすれば正しく重要人物となる。

 何故なら葛葉刀子とは、神鳴流を修めた剣士。

 近衛木乃香は『お嬢様』と呼ぶべき尊き人物だし、その配偶者たるや木乃香と同等の扱いとなる。

 何より、ユートは一般人な彼氏との仲を押し進めて貰った恩もある相手だし、しかもユートの権能である【美しきあの頃へ(リワインド・バインド)】の実験を受け、肉体年齢が十歳近く戻った事を大いに感謝していたり。

 心配するのは当然だ。

 刀子はユートを『優斗さん』と呼び、ユートの方も彼女を『刀子さん』と呼ぶ程度には打ち解けている。

「さて、話し合いは終わったから僕は行くよ」

「む、待つんじゃ! まだ話し合いは終わっとらん」

「終わりだよ。最早、何者も僕は止められない。それに出遅れれば再び帝国が攻めてくるだろう。そうなれば今度こそ一般人に被害が出るけど?」

「うっ!」

 息を呑む近衛近右衛門。

 一般人への被害など見過ごせる筈もない。

 近衛近右衛門に出来たのはユートを見送る事だけ、それは魔法先生達にしても同様であったという。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゲート、単純にそう呼ばれるそれは一種の空間の歪みであり、虚無魔法である【世界扉(ワールド・ドア)】に近いモノだ。

 ユートがそれをおうると共に潜る。

 着物姿なおうるなだけに戦争とは無縁に見えるが、その実態はそんじょそこらの神より強い。

 今回、おうるが守護する日本のゲートの傍にゲートを創るという行為に怒り、ユートの支援を約束してくれたのである。

「ふん、やっぱり攻めてきていたか」

「ですね、マスター」

 まだ可成り遠いものの、帝国の軍勢が十万近く進軍をして来ていた。

「僕らは奴らと違って文明人だからね、警告と宣戦布告くらいはしてやるか」

 風の力に干渉をすると、それをスピーカー代わりに声の拡大をする。

〔ああ、此方は麻帆良軍。警告する、これ以上の進軍は我が方への宣戦布告と見なして攻撃行動に移る! それが嫌なら引き返せ!〕

 二回繰り返したが寧ろ、進軍は速くなっていた。

「愚かな」

「所詮は文明の低い蛮賊、マスターの御心は理解出来ませんとも」

 止まれば生命は助かったものを、更なる進軍により全てをふいにしたのだ。

「ならば、銀河の星々が砕け散る様を見るが良い!」

 両腕を十字に組んで天高く掲げると、小宇宙をスパークさせていく。

 ユートのこれは、物質と反物質の衝突による対消滅現象を応用したモノ。

 対消滅現象は物質の内包するエネルギーを余すこと無く解放する為、凄まじいばかりの爆発力を生み出す事が可能となる。

 それは最早、核爆発すら呑み込む爆発力であった。

「さあ滅べ、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)!」

 チカッ!

 ナニかが軍勢のど真ん中で光り……

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!

 核爆発すら霞む大爆発が軍勢を、大地すらをも呑み込んでしまった。

 僅か数秒間で帝国軍と呼ばれる一軍が、この世界より消滅した瞬間である。

 死骸すら遺す事を許さぬ暴力によって、ポッカリと地面に穴を穿っていた。

 富士五湖の全てを足しても尚足りない大きさの穴、収束していたけどやっぱり制御が難しい。

「折角の穴だし、水で埋めて湖にでもするかな?」

「それなら、私が湖の主を放ちましょう。守護神的な意味で……ですが」

「良いな、それ」

 お互いに良い笑顔を浮かべると、まずユートが水を集めて穴へと注ぐ。

 勿論、天然な湖と同じになる様に手を加えている。

 また、魚も日本のモノを放流しておいたからいずれは釣りが楽しめそうだ。

 おうるは龍王機と似ている機体を創り上げ、湖の最も深い位置に穴を空けて、其処へ潜ませておく。

 ユートは更に湖の周辺へ精霊術の奥義を用いると、巨大な森で覆ってしまう。

 【迷いの森】とする為、【双子座之迷宮】を仕掛けておいたから、誰かしらが森に入れば二度とは出られない凶悪な迷宮となった。

 人工的なものであるが、正に天然の要害と付近住民は考えるだろう。

 十万以上もの人間を殺したというのに、ユートが行った事と云えば鎮魂でも何でも無い自分の都合で湖を造る事。

 この世界の冥王ハーディに確保される前に奪って、死んだ連中の魂は全て強制的に冥界の地獄へ堕とす。

 これより先、その死者の魂は転生する事も叶わず、永劫に苦しむだろう。

 ユートは普段は優しく、味方には取り分け慈愛を以て接するが、敵に対しては対照的に冷酷で残忍で残虐な行いを平然と出来る。

 ユートは和魂を強く持っているが優雅は荒魂を強く持つ、然しながらユートが荒魂の影響を受けていない訳ではなく、寧ろ敵対者に対して荒魂の強い影響を受けるのか、苛烈な対応をしているのだった。

「さてと、アルヌスの丘を中心に国家を創るかな」

 戦争とも呼べない一方的な殺戮後、僅かに一週間か其処らでゲートを中央区とした巨大な街が誕生しているが、この世界の住人達はその事実を未だ知らない。


.

[次へ#]

1/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!