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第46話:菅原道真
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「彼の神は間違いなく鈴鹿権現、鈴鹿御前です」

 霊視の結果、鈴鹿御前としての来歴が確かに視えたからそれは間違いない。

「この猛暑は二次的なものらしく、彼女自身が太陽神という訳ではありません。天照大神の荒御魂としての神の御母、故に彼女の顕現が太陽の力を強めました。そして元が神祖に近かった彼女は、二度に亘り子を成しています。二度目が雷神との間に授かったとされる坂田金時、つまり金太郎を生んでいます」

 汗を身体中に浮かべて、ユートの鍛え絞り抜かれた細身な身体にしがみ付き、両脚はユートの右脚に絡ませており、お腹には腰から生えた固く大きなモノから熱を感じながら、必死になって舌を絡ませていく。

「はぁ……」

 心地好さにトロンと蕩けた表情となり、祐理は手と手を合わせて唇を吸った。

 ユートは唇には限らず、首筋に舌を這わせて往くと徐々に下に降りていきつつ乳房を口に含む。

「ん、くぅ……っ! ゆ、優斗さぁん……ダメですよ……ちゃんと、唇を……」

 などと言いつつ、祐理は心此処に在らずな口調で、この性的な快楽に耽った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「訊いてみるものね」

「このリングで雷を防げるって事か……」

「あの方から力を借りたんだし、無様は晒せないわよ護堂?」

「判ってるさ」

 正史編纂委員会の専用機にて九州地方は福岡県・太宰府市に有る天満宮へと、甘粕も含め三人で共に向かう護堂とエリカ。

 夜中の内に移動をして、少し休憩をしたらまつろわぬ菅原道真を斃しに行く。

 問題なのは護堂が今尚、菅原道真の来歴の勉強をしている事だろうか?

 如何な【赤銅黒十字】の【紅き悪魔(ディアボロ・ロッソ)】であるエリカ・ブランデッリとはいえど、日本の神まで全てを詳らかに出来はしない。

 欧州ならある程度であれ網羅もしているが……

 つまり【教授】の術は使えないという事。

 こうなれば護堂が自分で学ぶしかないだろう。

 幸いなのは菅原道真というのが、神話の時代の人間でらなく史実に基づいての人物であり、当時の状況から【祟り神】として死後に祀られた存在だという事。

 その分、余計な神話などが付加されていないが故、アテナやペルセウスみたく来歴が複雑ではない。

 まあ、逆に割と純然たる火雷神の相を持っており、更には自身を貶めた者への怨みも一入で、強大な権能を行使出来そうだが……

「菅原道真……承和一二年六月二五日に誕生、延喜三年二月二五日に没か」

 当時のユリウス暦に直したら、八四五年八月一日〜九〇三年三月二六日だ。

 平安時代の人間だったし五八歳というのは、それなりの長生きだろう。

「菅原是善の三男として生まれた平安貴族。宇多天皇に重用されて寛平の治を支えた一人、醍醐天皇の時代では右大臣にまで昇った。だけど左大臣の藤原時平に讒訴されてしまい、大宰府に権帥として左遷された後に現地で没した……ねぇ」

 昔の政治家としては割とよくある話だ。

 優秀な人間が疎まれて、それで貶められ左遷されたなど、普通にあった筈。

「菅原道真没後、藤原時平が延喜九年に病没した上、当時の醍醐天皇の東宮であり時平の甥だった保明親王が延喜二三年に薨去、次にその息子で皇太孫となった時平の外孫の慶頼王が延長三年に卒去。延長八年には清涼殿が落雷を受けた事により、昌泰の変に関与した大納言藤原清貫などの朝廷要人に死傷者が出たか」

 要するに菅原道真を貶めた関係者が軒並み不幸に見舞われたと、しかも清涼殿落雷事件から三ヶ月後に、醍醐天皇も崩御している。

「ふーん……それでこれは菅原道真の怨霊による祟りって話になって、罪を赦して流罪になっていた道真の子供達も京都に呼び戻したって訳ね」

 エリカが護堂の読んでいた資料に目を通す。

「落雷事件から菅原道真を火雷神に結び付けて、当時は火雷天神が祭られていた北野に北野天満宮を建立、道真の祟りを鎮めようとしたか。つまり、菅原道真が雷神とされるのはこの当時に習合されたからね」

「そうみたいだな。全く、迷惑な話だよ……」

「それは菅原道真の話? だとしたらお門違いよ」

「何でだよ?」

「昔の人間は迷信深いから菅原道真が怨みそうな人間に不幸が起きて、勝手に祟りだって恐れていただけ。原因が落雷だから火雷天神に習合された訳だけどね、北野に火雷天神が祭られていた事実から、元々がそういう土地柄だっただけよ。別に死んだ菅原道真が何かした訳ではないわ」

「む、でもまつろわぬ神なんだろう?」

「まつろわぬ菅原道真は、飽く迄も当時に創られたっていう伝承が原因で誕生しただけ、本物の菅原道真は普通の人間でしょうね」

 護堂はつい、当時の菅原道真をまつろわぬ神一緒くたに考えていたが、エリカの言う通り今回で顕現したまつろわぬ菅原道真と史実の菅原道真、これは同一という訳ではない。

 寧ろ、火雷天神が菅原道真の名前を受けて顕現しただけだろう。

「今では【天神様】は学問の神としても崇められているのね。それに文武両道で弓が得意とあるわ。へえ、凄いわね。百発百中ですってよ。だとしたら、まつろわぬ菅原道真も同じだと考えて良さそうね」

 これは可成り手強い相手になりそうだと、草薙護堂はガックリと項垂れた。

「あら? サーヴァントだったらキャスターかアーチャー? 何かしら、この但し書きは……」

 ユートの筆跡、恐らくは落書きだろう。

 元々、この資料の一部はユートが甘粕に書いて渡した物である為、こんな落書きがあってもおかしくないのだが、確かにこの能力で喚ばれたら魔術師が弓兵のいずれかだろう。

 とはいえ、聖杯戦争とかサーヴァントというモノを知らないエリカでは、首を傾げるしかない。

 どっちにしろ冗句の類いだから、気にする必要性は全く以て無い話だ。

 ユートと祐理がホテルにしけこみ、睦み合っている頃にこんな会話をしていた護堂とエリカは、なんとか日が昇る前に現地入りし、昼間では眠る事にする。

 まつろわぬ菅原道真も、毎日を精力的に暴れている訳ではなく、今はゆっくり上京するべく動いており、護堂とエリカが居るホテルは菅原道真の動きを視て、通過点に最も近いであろう場所に存在していた。

 ユートも護堂もまつろわぬ神を相手にするのは昼、昼食を摂ってからとなる。

 護堂の場合はその頃には菅原道真と相対する場所を選び、強行軍の疲れを癒すのが目的だ。

 ユートの場合だと、朝日が昇る時間は鈴鹿御前が持つ顕妙連の力が発揮され、厄介だというのがある。

 エリカはもう一つの資料を読みながら、一眠り前の朝御飯を食べていた。

 朝食を済ませてシャワーを浴びたら、昼までは眠りに就いて護堂と共に菅原道真と戦うべく動く。

 エリカ・ブランデッリは草薙護堂の騎士だから。

「菅原道真と結び付く前の火雷神……火難に雷避けに五穀豊穣の神なのね」

 ユートが用意したらしい資料、これには雷が落ちれば木々に火が灯る事から、単に雷神ではなく火雷神として祭られていたとある。

 また、五穀豊穣は雷が落ちる地域で豊作になり易いという縁起から験を担いでのもので、菅原道真はこの火雷神と結び付く事から、【山羊】と【白馬】の化身がまつろわぬ菅原道真に、若しかして効かない可能性を示唆していた。

「五穀豊穣は科学的な見地で云うと、大気成分は窒素が八割で後の二割は殆んどが酸素。放電により窒素と酸素が化学変化を起こし、窒素酸化物を作る。これは窒素系天然肥料となって、植物の育成を助けるね……成程、古来からそれに気付いていたから火雷神が五穀豊穣の神になる訳か。それにこれは……牛? 菅原道真は牛を神獣とする可能性がある。彼は牛との縁が深い為、神使として牛が祭られている……ね。それにしても祀られていても伝承に括られれば、まつろわぬ神として出てくるのね」

 ユートが急遽、書き連ねて甘粕に持たせた菅原道真に関する来歴の報告書。

「ハァー」

 それを読み終えたエリカは嘆息しつつ、報告書を机の上に置いて疲れた目を癒す為に目元を揉む。

 護堂よりも深く知識を得る事により、エリカはこの知識を【教授】で教え伝える事が可能となる。

 ユートは護堂を余り好ましく思っていないだろう、それは自分が下手に煽ったのが原因で、最初にぶつかったのが理由だろう。

 単に護堂が自分を棚上げしているだけなら、ユートは彼処まで拒否反応を示さなかったと考えている。

 何故なら【グリニッジ賢人議会】からの報告書に、ユートが他のカンピオーネである【黒王子】アレクサンドルと友好な関係を築き上げているとあったのを見たからだ。

 エリカもアレクサンドル・ガスコインについては、それなりに知っている。

 彼は自らを紳士的であると断じており、自分以外のカンピオーネの悪行に頭を痛めるなど、明らかに護堂と同じで自分自身を棚上げするタイプだというのに、ユートは護堂とは仲良くしておらず、アレクサンドルとは友好的な関係。

 だとすれば、何処で違いが出ているのだろうか?

「やっぱり出逢い方か」

 服を脱ぎながら呟く。

 シュルシュルと衣擦れの音を響かせつつ、いつもの紅色のドレスを脱ぎ去り、下着姿となったエリカ。

 染みの一つも無い均整の取れた白い肌の肢体を外気に晒け出し、流麗で鮮やかな長い金髪を降ろす。

 玉の様な肌とはこの事を云うのだろう。

 その肢体は適度に鍛えられており、ユートが視れば剣技──それもフェンシングの様に突くタイプを扱うべく鍛えたモノだと理解するくらい特化され、華麗な動きを可能にするだけの絞られた筋肉だが、出る所は出て引っ込むべきは引っ込んだ女性らしい丸みを帯びた肉体、イタリアで神殺しを成す前に下着姿のエリカと同じ部屋に居た護堂は、よくリビドーに耐えられたものだと褒め称えたくなる程の完成されたものだ。

 一人きりのバスルームというシチュエーション故、惜し気も無く晒した肢体から更にブラジャーを外し、片足を上げてショーツまで脱ぎ去ると、籠の中に放り込んで更衣室からバスルームに入り、シャワーをだしてたっぷりの湯を掛ける。

「ふぅ……それにしても、静花さんのお蔭で助かったわよね。どうやってあの子を籠絡したかまでは知らないけれど、静花さんが哀しむのは困るという一点で、何とか協力を得られている訳だもの」

 出逢いからして拙かったのは誰の目にも明らかで、その根本的な原因が自分というのも、参謀兼騎士としては逸り過ぎだった。

 護堂の権能を増やして、更に強くするという一点に注視し過ぎて、ユートが既にカンピオーネであるという可能性を抜いて考えてしまい、しかも弱った神を斃しても権能を獲られないと知らなかった事が護堂へのあの指示に繋がったのだ。

 失態はそれだけでなく、焦っていたエリカは祐理を護堂側に引き込む為に決闘までさせた結果、メイドのアリアンナを逆に奪われてしまう。

 せめてもの救いはユートが無闇にアリアンナを傷付けず、寧ろ身内として扱ってくれた事だろうか。

 情報収集とかの下心ではなく、アリアンナを純粋に心配をして何度か会っているのだが、会う度に少しずつ呪力が弥増している。

 訓練をしているらしく、それがアリアンナを強くしているのだろう。

 とはいえ彼女は元々が、才能の欠片も無かった。

 その余りにも才能の無さが故に、【赤銅黒十字】を除籍される寸前だったのをエリカがメイドとして拾ったのである。

 何はともあれ、愉しそうにしているからホッと胸を撫で下ろしたものだった。

 キュッ! シャワーを止めてピカピカに磨いた肌から水滴を弾くと、エリカはバスルームを出る。

 バスタオルで頭を拭き、身体全体を拭いて乾かすと新しい下着を身に付けた。

「さて、時間まで眠りましょうか」

 下着姿の侭、ベッドへとダイブしたエリカは毛布を掛けて電気を消し、目を閉じてしまう。

 エリカ・ブランデッリの役割は、騎士として護堂の隣に立って戦う事。

 余計な力は消耗せずに、呪力も蓄えておかなければならない。

 それにしても……

「祐理は大変よね」

 エリカはそう思った。

 戦闘能力の無い祐理は、待っている事しか出来ない身であり、かといって彼女の霊視能力をユートは余り必要とはしていない。

 まあ、情報を得られるという観点からユートは彼女から【啓示】の術を受けているのだが、無ければ無いで闘えるのだから。

 出逢いが逆なら良かったのかも知れない。

 万里谷祐理が草薙護堂、エリカ・ブランデッリの方が緒方優斗と逢っていたら丁度良かった。

 今更な話だが……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 万里谷祐理は疲労からか眠っている。

 今朝方までユートへと、ちょっと大人な奉仕をしていた為に、肉体的にも精神的にも疲れていた。

 ユートの内から溢れ出た真っ白な欲望の塊が、祐理の黄色人種にしては白い肌の肢体を汚している。

 拙いながら祐理の手ずから出したモノだ。

 昔の──否、数ヶ月前の祐理なら明らかに考えられないくらい大胆で、こんな痴態を晒すなど本人でさえ思った事もない。

 何も出来ない自分、更には隣に立てる清秋院恵那の存在、そしてヴォバン侯爵の件が終わって暫く経ったある日の事……

 それら全てで雁字搦めになり、焦っていたというのも大きかったのだろう。

 こんなおバカを仕出かすとは思わない、穴があったら入りたいとはこの事。

 ヴォバン侯爵戦の後で、祐理はいつもの様にキングサイズのベッドの上で皆と寝ていた。

 夜中、寝苦しく感じて目を覚ましたらいつもは離れているユートが、祐理の体を抱きしめており驚愕をしてしまう。

 不思議なのは嫌ではないという事。

 だけどその時の寝言に、冷や水を掛けられた気分になった。

『……アーシア、ごめん』

 聞き覚えのない名前から彼方側≠フ人物だろうと推測したが、夢にまで視る相手とは誰なのか?

 ユートが気に入った娘を手当たり次第なのは知っているし、今更留め立て出来るとも思っていない。

 寧ろ、留め立てするなら排除されるべきは自分。

 彼方側≠フ娘達から視たら、横入りしている立場でしかないのだから。

 だけど、ユートが夢にまで視る相手ともなったら、ムクムクと黒い感情が沸き出してきてしまった。

 その後、それとなく訊いたら答えてくれる。

 幸い生きていたが護り切れなかったシスターの少女であり、その際に暴走した結果としてこの世界に来てしまったのだと。

 そして、その世界に於いて一番最初に見初めた少女である事を聞く。

 しかも元は非戦闘要員だったのが、修業と魔導具で闘えるだけの力を得た。

 祐理は嫉妬したのだ。

 アーシア・アルジェントという少女に。

「だからといってこんな、うう……」

 大胆にもユートの固く反り返るモノを手の内へと納めて、あんな事≠した恥ずかしさの余りベッドの中で祐理は煩悶としながら蠢いていた。



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