第2話:魔法の考察 . 「か、かんなぎ……っ? って、確か巫女の男版?」 巫顕(かんなぎ)と書く。 『その通りだ』 「お前は一体、何者だ?」 恐怖が在った。 畏怖が在った。 然れど同時に畏敬の念が在った。 恐るべき重圧が圧し掛かるが、それと同じくらいの安堵も在る。ユートにとってそれは、余りにも不可思議な気分だった。 『私は我が子によれば……創星神の一柱だそうだ』 「随分と他人事みたいに言うんだな?」 『私には元より名など無いしな。お前達が私を認知した際に呼び名が無ければ困るからと、お前達自身が付けているに過ぎぬ』 原初の神に名前など無意味だったのだろう、本来は名前は存在していない。 今の人型も、所詮ユートに併せてその姿を採っているだけだ。 謂わば、姿も性別も名前すらも存在していない漠然とした概念。 概念体だった。 その概念に名を与えて、括る事で力と成す。それが魔法と呼ばれる力。 然しだ、人間の器ではその一部に名を与えて括っても制御出来ず、発動すらしないか或いは暴走させて世界を滅ぼすか。 故に、彼の概念をとある地では【魔王】と呼んだ。 滅びを齎らす魔王の中の魔王だと。 彼の概念が自発的に世界を滅ぼした事など、それこそ皆無だと云うのに。 『我は母、我は光、我は闇……全てを俯瞰し、全てに干渉する存在』 「俺がそんな貴女の巫顕だと?」 『因果とは斯くも面白いものだ。時々居るのだよ……何の修業も無しに汝らが神と呼ぶ存在と、親和性の高い人間が』 「それが……俺?」 信じられないと思った、だがあれ程の重圧を持った存在だ、わざわざユートを騙す理由も無い。 『汝にこれをやろう』 受け取ったのは剣、漆黒にして金色たる虚無の刃を持つ剣だった。 「これ……は……っ!? ラグ……っ」 あまりの重圧に、意識を吹き飛ばされてしまう。 まるで掻き消えるかの如く消えてしまった。 『嘗て、私と高い親和性を持った娘や、我が愛し子の様な活躍……魅せて貰うぞユートよ』 口角を吊り上げて笑みを浮かべる少女は、死神の持つ鎌の様なモノを手にしてその空間から消える。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「っ!?」 朝の日射しに目を焼かれソッと開けてみると、自分の姿はやっぱり赤ん坊。 ふと見れば、隣には今生の母親ユリアナが居る。 未だにまともに動かせない身体では、自由に動く事も侭ならない。 思考はクリアだからか、考える事だけは出来る。 (あの夢、途中までは間違いなく前世の夢。だけど途中から、誰かの干渉を受けたんだ) “誰かの”なんて言うまでも無い。 【創星神】 概念体を生み出し、世界に干渉出来る法則を創り出した法則そのもの。 そんな存在が何故自分に干渉を? (この問いには意味が無いか。何故を考えるより、どうするかだよな) 尤も首すら坐らない現在では、ユートにどうしようも無いのが実情。 (今はただ、この温もりに包まれていれば良いって事かな?) それが今のユートの出した結論であり、何も出来ない自分の妥協点だろう。 刻は瞬く間に流れ、赤ん坊だったユートも五歳児と成っていた。そろそろ魔法を習う頃だと思われる。 実際に、ハルケギニアの魔法を習う事になるのは確実だと思ってたユートは、三歳になった頃に父親に頼んで、邸の書庫を解放して貰っていた。 この世界の魔法をライトノベルとは違う側面から、識っておきたかったのだ。 まあ書庫とは言っても、オルニエール家は興されたばかりの新興の家、父親のサリュートが買い集めた本やら、城に放って置かれていた物を整理した本くらいしか無かったが。 数は兎に角、質が良ければと頑張って見てみたら、案外と良質の内容だったらしく、判り易くて実の在る時間を過ごせたものだ。 その中に、原作では言及されていない様な事も多々載っていたのは驚いた。 基本、魔法とはイメージと集中力が肝要。 次に制御、内なる魔力を集中してそれをイメージにより形作る。 魔法として“構成”された“術式”を、制御する事によって動かす。 イメージと集中で、魔力で術式を練って魔法という形に構成し、制御して世界に影響を及ぼすのがハルケギニア式の魔法。 ユートは本を読んだ際、そんな感じで理解した。 「同じ様なタイプの魔法なら、スレイヤーズの魔法も構築出来そうだな」 例えば、簡単な処で火炎球(ファイアボール)など、同じ名前の魔法がハルケギニアにも在った筈だ。 ドットの火系統の魔法として、裂火陣(フレア・ビット)を構築する事も出来るかも知れない。 「問題は僕の系統かな?」 この頃、三歳のユートでは属性を計りようが無く、属性の事を幾ら考えたとしても、正に獲らぬ狸の皮算用でしかない。 因みに前世の優斗は一人称が【俺】だったが、自分を差して【俺】と言うと、母のユリアナが悲しそうにする為、今は一人称を【僕】に変えている。 矯正を強制されたのだ。 トリステイン魔法学院に通う頃には、一人称が【私】に変化しそうだが、流石に僕で勘弁して欲しい。 それは兎も角、系統魔法に関して後で考えるとし、今はコモン・マジックについての考察を始めた。 コモン・マジックとは謂わば、魔力でPK──プレイヤーキラーに非ず──を行うモノだと、ユートは想定している。 理由はアニメでキュルケが使っていたのが、明らかに全てが念力の変形だったからだ。 「ライト、念力、ロック、アンロック、サモン・サーヴァント、コントラクト・サーヴァント、ディテクト・マジック、リードランゲージ……か」 幾つかのコモン・マジックを口に出し、その効果を思い浮かべてみる。 ライト(灯り)……光を灯す魔法。 フォース(念力)……物体を動かす魔法。 ロック(施錠)……鍵を掛ける魔法。 アンロック(解錠)……鍵を開ける魔法。 サモン・サーヴァント(召喚)……使い魔の召喚を行う魔法。 コントラクト・サーヴァント(契約)……サモン・サーヴァントで呼び出した使い魔(ラインの繋がった生物)と、契約す(パスを繋げ)る魔法。 ディテクト・マジック(探知)……あらゆるモノを調べる魔法。 リードランゲージ(翻訳)……書物の意味を理解出来る魔法。 便利ではあるし、幾つかはスレイヤーズ系にも似た魔法が存在していた。 「後は魔法に関する理論の補強か」 この世界の魔法に対し、正しい知識と理論を構築しなければ、修得に時間が掛かってしまうと考える。 次は虚無に関して…… さて、我らが始祖(笑)たるブリミル・ヴァルトリ殿は始祖の○○○にこう記していた筈…… 四系統魔法とは小さな粒に干渉する魔法、虚無魔法とは四系統魔法より更に小さな粒に干渉する魔法と、原作知識では確かにその様に描写が成されていた。 原作者が何を意図していたかは、本人にでも聞かなければ不明だが、小さな粒を精霊の力とするなら恐らくは原子だろう。 一応は分子の可能性もある訳だが、より細かな原子の方が精霊力として相応しいし、何より分子より小さい粒を原子とすれば、虚無の魔法に矛盾が出る。 虚無魔法は空間を支配し記憶にすら干渉出来た。 転移(テレポート) 世界扉(ワールドドア) 爆発(エクスプロージョン) 忘却(オブリヴィオン) 解除(ディスペル) 記憶(リコード) 幻影(イリュージョン) 加速(アクセル) パッと思い出してみただけの虚無魔法の一覧だが、どれもこれもが確かに強力過ぎる魔法だ。 そしてエクスプロージョン、ワールドドア、テレポード、ディスペル、リコードは空間に作用する魔法。 忘却(オブリヴィオン)とイリュージョンは記憶に作用する魔法だ。 アクセルは瞬動みたいなモノだとすれば、空間に作用するのか、記憶以外の身体にも作用する魔法が存在するのかのどちらか。 いずれにしても、原子では干渉出来ない。 空間や記憶に作用するのなら、最低でもダークマタークラスの素粒子か、或いは量子レベルだろう。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |