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第45話:吉備津宮 灯
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 結局、闘いにはユートが出る事になった。

 護堂はリングの劣化能力でなくば、黄金の剣の権能を使えないという事もあったし、何よりも鈴鹿山脈に近付くにつれ気温が高くなる状況で、この暑さに抵抗が不可能な護堂は闘う以前の問題だったからだ。

 エリカが術を掛けても、場合によっては破られてしまう可能性があり、その度に掛け直して貰うべく前線を離脱されては敵わない。

 ユートは祐理を連れて、鈴鹿山脈近くのホテルへと一泊をする事にした。

 祐理を連れて来たのは、霊視をして貰う為だ。

 ホテルにチェックインをした後で、ユートと祐理は鈴鹿山脈に入り鈴鹿御前だか悪路王だか知らないが、まつろわぬ神を一目視る事で霊視をしようと企む。

 まあ十中八九、鈴鹿御前だと考えているのだが……

 甘粕冬馬から一つの情報を得たユートは、鈴鹿御前と相対するなら少し注意をしなければならないなと、表情を顰めていた。

「(それにしても、何処かで聞いた話だよねぇ)」

 甘粕から齎らされた情報を精査し、聞き覚えのあるこの違和感に首を傾げる。

 実は正史編纂委員会へと所属する媛巫女の一人が、今回の事件を前後して行方不明となっているとか。

 彼の媛巫女は可成り特別な血筋で、この辺に実家が有るのだと云う。

 今は遥かな昔、鬼ヶ島と呼ばれた土地に媛巫女達を集めて、学業などをさせているのだとか何とか。

 夏休みだから実家に帰省していたらしいが、今回の事件に際して保護をしようと正史編纂委員会が動き、それで行方不明だと知ったのだと甘粕は言った。

 しかも今回、顕現をしたまつろわぬ神が鈴鹿御前の場合、彼女は割と深い関わりが有るらしい。

「祐理……今回の件なんだけど、どう考える?」

「は、はい。私……達……媛巫女、は……特殊な血筋……なのは、確か……ですから……」

「……あのさ、辛いのなら負ぶろうか?」

「へ、平気……です……」

 身体が生まれ付き虚弱であるとは聞いてはいたが、山登りは随分とキツいみたいで、中腹にまで差し掛かると精神力で登っているという感じだ。

「まったく!」

「キャッ!? 何を!」

「これで倒れられたら此方も困る!」

 ユートは祐理を抱きかかえると、有無も言わさずにさっさと登る。

「あ、あの……これは流石に恥ずかしいです。これなら負ぶられた方が……」

「知らん、強情を張った罰だと思え!」

「う゛……はい……」

 自身の行動の迂闊さか、或いは現状のお姫様抱っこ≠ノよるものか、真っ赤になりながら消え入りそうな声で返事をした。

「で、話の続きだけど?」

「はい、私達の様な媛巫女というのはそもそもにして特殊な血筋にあり、それを時の権力者達が血筋の管理をしてきたのです。現在は正史編纂委員会ですね」

「そういえばアリスからも似た事を聞いたな。日本の媛巫女は自分と同じ神祖の血脈だって……」

「行方不明になったという媛巫女、彼女は歴史的にも少し怪しい血筋らしくて、ですが媛巫女としての実力は確かなので、他の血筋の方々と共に美夜島学園にて修業や研究などを行っているそうです」

「ふーん……」

 やっぱり何処かで聞いた覚えのある単語が混じる。

 話を終えて暫く進むと、樹の上に座る和服姿の少女を見付けた。

 ボーッと空を見上げて、微動だにしない。

 小柄で金髪碧眼と、凡そ日本人らしからぬ容姿で、和服の上からでは解り難いものの、バストサイズはBもあれば御の字だろう。

「あれか?」

「はい、間違いないです」

 霊視が降りた様らしい。

「霊視は充分か?」

「はい」

「よし、合流呪文リリルーラ!」

 指標となる人物を想起、その人物の許へ転移した。

「ん? 気配を感じたが、気のせいじゃったか?」

 金髪碧眼の少女が視た時には既に誰も居ない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 完全にカンピオーネとしての気配を消し去る道具を使っていたユート、これは逆に自分も相手側の気配が掴めなくなるデメリットが有り、祐理の霊視に頼らなければ相手がまつろわぬ神か解らなかった。

 まあ、あんな場所に一人で居たのがまつろわぬ神の証左だろうが……

「王に祐理さん、どうでしたか?」

 指標とした人物、甘粕が訊ねてきた。

「霊視は成功した様だね。後は精査して戦術を組み上げるだけだ」

「そうですか。ああ、それと王にお客さんですよ」

「客?」

「はい、今回の事件で行方不明になった媛巫女のお連れさんでして、彼女自身も媛巫女なのですよ」

「そう、今は何処に?」

「ロビーです」

 ユートと祐理は、お客さんとやらに会うべくロビーへと向かう。

 ロビーに置かれたソファーに座る黒髪の人物、彼女から強い呪力を感じた。

「君が僕に会いに来たっていう媛巫女?」

 声を掛けると気が付いたのか、黒髪の人物は立ち上がって振り返り、ユートの姿を認めると頭を下げる。

 艶やかで美しい黒い髪はお尻でを隠す程に長くて、宝玉の如く赤い瞳は石榴の輝きを灯し、左側の髪の毛にはワンポイントで桃か桜の花弁をあしらう髪飾り、全体的に均整が取れている肢体、大き過ぎない形の良さそうなバストは、ユートの友人の一誠辺りなら飛び上がって喜びそうだ。

「初めまして、羅刹の君。私の名前は吉備津宮 灯と申します」

「知ってるみたいだけど、カンピオーネの緒方優斗、それから此方は君と同じで媛巫女の……」

「万里谷祐理です」

 互いに自己紹介をして、これからの事を話し合う為に移動をする事となった。

 ホテルは貸切状態となっており、現在は正史編纂委員会の関係者しか居ない。

 とはいえ、余り大っぴらに話すのもどうかと考え、ユートが使う部屋に移動をしたのだ。

「それで、話というのは……行方不明の媛巫女についてかな?」

「はい、羅刹の君」

「あ、待った!」

「はい?」

「羅刹の君じゃなく、名前で呼んでくれないかな?」

「で、ですが……我々の様な媛巫女は羅刹の君に不敬を働く訳にもいきません」

「過度の礼節は却って不敬だと思うんだ。君だって、【吉備津宮の媛様】とか呼ばれて嬉しいか?」

「う゛……それは!」

 痛い処を突かれたのか、口篭ってしまう灯。

 どうやら灯も過度な礼節は好まないタイプらしく、恭しい態度で頭を下げると一言告げる。

「では、これより失礼致しまして普段通りの話し方をさせて頂きます」

 ユートはそれに首肯して認めた。

「それじゃあ、改めて……行方不明になったのは私の幼馴染みで媛巫女、名前は坂上加奈と云うの」

「坂上……ね」

 確か鈴鹿御前の夫となったのは坂上田村麻呂。

 初代玩駄無大将軍……ではなく、初代征夷大将軍とも云える人物である。

 故に坂上田村麻呂とは、大将軍の号で呼ばれた偉大な人物として名を残す。

 この坂上田村麻呂の妻として、鈴鹿御前は坂上鈴鹿という名前の筈だ。

 だとすれば、行方不明の媛巫女の坂上加奈というのはその子孫という事。

 鈴鹿御前を神祖か何かと考えれば、媛巫女の血筋からは間違ってはいない。

「それと、加奈の家に有った筈の神具……【黄金の鉞】が無くなっていたので、恐らくは持ち出されているものと思われるわ」

「はぁ? 鉞って……鈴鹿御前が使ったのは三振りの妖刀の筈。文殊菩薩の化身と云われる智剣、大通連と小通連の二振りに、顕明連という朝日に当て三千世界を見通す剣だったぞ!?」

「それも間違ってはいないのよ。ただ、鈴鹿御前は更に後年まで生きて、とある血筋を遺しているの。その血筋こそが加奈の家に伝わるもので、黄金の鉞はその時に遺された神具だと聞いているわ」

 神祖の血筋やそのものであれば、寿命も永いだろうし容姿も変わるまい。

「それで、結局はどうして欲しいんだ?」

「加奈を捜したい、力を貸して貰いたいの!」

「その坂上加奈の写真か何かは有るか? 姿と名前が判れば僕の権能で追える」

「権能で?」

「そうだ。少しプライバシーを侵害するけど、確実に場所を掴めると思う」

「は、はぁ? 写真が有るのでそれを……」

 灯は自身が泊まる部屋に写真を取りに戻る。

 プライバシーの侵害──ユートが夢神オネイロスから簒奪した権能は、追うべき相手の情報を知る事で、夢の中で過去視する能力。

 目を逸らすくらいならば可能だが、対象を追うという事はつまり、睡眠に食事に御不浄に入浴まで全てを視てしまうという事。

 一応は早送りも可能とはいえ、護堂を追った際には心が折れそうになった。

 何が哀しくて男の御不浄や入浴シーンを視なければならないのか……と。

 戻ってきた灯がユートに写真を渡す。

「うん? これは……」

 おかっぱ、ボブカット、そう呼ばれる髪型で色素の薄い亜麻色で頭に白いリボンを付けていた。

 瞳の色は赤茶けており、トルマリンの様に輝く。

 それは問題無いのだが、服装は鈴鹿御前が着ていた和服と同じで、黒に金模様の物だった。

「これ、まつろわぬ鈴鹿御前が着ていた服と同じだ」

「え?」

「ひょっとしたら、この子は乗っ取られているのかも知れないな」

「そ、そんな……」

 決して有り得ない話ではないだけに、真実味があると考えられる。

「だとしたら、鈴鹿御前に攻撃を加えたりしたら!」

「本体が坂上加奈ならば、その子を傷付けてしまうという結果になる」

「──っ!」

 衝撃を受ける灯は……

「な、何とかならない?」

 震えながら訊ねてきた。

「難しいけど、不可能ではない……かも知れない」

 曖昧な言い方であるが、神とはいえ仮初めの肉体に宿っているなら、ユートであれば何とかなる。

 不可能ではないだろう、それでも難しいの域にあるから確約は出来ない。

「対象の魂に干渉をして、抜き出す技──積尸気冥界波で鈴鹿御前を坂上加奈から抜き出せれば、傷付けずに斃す事も可能だろうが、問題は魂の重さだろうね」

「魂の……重さ……?」

「以前に依代に宿る神に、この技を使った先輩が居るんだけど、一人では見事に失敗しているんだ。師匠の力も借りてやっとだな」

「…………」

 泣きそうな表情の灯に、ユートもどうしたものかと思案する。

 祐理も灯のそんな様子にオロオロしていた。

「アストラルサイドへ直に攻撃する術もあるけどね、魔術だから何処まで通用するかは判らない」

 積尸気冥界波でどうにもならなかった場合は、坂上加奈を殺す心算で闘うしかなくなると言外に言う。

「上手くいけば御慰みだ、失敗したら怨んでくれても構わない。仇を討ちたければ来れば良い。取り敢えずやるだけはやるよ」

「わ、判ったわ……」

 話は終わって灯が部屋から出ていく。

 灯を見送ると、ユートは祐理と共に夕飯を摂った。

「あの、優斗さん」

「うん?」

「本当に大丈夫なのでしょうか? 坂上加奈さん」

「……難しいね。草薙護堂では不可能だろう。だけど僕でも難しい。少なくとも全く無傷で……というのは無理だと思うよ。女の子な訳だし、一生残る傷は付けたくないんだけどね」

「はい……」

 ユートは珈琲を、祐理は緑茶を飲みながら話す。

「宜しいでしょうか?」

「甘粕のおっさんか。何の用かな?」

「はい、実は太宰府天満宮の方でもまつろわぬ神が顕れたのだと、馨さんの方から連絡がありまして」

「天満宮? だとしたら、菅原道真……か?」

「はい」

「しかも太宰府って事は、福岡県か……まさかと思うけど、僕に対処しろと言わないよな?」

「いえいえ、流石にそれは言いませんとも。彼方側は草薙さんが対処をしてくれる事になりまして」

 どうやら関東から九州に飛ぶらしい、随分と御苦労な話である。

「それで、僕に話を通したのは? 菅原道真の来歴はそちらでも判るだろう? 少なくともケンノーリングを使える程度の知識なら、護堂に与えられる筈」

 オリジナルを発動出来ずとも、劣化版【センシ・リング】で造る鍍金の剣≠ネら発動可能だろう。

 菅原道真がどの様な人生を送ったか、彼の人物だと鈴鹿御前みたいに彼是と、伝承やら神話やらをくっ付けたタイプでなく、大方が噺の通りである筈なのだ。

「まあ、そうなのですが。天神様といえば雷なので、何かしら対策は執れないかと思いまして、はい」

「僕は青いタヌ……猫型のロボットじゃないんだし、泣き付かれて『しょうがないな、のび太君は』って訳にもいかないんだが?」

「いやぁ、緒方王なら何とかならないかなと思ってしまうのは人情でしょう」

 悪びれない態度であるが冷や汗を流す辺り、下手な事を言って怒らせるのは、やはり恐いらしい。

「有るにしても対価を支払って貰うよ。正史編纂委員会に」

「やはりですか?」

「護堂じゃ、いつまで経っても払えないだろうに」

 支払い能力が皆無だし、踏み倒される気は無い。

「ハァー、馨さんに相談をしてみます」

 部屋の隅に寄ると携帯を取り出し、甘粕は上司である沙耶宮 馨へと掛けた。

 暫く経って戻ってきて、甘粕はオッケーが出たと伝えてくる。

 ユートが伝えた対価……それは甘粕と祐理を驚かせるには充分だったという。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ライトニング・ロッド……避雷針ですか」

「ああ、菅原道真は火雷神の類いだから雷だけは防げる筈だ。火までは知らん」

 火と雷は密接に関わり、それ故に菅原道真が火も使ってくる可能性はあるが、頼まれたのは雷対策のみ。

 後は知らぬ存ぜぬを貫く心算だった。

「さて、祐理」

「はい、我が君……」

 頬を朱に染めた祐理が、恭しくベッドの上で三つ指を付いて頭を下げる。

 電気を消し暗くすると、巫女装束に手を掛けて脱ぎ始めた。

 前回、ヴォバン侯爵との決戦前に同じ事をしたが、巫女装束がしわくちゃとなった上に、下衣までグチョグチョになってしまい困った為、今回は裸になってしまおうという事だ。

 別に本番≠ワでヤる気はないのだが、彼処まで盛り上がってしまうと頭の中が空白状態となり、覚えてはいるがシている時≠ヘ何も考えられず、トランスしてしまう一種の神憑りに近い状態となる。

 はっきり言うと、こんな姿でやると翌朝に気が付けば赤い染みがシーツに……なんて事になっていたとしてもおかしく無い。


 とはいえ、ユートは最後まで決してしないと確約をしており、約束を違えたりはしないと信じているからこそ、こんな破廉恥極まりない格好で、男性とえちぃ行為に耽る真似も出来た。

 勿論、ユート以外が相手なら絶対にやらないが……

 震えながらも祐理はソッとユートに近付き、唇を重ね合わせた。

 【啓示】の術、エリカの使う【教授】の術と同じ、知識を一時的に授けるモノである。

 唇を重ねると軽く開いた口の中に、ユートの舌が入り込んでくると、祐理の舌へと絡み付いてきた。

 そればかりか、口の中を余す事無く蹂躙してくる。

 祐理は呻き声を上げつつ霊視のイメージや知識を、ユートの中へ送り込んだ。


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あきゅろす。
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