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第48話:護堂&エリカVS菅原道真
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 【教授】の術によって、菅原道真の火雷神としての来歴を詳らかにした護堂、これにより【戦士】の化身を使い、黄金の剣──リングによる鍍金に非ず──で切り裂く事に成功する。

 四大恐怖の内、元から使えない地震は置いといて、雷と火事を見事封じる事が出来て護堂は、残り物であるオヤジに挑み掛かった。

 菅原道真の弓の腕前は、来歴の通りの百発百中というのが護堂の感想。

 流石に躱せば当たらないにせよ、箭は確実に護堂とエリカの急所を狙う。

《ルパッチ・ケンノー・タッチ・ゴー!》

《ディフエンド……プリーズ!》

 何とかリングの力を用いて箭を弾いたり、エリカもクオレ・ディ・レオーネで直接的に弾く。

「くそ、近付く事が出来れば何とかなりそうなのに」

「これでは近付けもしないわね……」

 人間の菅原道真であればあり得なかったのだろう、だけどあの菅原道真は人間ではなく【まつろわぬ神】という、人間を遥かに超越している存在。

 明らかにおかしい弓の射方を平然と行い、ユートが前に斃したペルセウスより弓の扱いが達者だった。

「どうした、神殺し!」

 一度に数本の箭を放ち、緩急を付けるとまた新しく箭を放つという、避ける側にはとんでもなく難易度の高い射方なのだ。

 ペルセウスの様に、数をバラ撒くだけなら護堂達も容易く近付けるのだろう、だけどこれでは二人共躱すのが精一杯で、反撃に出る事が出来ずに居る。

 あの弓の扱いも権能だと見て間違いないが、【戦士】の化身はオリジナルの方を火雷神を斬るのに使い、【センシ・リング】による鍍金の剣は出せない。

「くっ、ならこれだ!」

《ルパッチ・ケンノー・タッチ・ゴー!》

 ベルトを操作してハンドオーサーにスキャン。

《オオトリ・プリーズ!》

 目には目を歯には歯を、射に対しては同じく射を。

 動きの速度を上げて射角から一旦外れると、護堂はソードガンをガンモードに変形させて……

《キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!》

 ソードガンを起動させ、音声に従ってハンドオーサーにシェイクする。

《ウルスラグナ・シューティング・ストライク》

「喰らえ!」

 菅原道真に銃口を向け、トリガーを引いた。

 オリジナルのソードガンとは異なり、極太(ゴンブト)なビームが放たれる。

「ヌオォォオオッ!?」

 カンピオーネの強烈なまでの強度を持つ呪力を収束させたビームは、菅原道真が叫びながら横っ飛びして躱すくらい凶悪なものだったらしい。

 実際、硬そうな大岩へと貫通して威力を落とす事も無く飛んでいく。

「すげ、銃刀法違反とか言う以前の威力じゃないか」

 大粒の汗を流しながら、護堂は呟いた。

 とはいえ、これは威力がデカイ分連射が利かない。

 連射をしたいのならば、通常攻撃が良さそうだ。

 そんな事を考えながら、菅原道真に向かって駆けるべく……

《ルパッチ・ケンノー・タッチ・ゴー!》

 ベルトを操作し、ハンドオーサーにリングをスキャンする。

《オオトリ・プリーズ!》

 単純にスピードが最大でマッハ二〇程度まで上がるだけだが、その気になれば初速から最大限の速度まで引き上げる事が可能となっていおり、護堂は一気呵成にソードガンを振り翳し、近接で斬り付けた。

「うぬ! 小癪なり神殺しよ!」

 菅原道真も佩刀を抜き、エオル鋼という特殊鋼合金で出来た刃を受け止める。

 其処からは鍔迫り合いですらなく、互いに刃と刃をぶつけ合う打ち合い。

 リングの効力もまだ残っている。

 勿論、打ち合いをしている護堂だけが戦う訳ではなくて、エリカも護堂の援護をするべくクオレ・ディ・レオーネを手に、高速での華麗なる突きを披露した。

 元が聖ラファエロの剛剣とは思えないくらい細く、刃こそ付いているが明らかに細剣(レイピア)の様相をしているクオレ・ディ・レオーネは、エリカが揮う度に撓りを上げて空気を切り裂く音すらも響かせずに、菅原道真を襲う。

 とはいえ、【まつろわぬ神】には魔術剣だとはいっても傷付けるのは難しく、本当に牽制にしかなってはいない。

 一方の護堂の斬撃はといえば、エオル鋼製とはいえ本来なら大したダメージも与えないが、カンピオーネの呪力を受けての威力は、多少なりとも菅原道真へとダメージを通す。

「エリ、エリ、レマ・サバクタニ! 主よ、何故我を見捨て給う!」

 エリカは今一度、呪文を唱え始めた。

「主よ、真昼に我が呼べど御身は応え給わず。夜もまた沈黙のみ。然れど御身は聖なる御方、イスラエルにて諸々の賛歌をうたわれし者なりっ! 我が骨は悉く外れ、我が心は蝋となり、身中に溶けり。御身は我を死の塵の内にすて給う! 狗どもが我を取り囲み、悪を為す者の群れが我を苛む! 我が力なるお方よ、我を助け給え、急ぎ給え! 剣より我が魂魄を救い給え。獅子の牙より救い給え。野牛の角より救い給え!」

 【ゴルゴタの言霊】。

 エリカ・ブランデッリの最強の秘儀を解き放つ為の言霊であり、リリアナ・クラニチャールの【ダヴィデの言霊】と同様、その気になれば神すら傷付ける事さえ叶う魔術の奥義。

 その凄絶なる呪文を唱えると、最初の時と同じ気温が下がった気がする。

 掛け直された術により、負の力が収束されていく。

 周囲より負の呪力を集約させ、呪力強度を引き上げるというのが【ダヴィデの勲の書】に在った知識で、その中で二人の騎士が一つずつ覚えた知識≠アそが【ゴルゴタの言霊】【ダヴィデの言霊】と呼んでいる知識であり、エリカが使えるのは前者だ。

 強度の上がった呪力によって、エリカは一時的にとはいえ本来なら人間の呪力では傷付かぬ、カンピオーネや神ですら傷付ける事が可能になるという。

 最初に発動させてたが、エリカが強い攻撃を喰らってしまい、効果を喪っていたが故に掛け直したのだ。

 一気呵成に菅原道真へと近付いたエリカは、クオレ・ディ・レオーネを高速で突き出す。

「うぬ!」

 神すら傷付ける呪言は、流石に受けたくなかったのか佩刀で受け止めた。

 特に名の有る刀でなく、本来なら単なる飾り刀に過ぎないが、まつろわぬ神が持つそれはそこら辺の名刀を凌駕している。

 カンピオーネの草薙護堂を相手にするのも大変だと云うのに、自身を人間の身で傷付ける力を持つ者が、その間隙に入って来るのは酷く億劫だった。

 菅原道真は文武両道ではあるが、得意分野は飛び道具たる弓矢なのであって、近接戦はそれなり程度。

 本来の彼は武よりも文に寄った文官なのだ。

 しかもユートをして彼を魔術師(キャスター)と言わしめた力、火雷神の権能は既に黄金の剣により切り裂かれてしまい、使いたくとも使えない状況にある。

 だが、それでも菅原道真は【まつろわぬ神】だ。

 人間のエリカとは地力に差があり、まともに攻撃を当てる事さえ難しい。

「カハッ!」

 遂には菅原道真の持った刀の柄が、エリカの鳩尾に入ってしまう。

 鳩尾は人体の急所の一つであり、強打をすれば死ぬ可能性すらある。

 エリカは苦痛に呻き声を上げ、地面にのた打ち回ってしまう。

「エリカッ! くそ!」

 そんなエリカを見た護堂は悪態を吐き、ソードガンを操作した。

《キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!》

 相も変わらず騒がしい、そんなソードガンのハンドオーサーにシェイクハンド──握手するかの如く触れると……

《ウルスラグナ・スラッシュ・ストライク!》

 ソードガンから電子音声が鳴り響いた。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 最早、気にしないと言わんばかりに早々と菅原道真へと斬り付けるが、敵も然る者で呪力を纏った刀を揮うと、護堂の渾身の一撃を受け止めたばかりか……

「しまっ!?」

 バキィッ!」

 受け止めた際にはサウスポーの打者がバットを振る感じで刀を揮っていたが、ソードガンを受け止めてから直ぐ、まるで弾かれるかの如く流れに逆らわない様に逆回転すると、峰打ちで護堂の首筋へと叩き込む。

「がっ!」

 護堂自身は斬り付けた時の勢いを保持した侭だし、其処で背後から菅原道真の刀の一撃を受けてしまい、更に勢いを弥増して前のめりに倒れてしまう。

 これで若し刃側で打ち据えられていれば、護堂の首が落ちていても不思議では無かったであろうが、幾ら【まつろわぬ神】菅原道真とはいえ、其処まで器用ではなかったらしい。

 単なる偶然であったが、菅原道真が使った剣技……あれはユートの【緒方逸真流】と同じ流れだった。

 相手の力を往なしつつ、最大限の手数と威力を以て敵を討つ流派。

 謂わば剛と柔を渾然一体とした剣技である。

 菅原道真も今の剣技から何かを見出だせず、不思議そうな表情となっていた。

 だがすぐに気を取り直したらしく、ドヤ顔となって刀を右手に振り上げる。

「フッ、終わりの様だな、神殺しよ!」

「ぐっ、く……そ……!」

 人間に比べて窮めて丈夫だとはいえ、【まつろわぬ神】からの一撃を受けてはダメージも通る。

 況してや首筋は場所次第で昏倒するし、延髄を強かに打たれて全身が痺れて、一時的に動けない。

「さあ、消えるが良い!」

「させないわ!」

「む!?」

 背後から斬り付けてきたのはエリカ。

 菅原道真は刀でクオレ・ディ・レオーネを受けて、身体を横にずらしながらも勢いを往なす。

 エリカは護堂の前に護る様に立ち塞がる。

「ほう、異国の呪術師が……神殺しを護るべく我が前に立ち塞がるか」

「勿論よ、私は草薙護堂の騎士ですもの!」

「ふん、意気衝天とはこの事よな……我も帝にその様な気持ちで仕えたものよ」

 それは飽く迄も、取り込んだ伝承を基にした記憶、それでも彼が【まつろわぬ神】である以前に菅原道真という事か、何処か懐かしむ表情であったという。

 当のエリカは菅原道真を前に悩んでいた。

 ユートから渡された物、避雷針のリング、菅原道真に関する考察の報告書。

 そしてもう一つ……

「悩んでも仕方ないか」

 全てを出し切らず敗けるのは、余りにも優雅と掛け離れており、エリカ・ブランデッリの流儀ではない。

「ドライバーオン!」

《ドライバーオン!》

 音声に応えてベルトが、エリカの腰に顕現した。

 もう一つ、即ちそれは未だに何の力も無い……静花へ仮の物として渡してあるのと同じベルト。

「変身!」

《オープン! L・I・O・N……ライオン!》

 見た目にはビーストドライバーだが、キマイラとかが入っていない空のベルト故にか、電子音声が何だか虚しく響いていた。

 それでもユートが技術の粋を尽くして造った戦装束へ転換されて防御力は随分と上がったし、聖衣と同じく闘氣と魔力を融合され、咸卦の氣を放つ。

 戦装束の下服の部分は、青鍛鋼糸(ブルーメタル・スレッド)という、青鍛鋼(ブルーメタル)から造った鋼糸を編んだモノであり、呪力に対する防御力を高く有し、更には多少の傷なら時を置けば治癒する。

 鎧部分は青銅聖衣と同じ素材を使っており、謂わば神代の技術で構築されている高い防御力を持つ鎧。

 エリカの【紅き悪魔(ディアボロ・ロッソ)】という称号に合わせて装束の方を紅色にしているが、鎧の部分はビーストっぽく金色に輝いている。

 黄金聖衣みたいな太陽の耀きではないが、エリカの髪の毛が不自然でない程度に馴染んでいた。

「力が湧いてくる……」

 咸卦法を使っている様なものだから当然だろう。

 尤も、融合比率は自分で咸卦法を使うより小さい、自分で意識的に使った場合が八〇%だとすれば、今は精々が三〇%でしかない。

 それでも魔力のみの……単一呪力だった時に比べれば強化されていた。

 カンピオーネの如く膨大な呪力を持つ訳ではなく、肉体的にも普通の人間だから【まつろわぬ神】には敵わないし、まだ神獣が相手でも互角とはいかない。

 近い将来的に聖獣なり、魔獣なりを封じてしまえば神獣と互角にはなる筈。

「流石は五百万ユーロ──約六億五千六百三十五万円──もしただけあるわね。叔父様、素直に払って下さるかしら?」

 *注意:書いてる現在、一ユーロ=一三一.二七円である。

 決して安くはない値段、だがこれだけの代物であればその十倍でも高価と云えない筈だ。

 寧ろ、聖衣と同じ技術で造られた鎧なら、この値段設定は安価であろう。

 とはいっても、原材料から造るまで全てをユートが取り仕切り、そもそもにして素材もユートが造った事を鑑みれば、掛かった費用は実質ゼロ円だった。

 エリカは菅原道真に対してクオレ・ディ・レオーネで突き、反撃を受けない様に身軽に動く。

 目的は護堂の快復待ち。

 幾ら身体能力が上がったとはいえ、エリカの能力で【まつろわぬ神】を斃せはしないのだから。

「はぁぁぁああっ!」

「これしきで!」

 連続突き、本来のエリカでは秒間数発でしかない、だが今は秒間十数発を記録しており、全てを菅原道真の佩刀に弾かれていても、無様に圧される事だけはなくなっていた。

 スプラッシュ……まるで水飛沫を貫くが如く勢いの刺突は、然しも菅原道真も捌き切るのに苦慮をする。

 速度にしてマッハ〇.ニにまで達し、単純に云えば青銅聖闘士の五分の一程度の攻撃速度だが、パターン化されない動きはどうにも捌き難い様だ。

 例えば、星矢の流星拳が簡単に捌かれたりするのも要は、ある程度だが星矢の拳の軌跡がパターン化しているのが理由である。

 人間のやる事だから完全ではないが、どれだけの拳を放っても似た軌跡を辿れば打ち落とすのも容易い。

 エリカはこのスプラッシュでは、全く違う軌跡での刺突を放っており、速度が遅くともパターン化されていない分、打ち落とすのが難しい。

 意識せずに打てばやはりパターン化されているが、今回は意識的に刺突を放つ事によりパターンから外していた。

 神殺しですらない一介の呪術師相手に、これ程までの苦戦を強いられ菅原道真は舌を巻く。

「ぬうっ、神殺しに仕える呪術師がこれだけ戦えるとはな……已むを得まい」

 呪力を高める菅原道真、エリカは警戒心を露わとするが、攻撃の手を緩める事もなく刺突を続けた。

 仮令、腕が引き千切れ様とも【王】を護るのが騎士の務めであるが故に。

 菅原道真が呪言を詠う。

「我を送り我が為に泣き、我を護る我が守護聖獣よ……来たれ!」

「なっ!?」

 菅原道真の身体から顕現したソレは、エリカに体当たりをしてくる。

「グフッ!」

 菅原道真は牛に縁深い。

 彼が左遷された時に牛が大宰府に送り、牛は泣きながら見送ったという。

 牛に懐かれ、牛を愛育した菅原道真を牛が刺客から護った。

 牛が菅原道真の墓所を決めて、丑年が彼の生まれ年である。

 そんな菅原道真を祀った天満宮は、牛を神使として臥牛の像を置いていた。

 防御を捨てて攻撃特化で動いていた為、まともに喰らってしまうエリカは……

「あの方の……言っていた通り……か……っっ!」

 自身に体当たりをして、菅原道真を護るかの如く立つ牛の姿を、霞む意識の中で見ながら呟いた。


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