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第34話:カンピオーネドライバー
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 世界とは絶妙なバランスの元に運営されている。

 幾つもの偶然と必然が積み重なり、一つの奇跡すら起こす事さえあった。

 そして奇跡の為の軌跡は物語を紡ぎ上げる。

 例えば……

「もうすぐハイスクールはサマーバケーションの季節ですわね」


「そうですね、姫様」

「折角ですからユートさんを誘って、旅行でもしたいですわ」

「そんな戯言はまず仕事を片付けてからです」

 ミス・エリクソンが執務机に乗せる紙の束。

 プリンセスという美称で呼ばれる女性──アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールは口元をヒク付かせた。

「う〜、頑張って処理してみせますわ!」

 サインを入れたり捺印を捺したり、書類を読みながら処理をしていく。

 身体が治ったのは良かったのだが、今まで現議長が片付けていた仕事が回ってきており、勝手に遊びに行く暇すら無い。

 というより、それを阻止するべく仕事を回しているというのが正解だ。

 カキカキ、ペッタン……

 アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールの苦行は続いていた……これはアリスの頑張り物語。

 頑張った末に全ての仕事が終わったのは、奇跡と呼ぶに相応しい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 例えば……

「やあ、君は……えっと、何クラニチャール……だったっけ?」

「リリアナ・クラニチャールです、サルバトーレ卿」

「ああ、うん。そうだったっけね。いや悪いね、僕も五回くらい会った人だったら名前も覚えるんだけど、君とはまだ三回目だろ」

 イタリアのカンピオーネである【剣の王】は、頷きながら白々しく言う。

「それでさ、君には訊きたい事があるんだよ」

「何なりと」

 イタリアはミラノの魔術結社【青銅黒十字】へ一度戻ったリリアナ・クラニチャールは、日本で起きた事を報告した後でサルバトーレ・ドニと【青銅黒十字】の連絡係、伝書鳩みたいな仕事に従事していた。

 今日は何らかの理由にて呼び出されたのである。

「ヴォバンの爺さんを斃した日本のカンピオーネってさ、護堂って訳じゃあなかったんだよね?」

「はい、草薙護堂も戦いましたが流石に成り立てだったからか、今は亡き候には勝てませんでしたから」

「ふーん、良いねぇ」

 ニヤリと口角を吊り上げる姿に、リリアナ・クラニチャールは勿論、苦労人な【王】の執事──アンドレア・リベラも嫌な予感しかしない。

「戦ってみたいな。日本……か。護堂が言っていたんだよね、『自分より強い王が居るから、先ずはそっちと戦ったらどうだ』って。行ってみるか?」

「御止め下さい、彼の王は自陣を荒らしに来る者には容赦がありません。候とてそれで生命を落とされましたし、イタリアが眠らされたのも我々が日本にアテナを呼び込む真似をしたからだと聞きます!」

 単なる旅行なら兎も角、戦いたいなんて理由で来日をしようものなら、容赦無く太陽に落とされ兼ねないだろうと、リリアナは平然とヴォバン侯爵に対して行ったユートを思い出すと、我が身を震わせた。

 今回、リリアナが助かったのは王の気紛れ。

 被害を出来るだけ出さない方向性で動いていたが、それを評価されて五体満足に帰されたに過ぎない。

 リリアナ自身がヴォバン侯爵に好きで仕えていた訳ではなく、護堂の庇護下に在ったのも良かった。

 だがサルバトーレ・ドニと共に来日して、ユートと敵対関係な立ち位置に居たとしたら、今度こそ終わってしまい兼ねないのだ。

 リリアナはアンドレアと共に、全力でサルバトーレ・ドニを止めなければ……使命感に燃えていた。

 主に自分の安寧と【青銅黒十字】の未来の為に。

 まあ、その後のイタリアで起きたとある出来事≠フお陰もあり、サルバトーレをイタリアに釘付けには成功したのだが……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 例えば……

「護堂、夏休みは私の故国イタリアで過ごさない?」

「はぁ? 何でだよ」

「勿論、私が護堂と一緒に居たいからよ」

「いや、それなら日本でも同じだろう?」

「あのね、護堂。言いたくはないけど貴方ってあの方に何を仕出かしたか理解はしてる?」

「あの方?」

 天上天下唯我独尊を絵に描いた様なエリカが勿体振った言い方をする相手は、自分より目上の相手のみであり、この日本に限るなら相手は彼≠オか居ない。

「俺が何をしたんだよ? 寧ろ妹に手を出された上、あんなハーレム気取りされて文句を言うのは此方なんじゃないか?」

 エリカが『ハァー』と、あからさまな溜息を吐く。

 まるで、『貴方って本当にバカね』と言われたみたいで大いに不満を感じる。

「妹さんについては彼女の意思を尊重すべきでしょ。兄とはいえその行動に干渉すべきではないわ」

「む……」

 妹──草薙静花がどうしてユートに懐いているか、護堂には全く解らない。

 だが、確かに過干渉するのはみっともない気がしないでもなかった。

 一方のエリカからすると静花の行動は寧ろ推奨し、後押しさえしたい。

 護堂があの件≠見逃されたのは、静花の存在が大きいと感じたからだ。

 最古の魔王、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンを殺したユートは、魔王の中でも上位の実力者。

 護堂が戦っても勝ち目は薄いというか、まず勝つ事など不可能だと考える。

 そんな護堂が未だに殺されないのは、静花と仲好くなっていたからだと考察をしていた。

 静花の兄を無碍に殺せば静花は悲しむし、何よりも戸惑う事になるだろう。

 身内には甘いユート故、静花が護堂(あに)を喪って悲しむのを避けた、その様に思っている。

 限度があるにしても護堂の無事がある程度は保証されているのも、草薙静花のお陰だと云えた。

 どうやって手懐けたのかは知らないが……

 そして護堂がユートに対してやった事、サルバトーレ・ドニにユートを狙う様に仄めかし、日本に誘い兼ねない事を行っている。

 以前に、エリカを含んだイタリア魔術結社【七姉妹(セブンス・シスター)】の合意の許、護堂にゴルゴネイオンを託して、アテナを日本に追いやった訳だが、それで怒りを買っている。

 護堂のした事が切っ掛けになり、サルバトーレ・ドニが来日してユートに剣で襲い掛かったら、間違いなく護堂が殺されるだろう。

「貴方、サルバトーレ卿にあの方と戦えって唆したのでしょう? 卿が来日して暴れたら、護堂に原因アリって事であの方に殺されても文句は言えないわよ?」

「あ!」

 思い出したらしい。

 相変わらず都合の悪い事には蓋をし、目を逸らしている様で嘆息してしまう。

「だからこそ、そうなる前にイタリアに赴き、卿から興味をあの方から貴方自身に移さないと、それに日本が戦場になったらどうする心算かしら?」

 アヴァロンという結界を張るだろうが、その前に戦いが始まれば少なからずの被害は出る。

「それしかないのか……」

 人、それを『自業自得』とか『身から出た錆』などと云う。

 こうして少し本来の世界線とは異なるが、草薙護堂の夏休み旅行が決まる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして例えば……

 ピンポーン!

〔どちら様でしょうか?〕

「開けよ、緒方優斗に話があって訪れた」

 双子座(ジェミニ)の迷宮により、インターホンを鳴らす者など皆無なマンションに来客があり、その事がこの先の夏休みに大いなる影響を及ぼした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 清秋院恵那──日本呪術界に於ける四家の一つである清秋院家の次期当主で、媛巫女筆頭の地位に在る。

 性格的には自由奔放で、野生児が如く自然と調和しており、堅苦しいのが苦手だと自ら言う程。

 その癖、家の厳しさ故にやろうと思ったら幾らでも清楚な大和撫子を演じられるのだと云う。

 そんな恵那がマンションを見回して言った。

「う〜ん、ひょっとしたら恵那って凄く出遅れた?」

 日本の媛巫女、七雄神社に勤める万里谷祐理。

 その妹で媛巫女見習いの万里谷ひかり。

 イタリア国籍な日本人のクォーター、アリアンナ・ハヤマ・アリアルディ。

 日本の【民】の術師の中でも大家……炎術師・神凪一族の分家の大神家長女、大神 操。

 中国国籍の少女、翠鈴。

 此処には居ないが、実は【グリニッジ賢人議会】の名誉顧問、アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールや、五嶽聖教の羅濠教主、更に草薙護堂の妹の草薙静花も加わっている。

 翠鈴に関しては誤解だったりするが、確かにこれは出遅れた感が溢れていた。

「へえ、こんな丸っこいのの中で修業とかするんだ。ねえ、王様。恵那も使って良いかな?」

「構わないけど」


 中には水垢離が出来そうな滝や湖もあり、模擬戦に困らないシステムも存在しているし、何よりも清浄な世界であるが故に、山籠りなどしなくても済むという利点は嬉しいものだ。

 ユートはこのダイオラマ魔法球の中にも工房を持っており、時間の掛かる研究開発などにはこの中で時間加速させて行う。

「僕は暫くウィザードライバーやウィザードリングの開発をするから、そっちの事は任せるよ」

「はい、お任せ下さい!」

 アリアンナが十九歳にしては薄めな胸を、ドンと叩いて請け負った。

 まあ、ウィザードライバーやリングを造るとは言ってみても、飽く迄も似て非なる物でしかない。

 何よりもあんな騒がし過ぎるベルトはちょっと……

 仮面ライダーオーズでも割と騒がしかったのだが、ウィザードライバーの場合だと輪に掛けて騒がしい。

 ウィザードライバーを起動させるだけで《ドライバーオン》と鳴り、発動させると《シャバドゥビ・タッチ・ヘンシ〜ン》とリングを使うまでエンドレスで響き続ける。

「そういや、造るに当たっていけに……テスターが要るんだよな。僕自身でやっても良いけど、確実に使わない僕より使う人間を用意した方が良いよな……」

 例えば内なる力を使い熟せてなかったり、人間離れして死に難かったりすると理想的なモルモ……テスターとなるのだが……

「居たな、碌すっぽ力を使えてない癖して妙に好戦的な似非平和主義者とか」

 しかも御誂え向きな事にそいつ、リングで力を出す為の引き出しが多い。

 ニンマリと笑うユートの表情は、面白い材料を見付けたマッドに似ていた。

 取り敢えずは、制御系をどうにかしなければならないだろうし、本体を造らなければ話にならない。

 プロトタイプだし形的にはウィザードライバーその侭で、リングも同じくその侭に造れば良かろう。

 せめて色くらいは変えるにしても、形を大幅に変える必要性も無いし。

「そういやアイツ、転移とか招喚系の魔術とかも使えないずぶの素人だよな」

 ならば【コネクト】とか【テレポート】といった、魔法系のリングも必要になるかも知れない。

 科学も何処ぞのマッド系が数人掛かりで教えてくれたから、ユートも既に一人で科学的なモノを開発出来る素地があった。

 あの【科学に魂を売った少女達】に鍛えられたし、出来ない理由は無い。

 後日、ユートは放課後になって草薙護堂が下校する最中に狙いを定めると……

「喰らえ、紫色の睡魔薔薇(スリーピング・ローズ)」

 眠らせて拉致を敢行。

 何処かの廃ビルに手術台を設置し、カンピオーネでも壊し難い星雲鎖で括り、大の字に寝かせてやる。

「って、おい! こいつはいったい何の真似だよ!」

「其処は『やめろ、ショッカー!』だろ、ネタ的に」

「ショッカーって何だ!」

「チッ、浪漫を解さない奴だなまったく!」

「何で舌打ちされてんだ? 俺か、俺が悪いのか?」

 叫ぶくらいならネタに走れと、ユートは声を大にして言いたい。

 折角、中二病も真っ青な特殊能力を持ってるのに。

 これが舌打ちの理由だ。

「は、外れねーっっ!」

「アンドロメダの星雲鎖と同じものだ、簡単に外れる訳がないだろう?」

 チュイィィィィン!

 手術台の周囲に付いているドリルが回転を始める。

「ちょっ!」

 ユートの手にはメスやら鉗子やら、手術道具が握られていた。

「まっ!」

「改造手術を始めよう」

「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええっっ!」

 草薙護堂の絶叫が手術室に響き渡ったという。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドカァァァアアンッ!

 壁を突き破る音と共に、赤いドレスを身に纏う金髪の少女が、その手に魔剣──クオレ・ディ・レオーネを持って現れた。

「護堂、助けに来たわ!」

「ふむ、遅かったなエリカ・ブランデッリ」

「なっ! 護堂を拉致したのは御身なのですか!?」

「その通りだ。だがエリカ・ブランデッリよ、お前は一足遅い!」

「どういう事?」

「最早、改造手術は終わっている。草薙護堂は改造人間……カンピオーネ男となったのだ!」

「そ、そんな……」

 注:改造をしたも何も、初めからカンピオーネ。

「後は脳改造さえしてしまえば、世界に席巻する魔王となるであろう!」

 注:脳改造なぞしなくても既に破壊の魔王。

「な、何て事なの!」

 戦慄するエリカ。

 実にノリノリである。

「エリカ、遊んでないで助けてくれー!」

「言ったろ、改造手術は終わっている……と。脳改造は冗談だけどな」

 パチン! と指を鳴らすと鎖が外れて自由となる。

 護堂は不満そうな顔で起き上がり、コキコキと手首を動かしながら手術台から降りて立ち上がった。

「それで王、本当に護堂に何をなさったのですか?」

「草薙護堂の強化」

「強化?」

「正確にはパワーアップという訳じゃなく、権能を使い易くしたって感じか」

「……?」

 エリカも護堂も首を傾げてしまう。

「護堂が闘いで耀くのは、基本的にボス戦。雑魚相手には手も足も出ない上に、制限が厳し過ぎる。だから造ったんだ、ウルスラグナ十の化身を劣化させてでもある程度、自由に使えるように……ね」

 まあ、本音はプロトタイプとしてウルスラグナ十の化身という丁度良い素材でテストしたいだけ。

 一応、護堂にもプラスがあるから問題は無い。

「それで、それはどの様に使うのでしょう?」

「先ずは護堂がドライバーオンと音声入力」

「へ? 音声入力……?」

「護堂、やってみたら?」

 エリカに促されて渋々、起動ワードを言う。

「ドライバーオン」

《ドライバーオン》

 腰の辺りから電子音声が響き、見てみれば派手な掌のバックルが付いたベルトが装着されていた。

「で、バックルの右側に付いたスイッチを下げる」

「こうか?」

 ガチンと下げると……

《シャバドゥビ・タッチ・ヘンシーン♪》

「うわ、何だよ! 歌?」

 行き成りベルトが歌い出した。

「歌は気にするな。それでリングを左の指に填めて、バックルに近付ける。で、変身! と叫ぶ」

「叫ぶのか?」

「そう、叫ぶ」

 言われた通りに、護堂は渡されたリングを左の指に填めて叫んだ。

「変身!」

 自棄糞気味にだが……

《ウルスラグナ……プリーズ……》

 魔方陣が顕れ護堂が通過すると、服装が戦闘向きな装束に変化して軽装鎧な姿へと変わっていた。

「な、何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

「カンピオーネ用の強化戦闘装束。まあ、仮面ライダーウィザードを参考にしたんだがね」

 主にベルトの形状や電子音声方面で。

 勿論、制式採用型となると色々と変更をするが……

 これはプロトタイプであるが故だ。

「右側の指には此方の権能リングを、その場合はスイッチを反対にする」

「えっと、こうか?」

 ガチンとスイッチを反対に操作すると、バックルの掌が元の状態に。

《ルパッチケンノー・タッチ・ゴー!》

 更にリングをタッチ。

《オウシ! プリーズ》

「……最早、何も言わん」

 何故か落ち込む護堂ではあるが、実際に【雄牛】の権能は発動していた。

「劣化版だけど、安定して権能が使えるツールだ」

「へぇ、良いじゃないの。音声はアレだけど」

 その後、権能がどの様に発動するのかを教えて貰ってから帰る。

 【雄牛】
 三分間だけパワーが数倍に引き上がる。

 【戦士】
 つたい知識でもある程度は神格をきり裂ける剣を生み出す。

 【雄羊】
 ダメージの快復、呪力の消費量に従って快復力も上がる。

 【強風】
 リリルーラ。

 【山羊】
 ミナデイン。

 【鳳】
 コロ先生。

 【猪】
 機械化された肉体を持つ猪が招喚される、早い話がバイクの召喚。

 【白馬】
 ニ〇〇〇℃の火球を操作する事が可能。

 【駱駝】
 僅かなダメージでも発動が出来る。

 【少年】
 ????


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