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第56話:真夏の冬の春麗ら【前編】
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 今現在の季節は真夏。

 八月の真っ只中だ。

 蝉の鳴き声が煩い時期、ひぐらしの鳴く頃には果たしてどうだったか?

 まあ、六月〜七月に掛けて鳴き始めてから夏の終わりまで居座る蝉だし。

 そんな真夏日の真っ昼間の草薙家では……

「さ、寒い!」

 草薙静花が布団と毛布に包まれ、何重にも厚着をした上でヒーターをガンガン付けていた。

「まったく、何で真夏なのに猛吹雪になってんの?」

 現在、冷夏というのさえ烏滸がましいなんてレベルで吹雪いており、気温なぞ零下五〇度を記録した。

 何処の業務用冷凍庫内かと言いたくなる寒さだ。

「お兄ちゃん!」

「どうした、静花?」

「どうしたじゃないわよ、どうせこれも神様が関わってるんでしょ? さっさと解決してよ!」

「無茶を言うな! 原因も定かじゃ無いんだぞ?」

「役に立たない神殺しね」

 悪態を吐く静花、どうも余りの寒さにイライラしているらしい。

「んな事言われてもなぁ」

 護堂だって何とか出来るならしたい処ではあるが、何しろ何故にこんな現象が起きているのか、それが判らない事にはカンピオーネも動き様が無かった。

 静花がおもむろにスマホを取り出して操作する。

 電話を掛けるらしい。

 すぐに相手が出た。

「もしもし、先輩」

〔どうした、静花?〕

「今、真夏なのにスッゴい寒いですよね?」

〔ああ、前回は鈴鹿御前が顕現して摂氏五〇度を越えたけど、今回は零下五〇度とか両極端だよな〕

「それでですね、この事態を何とか出来ませんか?」

〔原因は甘粕のおっさんに調査させてる。何か心当たりがあるみたいだったし、その内に結果が出るだろ。若しも当てが外れたら僕も本格的に調べる予定だよ〕

「さっすが、優斗先輩だ。どっかの口だけ神殺しとは違うよね」

 普通に毒を吐く静花。

 どっかの口だけ神殺しが『うぐっ!』とか呻いて、胸の辺りを押さえているが気にしてはいけない。

「それで、お爺ちゃんは今旅行で沖縄に行っているから大丈夫だけど、私はスッゴい寒さに凍えてます」

 草薙一郎はユートも吃驚な色を知る老人で、静花の祖母も臨終の際には肩の荷が降りた顔だったとか。

 端から視れば好好爺で、その実態はこの年齢ながらモテモテで、同年代で夫を亡くした――とも限らない――御婦人方から大人気。

 贈り物もよく貰う。

 どうも、草薙家とはそういう家系みたいで護堂も、本人が知らない処でモテていたりする。

 それは静花もだったりするのだが、今の彼女は明らかにユートへハマり込み、それが判るからかおかしなアプローチは無かった。

 とはいえ、一郎も元気ではあるが老人に違いなく、こんな業務用冷凍庫染みた寒さの中では、やはり体調を崩してしまうだろう。

〔何ならお互いに素肌で温め合う? 静花となら僕も大歓迎をするけど〕

「も、もう! バカ……」

 先程は兄を相手に毒吐いたとは思えない潮らしさ、真っ赤な顔で視線をあちこちに彷徨わせ、きっと裸でユートに抱き締められたという妄想が展開されているのだろう、内股で女の子座りな静花の股座が更にキュッと閉じられる。

〔まあ、差し当たり此方に来るか? マンションには君の部屋も確保してるし、他の娘らと僕の部屋に籠るのもアリだ。常春の気温に調整しているからね〕

「常春……行きます!」

 真冬すら有り得ない気温である今現在、常春な状態は正に喉から手が出るくらいに欲している。

 因みに、他の娘≠ノ関しては全く気にしない。

 恐らく、万里谷先輩だったりアリアンナさんだったりするのだろうと、謂わばいつものメンバーが頭に浮かんだからだ。

 万里谷祐理は媛巫女で、ユートに侍るメンバー。

 更に妹の万里谷ひかり、年齢的には年下で静花とも姉妹みたいな感じだ。

 同じく媛巫女でもあり、筆頭とされる清秋院恵那は祐理の親友と聞く。

 アリアンナ・ハヤマ・アリアルディは元赤銅黒十字の見習いだったメイドではあるが、ユートと護堂の闘いで賭けの対象にされて、ユートのモノとなったのだと後で聞かされた。

 その際、兄を汚物でも視る目で睨んだものである。

 尚、ハヤマというミドルネームに黒髪から日系伊人だと思われるが……

 大神 操は神凪一族という炎の精霊と共に在る精霊術師の分家筋、今は一族とユートが諍いを起こしたとかでユートの下に。

 実際、アリアンナと同じで賭け金代わりにされて、勝負した神凪綾乃が敗北をして連れて来られた。

 他には神凪一族の姫たる神凪綾乃と、綾乃とは再従兄弟に当たる神凪 煉も居たりするし、神凪和麻にとって恋人な翠鈴も居るし、その残留思念を人に変えたラピスも居る。

(皆で御乱行?)

 約一名ばかり少年が混じるながら、静花は自分まで入り交じっての乱行を妄想してしまう。

 最近、ちょっとえちぃ感じな静花であった。

「と、兎に角! 迎えに来て貰えると嬉しいです!」

〔判った、待ってな〕

 電話が切れて刹那の事、ユートが目の前に顕れる。

「はやっ!?」

 余りの早さに静花も驚いてしまう。

「静花、閃姫になるっての受け容れたろ?」

「え? あ、うん」

「流石に真の契約までしなかったけど、それでも確かに仮契約はしたからね」

 ブシューッ!

 湯気を出す勢いで真っ赤になった静花は、モジモジと落ち着かない感じに。

 真の契約には処女を捧げる必要性があり、つまりはユートとセ○クスをするという事だったし、仮初めの契約も粘膜の接触による氣の交流をする……早い話が舌を絡めながらキスをすり必要があったからだ。

 静花は閃姫契約をすると決め、けど今は中学生だったからまだセ○クスをする覚悟までは無くて、だから取り敢えずと仮初めの契約を交わしていた。

 キスと聞いてそれはそれで軽くは受け止められず、それこそ真っ赤な顔になってキスをしようとしたが、唇を重ねるだけのキスではなくて、舌を絡め合うというディープキスだったとは思わなく、可成り驚きながら唇を重ねつつ舌を蹂躙されて混ざり合う唾液を嚥下させられたのである。

 尚、キスの後の瞳を蕩けさせて涙目で潤ませつつ、腰を抜かしたのか女の子座りでペタンと座り込んで、上目遣いとなっていた静花が余りに可愛く、口許から唾液を溢す姿がエロかったからユートもおっきした。

 その場で襲いたくなる程にあのロリな見た目からの色香が匂い立ち、マンションに帰ってからすぐアリアンナに口で鎮めて貰った。

 それは兎も角……

「仮初めとはいえ閃姫だ、その気になればこうやってラインも辿れる」

「そ、そうなんだ……」

 電話中からラインを辿っていたから一瞬である。

「じゃあ、行こうか」

「はい」

 差し出された手を取り、はにかむ静花を優しい瞳で見つめ、再びマンションへ瞬間移動をした。

「あれ、俺は?」

 護堂を置いてきぼりに。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「暖か〜い」

 常春な気温に調整され、外が真冬すら生温い冷凍庫状態なのが嘘みたいな……そんなユートの部屋の中。

「静花さん、ココアを淹れましたからどうぞ」

「え、ああ! すみません万里谷先輩!」

 まさか茶道部の華とも云える万里谷祐理を働かせてしまうとは、少し恐縮してしまう静花はそれでも受け取らない方が失礼だから、すぐにココアを受け取る。

 カップは静花専用だ。

 まるで同棲カップルの如く専用の食器や歯ブラシ、そんな道具がユートの部屋には常備されているけど、それはユートの閃姫候補が全員やっていた。

 現状、閃姫候補は――

 万里谷祐理。

 万里谷ひかり。

 清秋院恵那。

 大神 操。

 アリアンナ・ハヤマ・アリアルディ。

 草薙静花。

 一応、英国のお姫様とか付き人なミス・エリクソンもそうだったりする。

 また、鈴鹿御前を祖とする坂上加奈や吉備津宮 灯も候補に挙がっていた。

 アリアンナに関しては、何度もユートの分身を口に突っ込まれ、欲望の捌け口に使われていたから外すのは流石に鬼畜だろう。

 最後までヤっている現状唯一の女性だし。

 尚、メイドという事から彼女自身の特性を活かし、三日に一回は失敗をしてしまうその時にお仕置き≠ニ称しヤっていたりする。

 可成りの大失敗をしたら菊門に突っ込む鬼畜っ振りも見せ、開通以来そっちで感じる程に開発された。

 神凪綾乃は現在そういった流れには無い。

 単純に【炎雷覇】を奪われて、実家も貶められては好意を持てないだろうし。

 取り敢えず、現在のマンション住民は仲良く暮らしてはいた。

 静花が暖まっていると、突如として【撃槍・ガングニール】が響く。

「もしもし?」

 ユートのスマホの電話の着信音だった。

〔御待たせしました〕

「で、結果は?」

〔バッチリ黒でしたね〕

「神祖の先祖返りした媛、その一族の仕業……と?」

〔仕業というより事故というやつですな〕

 甘粕冬馬は、電話口の向こうで困った表情でもしていそうな口調。

「というと?」

〔【まつろわぬ鈴鹿御前】の一件、あの灼熱地獄にも等しい中で暑さに弱かった媛が倒れ、防衛本能からか日本を吹雪かせたのです〕

「あの件の被害者……か」

「はい。氷部まゆき嬢……雪女の血を引く末裔です」

(全員が同じ神祖の子孫って訳でも無いのか? というよりは途中で別の神祖と交じった感じか……)

 祐理から聞いた話によれば、祐理とひかりや恵那や馨といった媛巫女は神祖の子孫だとか。

 神祖とは元来は不死にも近い女神が死に、人の身に零落をした存在らしい。

 故に神祖には強力な呪力が在り、様々な呪術を使い熟せたりもする。

 その子孫だから祐理みたいな霊視、ひかりの【禍祓い】の様な特殊な能力持ちが誕生するし、基本的には血筋に遺伝をするから時の支配者に管理もされた。

 四家と呼ばれているのはそんな媛巫女の家系でも、最大限に権力を維持している清秋院を筆頭に、沙耶宮と連城と九法塚が存在している訳だ。

 尚、ユートは連城家以外の家系は誰かしら会っているが、連城家の人間に会う機会は特に無かった。

〔あの里には五家、現在は四家が神祖の家系として続いています〕

「五家?」

〔炎部の造反から父親共々が連座で娘も封印処理されまして、今は氷部と水部と民部と森部により運営が為されていますな〕

「成程」

〔母君の静氷殿も困り果てておりまして、日本の半分――関東から北を吹雪かせている為、下手をしますと封印処理処か殺処分です。それは他の御三方が強硬に反対をされてますが……〕

「四人は仲が良いのか?」

〔はい、幼馴染みというのはやはり良いですね〕

「おっさんの趣味は聞いていない」

〔ハハハ。それで、王としては如何なされますか?〕

「行くのは決定だな」

〔左様で御座いますか〕

 甘粕も胸を撫で下ろす。

「後は視てみない事には、どうするか決められない」

〔判りました。それでは、私めが里まで御案内を致しましょう。明日の朝には、近くの公園まで車を出しますので〕

「諒解だ、そうしてくれ」

 話が終わって電話を切るユート。

「という訳で、隠れ里っぽい場所らしいけど行く事になった。悪いが留守番をしていて欲しい」

「判りました、優斗さん」

 祐理が頷く。

「静花も来て早々に悪い」

「ううん。事態が終息するなら大歓迎ですよ先輩」

 真夏の雪景色は悪くないのだが、業務用冷凍庫状態が続くなんてのは宜しく無かったから。

 真冬だってまだそんなに低くはない。

「ま、何にしても明日だ」

 そう言いながら……

「キャッ!?」

「あ、優斗先輩!?」

 二人を抱き寄せる。

「なら、今夜は愉しもう」

「も、もう……本当にしようがない人です」

「先輩がしたいなら」

 二人は真っ赤になりながらも、ユートの胸に顔を埋めて抵抗もしない。

 愉しむ≠ニいっても、別に最後まではヤらないのだから、安心という訳ではないが軽く了承が出来る。

 中学生の静花でもだ。

 このマンション内にて、処女を散らしている者といえばアリアンナだけ。

 見掛け的には小さくて、だけれど実は彼女が一番の年上な二〇歳。

 一般人なら大学生くらいの年齢であり、セ○クスに及んでもおかしくない。

 また、大神 操は【風の聖痕】原作開始時――今から三年後――は一九歳になっているが、今現在はつまり祐理の一歳上で一六歳な高校二年生である。

 神凪綾乃は一四歳であり中学二年生で、神凪 煉は 一〇歳の小学四年生だ。

 万里谷ひかりが一二歳、小学六年生である。

 静花の妹分的な立場に納まっており、然し性的知識という意味ではひかりの方が上回っていた。

 まあ、単純に何処からか手に入れたエロ本を読み漁ったかららしいが……

 翠鈴(ツォイリン)は別にユートのあれやこれやではないが一応は操と同い年らしいのと、その残留思念を形にした存在のラピスは、生後んカ月的な感じだったりするが、肉体と精神的な年齢は現在の翠鈴と同じくとなっている。

 ベッドの中でえちぃ事を愉しんだ後、風呂に入ると色々な液体の残滓を落としてから眠った。

 翠鈴は和麻の恋人だし、普通に自分に与えられている部屋で眠るが、他は基本的にユートの部屋の寝室に在るキングサイズなベッドに全員で……という感じで眠る形となる。

 翌朝、ユートは甘粕に連れられて真夏の冬の原因となる隠れ里へと向かう。

 氷部の邸。

 隠れ里の四家――氷部、民部、水部、森部が里内を統括している。

 とはいえ、重要な案件を決める場合は里全体による合議制らしいが……

「初めて御目に掛かります……氷部静氷と申します」

 三つ指を突いて頭を下げる青髪の女性は、氷部の主の氷部静氷であった。

 因みに、三つ指を突くのは頭を下げるまでの準備な動作であり、実際に頭を下げる段階では普通に全ての指を付けている。

 和服を着熟す美しい女性であり、旦那という存在はそもそも居ないらしい。

 別に何処ぞの白書な氷女みたく分身をするとかでは決してなくて、子を成す為に里の外から男を招いてから行為に及び、懐妊したら男は里を出される形だ。

 勿論、恋人が出来たならその限りではないのだが、静氷にはそんな相手が居なかった為、此方の風習に従ってまゆきを生んだとか。

 つまり、まゆきを孕んで以降は男との接触が里長の二人以外――森部と水部は現在だと男が当主――には無いという。

「四人の里長って割には、静氷さんは若いんだな」

「早い内にまゆきを授かりまして、それでも四十路は過ぎておりますれば」

 里長の一族の女は基本的に先祖返りで、神祖に近い肉体だからか見た目に若く美しい傾向にあり、静氷も二十代半ばくらいで老化はすっかり止まっていた。

 これに関しては民部の長である民部奈美貴も同じ。

 森部の爺様と水部の長は普通に年輪を重ねている。

 森部の媛は両親を、水部の媛は母親を既に亡くしていると聞くし、氷部はそもそもとっくに里を出されている父親に当たる男。

 民部の媛も父親は亡くしているらしい。

 静氷とまゆきが並ぶと、きっと姉妹にしか見えないだろうと聞いた。

 とはいえ、力の制御という意味では全く別物。

 三十代の母親たる静氷と十代の小娘たるまゆき……元よりまゆきは力の制御が覚束無い為、静氷もそこは困っていたとか。

「で、何で護堂とエリカが此処に居るんだ?」

 通された居間に居たのは草薙護堂と、その忠臣? エリカ・ブランデッリ。

 もう一人、銀髪ポニーテールな女の子が居る。

「もう一人は……確か……リブリアン?」

「ブリアン・ブリアン・ブリブリアン! って、違いますから!?」

 何だか変な呪文を唱えながら踊るが、直後にガーッ! と絶叫をした。

「リリアナ! リリアナ・クラニチャールです!」

「おお、そうだった!」

 尚、未来でリブリアンを見たユートが今度は何故か『リリアナ?』とか呼び、それを何故か℃@知をしたのかリリアナがるーるーと泣いたとか何とか?

「で、どういう事かな? 甘粕のオッサン。そろそろ男として終わりたいか?」

 ブンブンと首を振る。

「お、俺らも馨さんからの依頼を受けたんだよ」

「カンピオーネ……羅刹王を二人も使うか? お姫様は重要人物なんだな?」

 ビクッと肩が震えたのは同席をしている女の子……というにはちょっと薹が立っているが、三人の恐らく他の家の媛であった。

「初めまして。私は水部の媛で那水で御座います……羅刹の君、緒方王」

「民部あんずです」

「森部朱雀だ……じゃなくです」

 一番の年上らしいクセのある黒髪をロングにしている女性――那水が挨拶してきたのを皮切りに、緑髪をショートボブにした少女――あんずと、長い赤毛を後ろで一本に結わい付けている少女――朱雀も頭を下げて挨拶をしてきた。

 ユートは識らないけど、この娘らも【カンピオーネ!】や【風の聖痕】などと異なった世界観の存在で、混淆世界らしく主体世界の中に組み込まれた形だ。

 原典では見た目が小学生かと思われそうなあんず、実はその原典の主人公たる男と同い年で二十歳過ぎ。

 とはいえ、原典の時間軸より少し前に当たるらしくてこの世界ではソコまでではない様だ。

「だいたい、この真夏の冬が氷部まゆきの力が暴走をしての結果なら、彼女を殺せば事態は終息する筈だ。カンピオーネ処か、この里の人間にも出来るだろう」

「なっ!」

 声を上げたのは朱雀。

 だが、他の二人や静氷もそうだけど草薙護堂も驚愕をした表情で固まる。

 否、静氷はそれも視野に入れてはいたのだろうか、目をすぐに閉じてしまう。

「こ、殺さなくても!」

 護堂が叫ぶ。

「一番簡単な方法を示したに過ぎない」

 ギュッと那水が拳を握って何やら決意をした表情、あんずは哀しみに呉れているし、朱雀は嫌悪感を丸出しに睨んできた。

「ま、来たばかりで相手も見ずに結論を急いでも仕方ないだろうね」

 ユートはまだ氷部まゆき本人を見てすらいない。

 取り敢えず、まゆきが眠る寝室へと案内させた。

 其処には白無垢を身に付けた青い髪の毛の少女――氷部まゆきが眠っている。

 成程、母親たる静氷とは瓜二つと云えるくらい似通った顔立ちだ。

 静氷を十代にすればこうなるという見本。

「確かに凄まじい呪力だ。そして発生源であるからにはやはり殺せば終わるな」

 それは一つの結末。

「だ、だけど!」

「護堂」

「な、何だよ?」

「殺す以外の結末が欲しいなら、自分の確かな意見を出すんだな」

「意見?」

「自分は意見も出さない、解決策がある訳でもないが『反対反対兎に角反対』とクレーマーをしても何も変わらないぞ」

「それは……」

「反対するなら対抗策を出して、実際に事態を納めるだけのモノだと証明をして見せろ。そして忘れるな、この状態が続けばまゆきは生き延びても、日本の北半分に住む人間はじきに死に絶えるんだ……とな」

「うっ!?」

「お前の悪友も、一郎さんだってそうだ。彼女の力が増してしまえば南もいずれ凍り付くからな。幼馴染みや再従姉弟も居るだろ?」

「あ、ああ……」

 氷部まゆきを慮っている場合ではなかった。

 この侭では反町や高木や名波ら悪友、三浦や瑠偉や中山といった中学時代での野球仲間、徳永明日香という寿司屋な幼馴染みやら、香月さくらという再従姉弟なんかも近場に居るのだ。

 まゆきの暴走が続けば、皆が死んでしまう。

 取り敢えず、隠れ里まで遠かったからもう暗い。

 夕飯を戴いて風呂にも入って、後は明日に備えて眠るのみと客室で一人、布団の中に潜り込んだユート。

「羅刹の君」

 客室の外に声。

「起きているから入って来ると良い」

「失礼致します」

 深夜の丑三つ時になって訪ねて来たのは、水部那水――水部の族長たる竜王の娘であったと云う。


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